第5話 槍の作成と問題発生
「全く、せっかく同じ部屋にしてもらったのに、襲わないなんてひょっとしてカルゥ様はあちらの趣味をお持ちなんでか?」
宿を取り、次の日の朝一の朝食時にアリミアがそう呟く。
「んな、訳ないだろ?」
「なら、どうしてなんです?
幼女趣味に昨日のアレで目覚めたと思ったんですが…」
「あれはやっぱりわざとだったのか!」
昨日の魔導図書館でのことは全部計算だったのか…。
「まぁ、勿論半分以上は本音ですけどね」
「その言葉は今更信用してもらえると?」
「信じて貰えなくてもいいですよ。
私としてはカルゥ様と一緒にいれることが幸せの一つなんですから」
相変わらずサラッとこちらが困る言葉を言ってくるな…。
「また無視を決め込みましたか…。
そういえば、カルゥ様は次の契約する武器を考えてますか?」
突然として、話を変えるがアリミアとしては元々はこれを話す気でいたのだろう。
「まぁ、一応は…」
「なんですか?
また剣ですか?」
「剣じゃなくて悪かったな。
今回は槍だ」
そう言うとアリミアは首をかしげる。
「槍ってカルゥ様って作れましたっけ?」
「だから、これから習いに行くんだよ」
そう言って食べ終えた食器を宿の人に渡す。
アリミアは納得したようで手を叩いていた。
**************
「よう、おっさん」
「おう、坊主。
今日は何の用だ?
工房なら空いてるぜ」
俺は店に入り、おっさんに挨拶を交わすとおっさんは俺が工房を使う前提で話を進める。
「おっさん、お願いがあるんだ」
「どうした、急に改まりやがって…」
「槍の作り方を教えてくれ」
俺は頭を深く下げる。
本来、鍛治師に武器の作り方を教えてもらう場合、正式に弟子入りを行わねばならない。
しかし、俺としても時間的余裕などは無い。
父さんや母さんの情報を集めなくてはならない。
実際、俺自身は父さんと母さんは死んだとは思っていない。
逆に囚われている可能性を考えている。
おっさんは目を瞑ったまま考えていた。
「教えることは出来ない。
でも、これを見な。
俺とお前の父親の師匠が作った槍だ。
習うのではなくて、ここから学ぶところを学んでいけ」
俺におっさんは二本の槍を投げる。
一つはいわゆるランスと呼ばれるものである。
もう一つは長柄槍と呼ばれるものである。
「ありがとうございます。
練習段階で出来た武器は出来が良かったらこちらに降ろします」
「おう、ありがとよ。
教えることは出来ないがお互いに職人としてなら談義は出来るから早めのうちにある程度のものはできるようになっておけ」
本当にいい人だ。
とりあえず、試行錯誤を開始するか…。
「そういえば、聖剣の子はどうしたんだ?」
「ああ、あいつですか?
素材集めも兼ねて冒険家の登録に行ってると思いますよ」
**************
一方、その頃。
冒険家ギルドでは。
「ふぅ、無事に登録は完了しましたね」
アリミアは登録を済まして掲示板を眺めていた。
そもそも、冒険家というのは慈善団体から始まったギルドである。
主に地図の作成や、魔物などの討伐や記録、他にも迷宮と呼ばれる場所の探索などと様々なことをこなしている。
名前に合って、主に騎士などが対応に行けない樹海の奥深くに行くこともある。
この仕事で必要なことは強靭な精神力と絶対的な方向感覚と危機感知能力などの過酷な環境にて生きるために必要不可欠な要素である。
「有益な情報は少ないですね」
ちなみに、掲示板には依頼などが貼られているのではなく、魔物の動向や希少種などの発見報告などが見られる。
これにより、冒険家達は自分の実力に合ったエリアに行き、討伐を行い証明となる部位を提示してお金を稼いでいる。
「とりあえず、危険区域にいる亜竜の群れでも襲いますか…」
因みに一般基準で言うなら亜竜は強者の部類に値する。
しかし、魔剣や聖剣にとってはただの鳥と殆ど同じである。
そもそも、亜竜であっても竜種との差は歴然と言われているのだ。
そこから考えると強力と呼ばれる魔剣や聖剣にとって亜竜が弱いのは不思議ではない。
アリミアはそうして小走りに亜竜退治に出かけるのだった。
*******カルゥ*******
「まぁ、ツルハシも渡してますし、危険区域の始め辺りの鉱石くらいはとってきてくれると思いますよ」
俺は槍を練習に三百本作成したくらいでおっさんに休憩を言われてアリミアに頼んだことなどを話す。
「そうか、お金は払うから少し分けてもらえるか?」
「別に大丈夫ですよ」
「ありがとう。
にしても、流石はあいつの息子といったところか…。
こんな短時間で三百も槍を作るなんて達人でも考えられん」
「いや、軽く作っただけなので一本一本の時間はかかりませんし、重視してる部分が違いますから、それぞれ武器として成り立っていません」
俺はそう言って、鋳潰す予定の槍を眺める。
「たしかに、武器として考えると命を預けたくない武器だな」
全くもってその通りである。
まぁ、お陰である程度の作りはわかった。
あとはこれを超える技術を探すだけだ。
それも簡単では無い…。
本契約をさせる為にも、もう一つの練習してるものも早くものにしなくてはな…。
「にしても、ランスは最初のうちだけということは、長柄槍の方にするのか?」
「まぁ、そのつもりだが次の時に作る予定だから着々作るかな?」
「それは助かる。
うちの客は長柄槍よりランスが多くてな…」
なるほどな…。
でも、ランスって形状的に作りにくいんだよな…。
「さて、始めるか…次は試作品だな」
こうひて、一週間もの間、俺は槍の作成にかかっていた。
**************
そして、一週間後。
俺は本格的な槍の製作に取り掛かろうとしていた。
「よし、体調も万全。
魔力も充分。
アリミア、素材の方は?」
「えっと、黒結晶と天黒鉱石と亜竜の素材ですね」
「亜竜はともかく、その二つは聞いたことないな」
「この土地でしか採れない鉱石みたいです。
あとはオーソドックスなアダマンタイトやオリハルコンとミスリルの用意は出来てますよ」
俺はそれを聞いて頷くとアリミアとおっさんにアイコンタクトを送る。
「分かったって、お前がいいと言うまで中には入らないし入れる気もない」
「大丈夫ですよ。
カルゥ様の邪魔は何人たりともさせません」
「ありがとう」
俺は好意に甘えて、一人になった。
「さて、俺の全力を尽くして作る槍は、鬼が出るか蛇が出るか…」
俺は工具を取り出して素材を一個一個、置いていく。
そして、一つ一つの選別を行い、製作に取り掛かる。
*******アリミア*******
カルゥ様が槍の作成に取り掛かり始めた。
この日ばかりはこの場から離れる訳には行かない。
私は店の試し切りの場にて気持ちを落ち着けていた。
何時間経ったのだろう。
工房の方では幾度となく、打ち付ける音が響いてくる。
時々、止まったかと思うと暫く間が空いて、また打ち付ける音が響き始める。
そんなことが約六時間も続いていた。
もう、日は高くなり人通りも多くなった頃…。
「この場所にカルゥ=レーヴィンがいると聞いてきたのだが…」
一人の来客が来た。
すぐにルギンドのおじさんが対応し始める。
「魔術部隊の隊長様が何のご用ですか?」
「先程も言った通り、カルゥ=レーヴィンという男がここにいると聞いた」
どうやら先程、カルゥ様の名前を言っていたのは聞き間違いではなく、本当のことだったようだ。
しかし、カルゥ様に何のご用が?
「そのカルゥとやらがどうかしたのか?」
「いや、我々魔術部隊の勧誘だ。
魔導師級の魔力を保有した人間を逃す訳にはいかない」
なるほど、あの時の魔力測定の結果が上に回った訳ですか。
でも、これは厄介なことに…。
「なるほど、しかし今はあいつに会わせる訳には行かないな」
「そう言うのもいいが、このままだとその男は敵のスパイと見做されて捕まるぞ。
よくても永久に監獄の中、悪くても処刑だな」
「どういうことだ!」
ルギンドのおじさんが怒鳴り声をあげる。
それもそうだろう。
カルゥ様が逆賊としての言い掛かりをつけられて殺されるのだから。
でも、これはある程度の予想はできていた事態だ。
これを解決する方法は一つだけある。
しかし、それでも殺される可能性は高い。
「まず、彼はつい最近この街に来たという報告が上がっている。
そして、どこの所属になる訳でもない。
要するにどこかに所属をしていると判断されている。
その所属されているのは今現在、数々の国と戦争を起こしている帝国という疑惑があげられている」
「とんだ言い掛かりを…。
あいつはつい最近、帝国との戦争で難民になったんだよ!」
「その証拠は?」
その言葉にルギンドのおじさんは口を閉じる。
たしかに言い掛かりだが、負の印象を一度持ってしまえばある程度の状況的証拠と切迫した状況なら処刑くらいなら起こせる。
それは少しでも危険を回避するために定められたルールなのだ。
「しかし…」
「もういい。
先程から奥の方で何やら大きな音が聞こえるなそこを通してもらおう」
魔術部隊の隊長は歩きだす。
私は前に出るのを堪える。
ここで我慢しなくてはルギンドのおじさんが罪を被ることになる。
でも、カルゥ様が…。
私はどうすればいい。
普通に考えたら悩むまでも無く、カルゥ様を優先にする。
しかし、カルゥ様を助けて頂いた方だ…。
どうすれば…。
そうする間にルギンドのおじさんの横を通る。
その瞬間…。
「そこには、あんたのような覚悟無しの人間が踏み入れていい領域じゃねぇ…。
あいつがいましていることは俺達、鍛治師にとって命と等価のものだ」
そう言って魔術部隊の隊長の人のローブを掴む。
「ほう、私をここで止めるということは相応の覚悟があったのかとか?」
「たりめぇよ!
鍛治師たるもの戦士に負けない命の覚悟は必要なんだよ!」
「なるほど…。
では、その覚悟に称して私の覚悟で君の手を離させてみせよう」
瞬間、ローブの中に隠し持っていた剣を男は抜き、ルギンドのおじさんに振るう。
カンッ
その瞬間を狙い、私は魔剣のレプリカを握りしめて、止めに入る。
「悪いけど…これ以上やるなら私が相手になるよ」
私自身、ものすごく頭にきていた。
仕方ないこととはいえでも、カルゥ様を捕らえようとしたこと。
そして、カルゥ様の友人であるルギンドのおじさんを殺そうとしたこと。
「君は…?」
「聖剣アリミア・ハートとだけ覚えておいてくれていいよ」
私は剣を構えて相手と対峙する。
そして、お互いにぶつかり合う瞬間だった。
バタンッ
「おっさん!アリミア!
完成したぞ!」
呑気にも黒い漆黒の槍と黒い装飾を施されたネックレスを持ったカルゥ様が出てきていた。
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