覇剣を作りし両腕

ARS

第1話 プロローグ

どうしてこうなったのだろう?

俺は一介の鍛冶屋の息子の筈だ。

何故、俺は今戦地のど真ん中に立っているのだろう。


理由は実は概ねわかる。

何しろうちの国は兵力不足であり、徴兵令が出たのだから。

でもね、俺は鍛冶屋の息子…だから剣を打てば武器不足を補う方に回してくれるかな?

けれど現実は甘くない。

そこそこ自身のあった鍛治だが、魔剣や聖剣も作れない、しかも紛い物なんて出すんじゃねぇと怒られて、結局兵士に…。


でもおかしいな…。

俺が出したのは普通の剣のはずなのに…。

まぁ、今はそこを考えても仕方ないな。

俺は自前の剣と盾を持ち、応戦した。


それでも先程の言葉を訂正しよう。

わずか二時間で我が国の兵は根こそぎ殺され…戦争は終わっている。

故に戦地のど真ん中ではなく戦場跡のど真ん中と言える。

生き残った者は逃げ続け、敵国はその逃げ惑う兵士を殺して行く。


俺の盾は砕け散り、剣は半ばから折れている。

俺も逃げるのが一番である。

それでも、俺はその時何を考えたのか…逃げなかった。

死んだ兵が持っていた剣を握り俺は歩き始めた。


「見つけたぞ!

敗残兵だ」


その言葉と共に走ってくる敵国の兵士。

俺はそれ認識してようやく逃げなくてはと考えを巡らす。

しかし、体は思うように動かない。

仕方なく、先程握った剣を構える。


「俺はまだ死ねない」


夢がある。

鍛治師として並みの聖剣や魔剣を超える剣を…生涯に俺が最強と思える誇りを持てる剣を打つ。


その日、俺の死は確定した。


**************


あれ、俺は…。

死んだんだよな。

ここは…。


目の前には龍がいた。


「お前は…」


「起きたか…人間よ」


龍は俺が起きたのを見ると俺の顔をジッと見つめた。


「汝の目覚めぬ力を引き出してやろう。

汝の名は?」


「カルゥ=レーヴィンだ。

お前は何者だ?

目覚めぬ力ってなんだよ!」


「我、汝に眠る者達の集合体なり。

力、我を引きだすものなり」


龍がそう言うと共にゆっくりと意識が落ちて行く。


**************


俺は起き上がる。

戦場跡の中で…。


「今のは…夢…なら殺されたのは…」


俺はすぐに傷跡を探る。

べったりと自分の手に血が付く。

そして切り裂かれた服、しかし、どこにも傷が無い。


「おかしいな…、そうだ!

父さんと母さんは…」


今回の戦争相手の帝国は侵略戦争を仕掛けてきた。

その侵略に自分のいた村に向かないとは限らない。

俺は走り出して自分の村に向かう。


「嘘…だろ?

嘘だと言ってくれよ!」


村には無数の死体が転がっており、壊れていない家は一つも無かった。

要するにこの村は壊滅状態で生存者はいない。


俺は足を自分の鍛冶屋に運ぶ。

しかし、ここには俺の求めていた光景が何一つ無かった。


ここにあった武器は全て盗まれており、鍛治の道具くらいしか残っていなかった。


「父さん、母さん…返事してくれよ。

どこにいるんだ…」


一体どれくらいの間泣いていたのだろう。

外から声が聞こえる。

俺は家にある隙間から外を見ると帝国の兵士がこちらに向かって来ていた。


「本当かよ?」


「ああ、たしかにこの辺りから泣いている人の声が聞こえたんだ」


どうやら俺の泣いてる声を聞かれたらしい。

俺はどこか隠れる場所を探す。


そういえば家に地下が有ったはずだ。

俺はすぐに地下室に入り奥まで行く。

そして、行き止まりに辿り着く。


「まぁ、これは行き止まりに見せた隠し通路なんだけどな」


そうして、仕掛けを作動させて通路を通る。


「これは…」


そこには俺の最高傑作の剣が置かれていた。

そして、近くの棚には高級金属の類。

唯一の机に一つの手紙が置かれていた。


ーーーーーーーーーー

親愛なる息子へ


お前がこの手紙を読んでいる頃には俺達は死んでいると思う。

しかし、死ぬと言っても息子の作品まで盗まれるのは看過できない。

故にいざという時の為にこの手紙とお前の最高傑作を残す。

父さんからの願いは俺達の分まで生きろ。

それだけだ。

ーーーーーーーーーー


「全く、心配性な親だな」


俺の顔には先程までの陰りは無く、いっそ清々しい表情をしていた。


トクンと心臓が脈打つ。


ー目覚めよー


「今のは…」


少し違和感を覚えて俺は周りを見渡すが何もいない。

俺は気のせいだと思い剣を手に取る。

直後、それは起きた。


ドックン


と心臓が跳ねるように脈打つ。

それは一回で終わらず何度も何度も…。


「あ、がぁ」


次第に頭に痛みが走り出した。


ー汝、剣の契約をー


けい…やく?

何だよ…それ…。


「おお!

地下室発見!

これは褒美がもらえそうだぜ!」


上から声が聞こえる。

やばい見つかった。


それでも、俺は立ち上がれない。

頭痛が治まらず酷くなるばかりだった。


ー汝、剣の契約を早く!仮契約でも構わないー


だから、契約って…。

ならば、これで…。


左手で自分の乾ききっていない血を取り、自分の剣に塗る。

瞬間、剣は光だし人の形を取り始める。

そして、そこには一人の少女がいた。


「仮契約とはいえ、この剣との契約は確認した。

私は汝に無限の思念の一つ左手の契約、魔剣アリミアだ。

アリミアと呼んでくれ、我が主人よ」


その少女はそう言ったのだ。

先程までの痛みの消えた冷静な頭で一番最初に考えたことは…。


(何だこれ?)


だった。

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