第4話 街と魔導図書館
「街が見えてきましたよ!
主人、見てください」
アリミアが俺の眠い思考に大きな声で覚まさせる。
「ああ、分かってる」
俺は起き上がり、馬車の中から街を見る。
「意外とでかいな」
俺達は一行は盗賊の騒動の後処理を終えて一週間の間馬車に乗って街を目指していた。
「にしても意外だな。
本当に盗賊のくせして馬車なんて持ってるなんてよ」
因みに後処理については俺と戦った盗賊を含めて全員をアリミアが『魂喰らい』で魂を喰らい。
魔剣に関しても同様だった。
俺はアリミアに魔剣が折れた後の精神体を移し替えることができないのかと相談して見たが…。
普通の死と精神体の死というのは少し違うらしい。
魔剣や聖剣に宿る精神体というのはその剣と同調させている部分がある。
同調に必要な部分というのは一部残っていれば直るが、完璧に欠損してしまうと直らなくなるらしい。
これは初めて知ったことで驚いたりしたが、アリミアの強化に繋がったからよしとするか。
因みにアリミア(聖剣)に新しく刻まれた能力がある。
『アイテムボックス』『刀身衝撃』
の二つである。
『アイテムボックス』は俺と戦ったあいつが持っていた特殊能力らしい。
ていうか、さっそく俺の『武具収納魔法』と被りかよと泣きたかったが、アリミア曰く『武具収納魔法』とは違い最大容量が大きいが限界があるから武具は俺が持っておいてと言われた。
おそらく、嘘ではないが俺の為に言ったことのような気がする。
『刀身衝撃』はガチの近接戦闘用。
刀身が当たったところから使用魔力に応じて複数の衝撃を与える。
これまた、魔力抵抗力が高い人間や剣の類には効果が薄い。
「馭者についてありがとうございます」
「いいって、俺達はあんたに助けてもらえなかったら今頃、奴隷になって女は慰み者、男は鉱山に送られる状態になっていたんだ」
そう、馬車に乗っている人や馭者をやってくれている方々はあの時、盗賊に捕らわれていた人達だ。
檻に出すと同時に自分達がやっと助かったことを自覚したのかそれまでずっと心を閉ざしていたようだ。
「そういえば、俺は前も話した通り戦争で難民になってしまったのですが、あの街は?」
「当ても無く歩いていたのかよ!
まぁ、それのおかげで俺達は助かったから感謝するけどよ」
俺はそう言われて苦笑いしかできなくなった。
「あの街は『ルグーナス王国』の首都だ」
「その街って…」
確か、昔…行ったことが。
少し俺は懐かしくなりながら街に着くのを待つのだった。
**************
街に入った俺達は…。
「主人、あそこに何か美味しそうなものが!」
大はしゃぎだった。
主にアリミアが…。
「んでは、旦那。
俺達はこの辺で…。
何か困ったことがあったら言ってくでせぇ」
馭者をしていた男が最後にそう挨拶をして去っていく。
「主人!
早く早く!」
「ちょっと待てよ。
その前に用事があるんだ」
俺はそう言ってアリミアをなんとか宥めて、ある場所に向かう。
カランッ
と扉が開く際に音が鳴る。
どうやら上に人が出入りした時に分かるように音が鳴るようにしてるらしい。
「おう、いらっしゃい…坊主!」
「おう、久しぶりだな。
ルギンドのおっさん」
ここは、父さんの知り合いの鍛冶屋の店である。
未婚で名前はルギンド=ラスディー。
「久しぶりってお前、生きていたのか?
確か、お前の国のところで戦争があったんじゃ」
俺はそう言われて少し黙ってしまう。
「悪い、少し野暮なことを聞いた。
にしてもよかったぜ!
レーヴィンのところの坊主が生きてるだからよ!」
「ありがとう。
少し話したいことがあるんだ。
あと、お願いもあってな…」
「そんな、気を使う間柄じゃないだろ?
大丈夫だ。
儲かっていないわけじゃない。
話を聞こう」
俺はそれから、父さんと母さんが死んだ可能性があること、俺の能力について話した。
実際、アリミアには店の前で待機してもらい後から紹介した。
「そうか、よく分かった。
しばらくの間、この工房を使っていい」
「今のでよくお願いの内容が分かったな。
その代わり店の手伝いをするよ。
宿は盗賊を倒した時に手に入ったお金がある」
まぁ、これで工房が使えるのは嬉しい。
やはり、俺は戦闘よりこっちの方が性に合ってるようだからな。
「にしても、見えねぇな。
これで聖剣か…伝説にはあるが本当に姿を顕現できるとはな…」
「恐縮です」
アリミアは少し居心地悪そうに呟く。
「んで、今日は報告だけか?」
「ああ、旅の疲れもあるしな。
早めに連絡を入れようと思って…」
俺はそう言って店から出る。
その後、一回大きく伸びをする。
憑き物がとれた心地よい感覚が身体中に巡る。
「んじゃ、次に行くぞ」
「え、次はどこに?」
アリミアが俺の言葉に不思議そうに尋ねてくる。
「そりゃ、勿論。
ルグーナス王国が誇る。
国一の魔導図書館に決まってるだろ!」
俺はそう言って魔導図書館に向かう。
「はぁはぁ、強引なのはいいんですけど…もっと別の強引が良かったです」
「よし、入るぞ」
「って、無視ですか!」
いや、だってそんなこと言われても俺が困るし…。
俺には幼女趣味は無い…とは言い切れない気がアリミアを見てるとしてくるが…無い。
入ると受付があり、そこでどうやら入室審査を受けるらしい。
「入室許可証を持ってない方はこちらにどうぞ」
俺達を見て受付の方がそう言ってくる。
「えっと、入室許可証が欲しいのですが…」
「はい、ではお名前をここに記入してこの水晶に手をかざして下さい」
俺はサクッと名前を書く。
「出身地などは大丈夫何ですか?」
「冒険家の方がいらっしゃいますのでそこらへんを聞くのは手間がかかりますので…」
なるほど、一々身元の確認なんてしてたら無駄に税も消費するだけだしな。
「えっと、カルゥ=レーヴィンさんとアリミアさんですね。
では、水晶に手をかざしてください」
俺が手をかざそうとした瞬間。
『主人、あの水晶なんですけどおそらく魔力測定だと思います』
『ん、それがどうかしたのか?』
『あの、前も話した通り主人の魔力は高いので騒ぎを起こさないように魔力を抑えてください』
なるほど、よく分からないがやってみるか…。
俺は魔力を抑えて水晶に手をかざす。
瞬間、水晶は異常なほど輝き出す。
「こ、これは…大賢者級?」
やばっ、抑え切れなかった。
「こ、これはきっと壊れてるかもしれません。
少々、お待ちを…」
受付の人はそう言ってものすごい速さで水晶を持って走り去って行った。
「私が教えるから主人、少しいい?」
アリミアがため息を吐きながら俺に魔力の押さえ方を教えてくれる。
「お待たせしました。
ささ、手をかざしてください」
俺は次は間違いの無いように手をかざす。
瞬間、先程より幾分か弱い光が放たれる。
「え、えっと魔導師級ですね…。
あ、アリミアさんもかざしてください」
先程に比べてはマシだが、少しだけ受付の人の顔が引きつってるように見える。
アリミアが手をかざすと俺より弱い光が放たれる。
「ホッ、魔術師級ですね。
では、発行料金として80テル(お金)を頂きます」
落ち着いたのか、先程より余裕のある表情で仕事をまっとうし始める。
俺達はお金を払い、無事、入室許可証を手に入れた。
そういえば、アリミアがアイテムボックスを使用した時、受付の人の顔が引きつっていたのは気のせいだろうか?
「しかし、魔法とは無縁と思っていた俺だが、人生何があるか分からないな」
俺はそう呟き、基礎魔法の本を読みに行く。
因みに、奥の方にお金が必要だが個人で魔法を使っていい部屋がある。
さらに個室であり、何をしているか見られないのがポイントだ。
俺は基礎魔法などの本を持ち、アリミアと一緒に向かう。
「女の子を個室に連れ込んで何をするんですか?」
と言われたが無視を決め込む。
アリミアはふつうに可愛いし、そういう気持ちにならなくは無いが、そんなことをするつもりは毛頭無い。
「ってまた無視ですか⁉︎」
「ほら、早く行くぞ。
二人で考えた方が分かるだろうし」
「少しは反応してくれても…」
そう言っているが、そこまでしょぼくれた様子は無い。
単なる冗談のつもりだろうし、本気で捉えたら捉えたで困ると思うし…いや、こいつは多分困らない。
ニッコリと笑って抱きついてくるのが目に見えてくる。
ここ一週間でよく分かったことだ。
おかげで馬車内でも幼女趣味のレッテルが貼られた。
まぁ、そうこうして魔法について始めた。
流石は魔力がとんでもないだけはあって、全属性を一応、使えた。
一つ、残念な点は攻撃、防御系統の魔法が全然使えない点だ。
その代わり、補助、支援、付与、錬金系統の魔法がとんでもないほど使えた。
因みにアリミアは攻撃、防御、回復、支援系統がとても使えて他は普通と言ったところだった。
「属性の適性があることは知ってましたが、まさか、系統にも適性があるなんて…」
アリミアがそう呟くのに対して俺は頷く。
「それは思ったが、何より魔剣の魔力消費が意外と激しかった…」
実は他にも最近知った魔剣の魔力波の練習もしており、俺とアリミアはそっちでとても疲れてしまった。
「いや、でも普通は千回も撃ったらぶっ倒れますよ」
「そうなのか?」
慣れるまで放っていたから、数なんて気にしていなかったな。
「そういえば、主人。
少し意見とお願いがあるのですが…」
「何だ?
ある程度だったら聞くつもりだが」
そう言うとアリミアは照れ臭そうにして言い始める。
「お願いなんですけど、呼び方を変えさせてもらってもいいですか?」
「呼び方にもよる」
「例えば…ご主人様!」
「却下」
俺にどうしろと?
周りから見たら幼気な少女をご主人様と呼ばせてる変態になってしまう。
ただでさえ主人でも危ないのに…というかアウトか…。
そう考えると呼び方を変えるのはいいことだな…。
「では、お兄ちゃん!」
「やめてくれ…」
何のプレイを俺に求めているんだ?
「なら、カルゥ様で」
「…これが一番…まともかな?」
少し考えたがあくまで俺を目上としてしか呼ぶつもりは無いと思うからこの辺が落とし所だろう。
「んで、意見の方は?」
「えっと、それは…あまり実は私としても少し嫌なんですけど…」
なら、何故言おうとしている?
でも、必要なことなのかもな…。
そうじゃなきゃ嫌でも言おうとはしないだろう…多分。
「そろそろ、私以外の契約を結んで見たらどうですか?」
「…あ、その話か…元よりそのつもりだ」
「そうでしたか、余計なことをしましたね」
「そこまででは無い。
言ってくれたこともありがたいし、どうせお前が許可を取るつもりだったしな」
「え、必要なく無いですか?」
俺の言葉にアリミアは意外そうに首をかしげる。
「同じ魔具や聖具同士だ。
最初のうちは贔屓するかもしれないし、その際にお前が寂しい思いをするかもしれない。
それに…」
「それに?」
俺は少し間を空けて深呼吸をする。
「お前に嫌われたり、拗ねられたりしたくないからな…」
俺がそう言うと一瞬だけ、アリミアの目が見開かれて、とても嬉しそうな表情になる。
「って、それじゃ私が嫉妬深いみたいじゃないですか。
それにまるで私がカルゥ様のことを好きみたいに、自意識過剰ですか?
まぁ、別に私自身、カルゥ様をお慕いしておりますけど」
怒ってるように言ってるがこんなに嬉しそうだと、そうは見えない。
「おう、ありがとな!」
先程まで、そのノリをスルーしていた分、俺の反応は予想外だったようで、そう言うと共にアリミアは顔を真っ赤にする。
「もう、こんな時にいつもどおりスルーしないなんてずるいですよ」
そう言ってアリミアはもたれ掛かってくる。
俺が思うことは一つだった。
(やばい、そっちの扉が開きそう…)
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