第19話 丘の上の馬鹿 正義の味方"テングメン"
イゾーは控室で思い出していた……それは、今ではもうずっと昔のように思える、あの、半平太と出会った丘の上の光景だ。
「そうか、行ってくれるか…」
「うん。おっ父といっしょに行く。」
「よしよし、ではイゾーに名前を付けよう」
「名前は、イゾーだぞ?」
「イゾーに京の都でしてもらうことがあるからな。侍の名前がいるのだ。」
「おら、お侍になるのか。」
「似たようなものに……だがな。まあ、歩きながら話そう。」
武市はせかせかと歩きはじめた。
イゾーは置き忘れられたトランジスタラジオを抱きしめて振り返った。
母の声も姿も、もう現れてこない。
「イゾー早く来い。」
「うん。」
「イゾーは丘の上にいたから、岡田、…岡田以蔵と名づけよう。どうだ?良い名前だろう。」
「オカダイゾー…長くて呼びにくいぞ。」
「何、呼ぶ時はイゾーでいいんだよ。」
少し安心してイゾーは笑った。
「この道は、前の年に両手両足の指の数くらいの里人が、お月様が太ってまた痩せるまでかかって作ってるのを見た。都の道もこんなに立派なのか?」
「知らぬのか。こんなものは都では道のうちにも入らん。『いなか道』だ。そんな事より、京でやってもらうことの話をしよう。……イゾーに頼みたいのは他でもない、今、京の都に跳梁跋扈している魑魅魍魎を退治して欲しいのだ。」
「何を退治するって?……ショウリョウバッタしているムチモーモー?」
「うーん、つまり妖怪変化かお化けのようなものだな。」
「狸や狐か?」
「イゾーは、黒船を知っているか?」
「何それ?美味しいの?」
「……だろうな。つまり、遠い遠いところから、われわれとは眼の色も髪の色も、肌の色も違う奴等がやってきたのだ。」
「宇宙人の侵略?!」
「あ……いや……そうそう、その通り!そして宇宙人たちは、われわれ日本人そっくりに化けた悪の手先を使って、この日本を宇宙人の国にしようと狙っているんだ!」
「大変だ!……でも宇宙人って、どうしていつも日本を狙うのかな?」
「な、何か深い理由があってのことだろうな……宇宙人の手先は、コーブガッタイといって男同士が後ろの部分と合体して仲間を増やして……増殖したり、サバク派といって、この地球を奴等の星と同じ砂漠に改造するという、恐ろしい計画を進めている。イゾー君はこの天狗のお面をつけて、正義の味方"テングメン"に変身し、悪の宇宙人を片っ端からバッタバッタと叩き斬ってくれればいいんだ!」
「おら……テングメン?」
「そうだ正義の味方、無敵の戦士"テングメン"!」
「かっこいい!……おっ父は何するだ?」
「え……私は正義の秘密組織"土佐勤王党"の隊長として、テングメンをバックアップするのさ!メンバーは"勤王の志士"と呼ばれる。合い言葉は"尊皇!"と"攘夷!"。悪の宇宙人たちの正体を暴き、テングメンに連絡する!それが使命だ。」
「つまり、おら、番組始まって20分ごろから出演すればいいんだな!おら、おら、ヒーローなんだな!」
「その通り!歴史のヒーロー、テングメンこと岡田以蔵!歴史の教科書開けてみろ……幕末ってところにサブタイトルがついてるだろ!」
「なんて書いてんだ?おら、字が読めねえ!」
「"岡田以蔵の時代"……!」
「……す、すげー!!おら、うれしくって気絶しそうだ……」
「当面の敵、幕末史の第二クールに毎週登場する、悪の宇宙人の組織について教える。しっかり聞け!」
「イエッサー!」
「敵は派手な、こう……袖のところに三角のダンダラ模様のついた悪の制服を着ている。組織の名は新選組。敵のボスの名は"近藤勇"またの名を"ジョニーさん"、こいつは特に、コーブガッタイの好きなやつだ!……そうだ、テングメンの決めぜりふを教えておこう……とどめの一撃を出す前に大声で、"テンチュー!"リピート!」
「てんちゅー!」
「いいぞ!天誅!ポーズ!」
「てんちゅー!!!」
『あの時は楽しかったな!おら、おっとうを、あの嘘つきを、とことん信じてた。おら、本当に幼稚で物を知らない馬鹿だったんだな……総司はいいな。嘘つかないもの……もうすぐ会えるんだな。総司……楽しみだな。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます