第2話 アリミア

「どうしたのだ?

我が主人よ、痛みももう無いだろう?

敵が来るのだから警戒した方がいい」


少女もといアリミアはそう言うとその場で構えを取る。


「そうだった」


正直、見とれていた。

年齢は10くらいかな?

金髪の長髪が印象的で目は青い。

そっちの趣味がない俺でも思わずドキッとしてしまうくらいの容姿である。


「主人よ、欲情して襲うのは構わないが時と場合を考えてくれないか?」


「誰が襲うか!」


そう言って俺は立ち上がり入り口を見る。


「敵は二人か、主人よ仮契約だからそこまで力が引き出せない。

だから、これを使ってくれ。

分体だから能力は弱いが、元となった剣の性能以上はあるはずだ」


そう言って俺に剣をアリミアは渡して来る。


「これは…契約の時に使った…」


「そうだ…それのレプリカと言ったところだろう」


「レプリカ?」


「そこは今から来る奴らを倒してからにしよう」


そうしてる間に足音が近づいて来る。


「お、生き残り発見!」


「おまけに一人はまだ幼いが極上だ」


帝国兵が二人現れ汚い笑みで俺達(主にアリミア)を見る。

瞬間、アリミアが動く。

右手に剣を出し、一人の男に切りかかる。


カンッ


と兵士もうまく反応したようで塞がれる。


「くっ、お前、魔道士か?」


「さぁ、どうでしょうね?」


アリミアは兵士の質問に対して不敵な笑みを漏らして空中で一回転をして兵士を蹴る。


もう一人の兵士はアリミアを背後から切りかかる。

俺はやばいと思いその剣を止める。


「助かった、仮契約とはいえでも後れをとるなんて不甲斐ない」


「その為に俺に剣を渡したんだろ?」


「それもそうだな。

それならば、その男を頼む。

魔法耐性が高くなければ、傷一つつければ主人の勝ちだ」


「分かった」


俺は男に向かって走り出して、剣を振るう。


カンッ


と剣同士でぶつかる音がする。

これでいい。

何度も打ち込んで打ち合えばいい。

この剣が本当に俺の最高傑作の物ならそこらの鋼の剣なんかじゃ役不足だ。


何度も打ち合い、何百回、何千回と打ち込む。


「無駄だ。

そんな不恰好な剣技で俺に勝てると思っているのか!」


カンッ!


相手からの初めての攻撃が来た。


「勝てるさ…ほら、見てみろよ」


相手の剣は半ばから折れているのだ。


「何!」


「終わりだ」


鎧の隙間を狙い、俺は剣を振るう。


「チッ、この程度の傷を与えた程度で勝った気になるなよ」


そう言って、相手は懐から短剣を取り出して構える。


「いいや、主人の勝ちだ」


「アリミア、終わったのか?」


「ああ、思った以上に簡単でな」


よく見るとアリミアの後ろには身体の半分まで裂けた死体があった。


「私の能力は【裂傷】。

要するに此奴の傷が出来たところから裂け始めるということだ。

此奴の魔力耐性はそんなに無い。

時間に応じた裂け具合になるから死ぬのは恐らく30分後、追い討ちをすればもっと早く殺せる」


「なるほど」


「くっ!ならば道連れに」


決死の覚悟で突っ込んで来る相手だが、相手は俺だけだと勘違いせずに冷静に動いても…死んでいたか。


相手は横からアリミアに切られてより早く裂け始める。

二箇所から裂け始めて三回目の斬撃が俺から送られる。


「がぁっ、こんなところで…」


最後にそんな言葉を残して死ぬ。


「悪く思うなよ。

行いにはそれ相応の覚悟が必要だ。

それは武器を作る鍛冶屋も間接的に人を殺すからな、下手すればお前達よりもしっかりと覚悟がある自身がある」


俺はそう言って、アリミアに剣を返す。


「それでアリミア、お前は何者だ?」


「そうだな、その話の続きをしようか…。

ところで話し方を崩してもよいか?」


「別に…」


「ありがと。

少しこの喋り方はキツかったんだ。

では、改めて私は左手の契約で成立した。

魔剣アリミアだ。

まぁ、正確には魔剣では無く、それに宿る精神体アリミアと言った方がいいかな?」


いきなり色々と分からない分からないことを言われて俺は戸惑う。

魔剣?精神体?左手の契約?


「まぁ、主人が戸惑う気持ちもわかる。

まず、順序立てて契約…正確に言うなら主人の能力について説明しよう」


「お、おう」


いきなり突拍子のない事だが、とりあえず受け入れる準備だけしておこう。


「まず、主人の中には私のように無限の思念、要するに精神体が眠っている。

そして、主人の能力というのがその精神体とその媒体となる武具に契約を結ばせて力をこの世に顕現させる能力を持っている」


「待て、ということはお前は俺の中に眠る精神体ということか?」


俺の質問に対してアリミアは頷く。


「なら、左手の契約って何だ?」


「それは、契約の仕方です。

主人には左手を使って契約をしたものは魔具、右手で契約をしたものを聖具となります。

剣で言うなら魔剣と聖剣です。

私はそれの魔具に当たりますね」


なるほど、俺は契約を…まてよ。


「今は仮契約だけど、本契約をしたら聖剣か魔剣か固定されるのか?」


「はい、そうなりますけど。

重複契約は可能ですよ」


「そうなのか…」


少し安心した。


「それでも複数の契約を交わすのには条件があります」


「条件…」


「それは私達精神体の階級です。

まぁ、階級と言っても能力の数ですね。

例えば私のようなランク1は二つの能力を持っています。

先程見せた【裂傷】ともう一つは【再生】の能力を持っています。

このように、能力の数だけ重複契約出来ます。

あとは、私達が成長するしか増えませんね。

まぁ、条件はもう一つあります。

それは私達の了承を得ることがですね」


「思った以上に楽なんだな」


「そうですね、んじゃ例えば…」


アリミアは自分が倒した方の兵士から剣を拾う。


「私とこれで仮契約を行って見て」


「分かった」


俺はそう言ってまだ乾いていない血を右手で取り、塗る。

すると、剣が光りだす。

が、途中でバチンッと音が鳴り光は弾けた。


「このように私が拒否するとこうなるの。

まぁ、実際私が拒否した場合は主人の中に眠る精神体にも問いかけるんだけど、みんなも流石にこのなまくらは嫌みたいだね」


アリミアはそう言うと剣を捨てる。

要するに初契約の際も武器の性能は重要と言うことか…。


「契約解除の方は?」


「契約解除は重複契約してる精神体しかできないの。

仮契約ならいいのだけど、一つだけの契約の方は媒体となっている武具が壊れると消滅しちゃうんだ」


それを聞いて俺は少しだけ罪悪感を覚えた。


「あ、大丈夫だよ。

仮契約はお試しみたいな感じでいつでも解除出来るし、壊れても死なないよ。

あと、契約する前に他の武具と仮契約だけでも済ませておけば死にませんから」


俺の罪悪感を察してかアリミアが慰めてくれる。


「ありがとな、アリミアの説明はわかりやすかった」


「主人のお役に立てて光栄です」


俺は少し気を楽にして伸びをする。

道具と設備は充分、これなら出来るな。


「んじゃ、始めるか」


「何をですか?」


「お前の本契約用の剣だよ」


俺がそう言うとアリミアは顔を少し綻ばせる。


「では、私は外の警戒でもしています」


そうして、アリミアはやけに嬉しそうに去ってしまった。


「全く…とりあえず始めるか」


剣以外を作るのもいいが初めての試みだから時間がかかる。

出来るだけ早く他の国に逃げないといけない。


確か、能力は再生だったよな。

となると目指すのは…。


ーーーーーーーーーー

今回作る剣の目標指数

鋭さC

耐久S〜

魔力伝導率A〜

重心の位置 自由

重さ 自由

大きさ 自由

ーーーーーーーーーー


といった形になるだろう。

重心などはアリミアと契約をさせた剣と同じでいいか。

因みにこれの他にも項目としては気闘法伝導率などもある。

まぁ、使える人が少ないからあまりここの目安は考えなくていいだろう。


耐久と魔力伝導率から考えるとミスリルがいいかもしれない。

硬さから考えるのならアダマンタイトやオリハルコンなどが使える。

しかし、アダマンタイトは希少鉱石だしあまり使いたくないな。

オリハルコンも希少だが、アダマンタイト程では無い。

合金にするのもいいが、魔物などといった素材ならば魔力伝導率も耐久の問題も何とかなるかもしれないが、それだけの魔物の素材を今は持ち合わせていない。


「となると、アダマンタイトを少量混ぜたオリハルコンと芯にミスリルわ使うか」


そうして、俺は久々の鍛治に勤しんだのだった。


**************


次の日


「主人、朝になった」


「んー、あと五分」


と言った定型文を俺は言う。


「起きて、どれが私の契約を交わす剣なの?」


「あー、そうだった」


俺はアリミアの言葉で目は一気に覚めて、昨日完成した剣を見る。


「ふー、どうやら完成したようだな。

聖剣って俺の予想から考えると呪いの類は吹き飛ばせるのか?」


「吹き飛ばせるけど…」


「そうか…んじゃ、契約をするぞ」


俺は刀身が赤黒く染まった剣を取り出す。

魔力の流れが脈打ち、生きているかのように錯覚してしまう剣がそこにはあった。


「あの、主人…その剣は…」


「あー、これは呪剣の一種でな人の血を利用した剣だよ。

俺の生き血も少量ながら使ったから魔力伝導率はかなり高い。

折角死体が有るわけだし普段しないことをしようから始まって。

どうせ作るならと思ってどんどんと性能を求めて結果的に目標を遥かに上回る剣が出来てしまった」


「というか、これ…呪われてますよね?」


「うん、呪われてるな」


「持ってて大丈夫何ですか?」


「いや、別に昔から魔力抵抗力などは無駄に高かったからな」


「それでも、ほらほかに大量の剣が転がってるじゃ無いですか。

それではダメなんですか?」


「うーん、いいんだけど…」


俺は近くの良さそうな剣を手に取り、軽く二本の剣をぶつけてみる。


パキンッ


結果、その剣は簡単に呪剣に負けて折れる。


「こういうことなんだよ」


「…はぁ、分かりました。

どうせ呪剣なんて魔剣や聖剣に変わる時に呪なんて打ち消されますからね」


「よし、これで契約条件は揃ったな」


そう言って俺は昨日、呪剣を作るために作った傷を少し深くして、右手の親指に血を付ける。


「剣に銘を…契約」


そう言って俺は剣に血を塗る。

すると、剣は大きく光だす。

そして、アリミアの中に入っていく。


「これで契約完了です。

それでは、聖剣に銘を刻んでください」


「銘?」


「はい、例えば魔剣にヴァーと銘を刻むと私の名前と合わせて、魔剣アリミア・ヴァーか魔剣ヴァー・アリミアとなります」


「なるほど、ならハート。

傷や心という意味だった筈」


「なるほど、ありがとうございます。

これより、この聖剣の名前は聖剣アリミア・ハートです。

それと、これから先よろしくお願いします」


「おう、よろしく」


そうして、俺の新しい生活が始まるのか?

でも、この調子ならいずれ俺の夢も叶うかもしないな。

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