第17話 近藤の最期?

ジョン万次郎の声が手紙を読みあげる。


「勝沼にて……これは、近藤勇さんからのリクエストです。」


 スポットライトの中に、近藤が浮かぶ。

 背景のホリゾントが朝焼けの色に染まり、

 激しく戦っている兵士たちのシルエットが浮かんでいる。

 ある者は鎧兜、ある者は洋式の軍服、

 ある者は道場の稽古に使うような胴を着けただけの姿で……

 激しい炸裂音、生首や千切れた手足が宙を飛ぶのもシルエットで見える……

 EDO時代最後の夜、大江戸TV最後のドラマだ。

 最早、コンプライアンスなど考えなくても良い。

 人体がバラバラに爆ぜて飛ぶのが戦争という物だ……


 甚五郎の覗くファインダーの中で近藤が血刀を手に、仁王立ちしている。


「今、砲弾の飛び交う中で、あの人の事を思います。若かった……あなたの輝くばかりの笑顔。幾筋かの涙。砲弾のように飛び交った想い。刃のように交わされた言葉。寂しげな横顔。そういった思い出の一つ一つが、こんなにも大切な宝物だったんだなあと感慨にふけりながら敵兵の首を斬り落としています。そんな宝物を入れた宝石箱のオルゴールみたいなこの曲"ゆうべ"を……リクエストします。」



ゆうべ あなたが 抱きしめた

わたしの 抜け殻が 朝露に溶ける


ゆうべ あたしが 抱きしめた

あなたという 夢が 朝焼けに消える


なぜ 思い出は美しく

なぜ この胸が痛いのか


ゆうべ 二人はくちづけて

二人だった日々に さよならをしたの


さよならを したの


(EDO著作権協会承認:ほの三十八番)



 スクリーンに情景が浮かんだ。

 客席に向かって、スローモーションで駆けて来る新選組の近藤、斎藤、土方。

 官軍のアームストロング砲の直撃が闇を切り裂く。

 吹っ飛ぶ3人。

 刀を杖にようやく立ち上がった近藤を、

 鏡獅子のような獅子頭をつけた官軍の兵士二人が捕まえて去る。

 追いすがろうとする斎藤と、土方。

 官軍の兵士と斬り合ってこれを倒すが近藤を見失う。

 何もかもが、悪夢の様な色彩と非現実感の中で……


「近藤さーん!!」


 自分の声で、総司は飛び起きた。


「起きたか。」


 斎藤が枕元に座っている。


「…いつ、EDOに?」

「さっき。」

「今、夢に、近藤さんが…」

「そうだろうな…」

「え?」

「お前にどう話そうかと思ってな。耳元で練習していた。」

「じゃ。今の夢は」

「本当の事だ。」

「じゃあ、じゃあ…近藤さんは?」


 嘘の付けぬ男は、黙って首を振った。


「そんな、まさか…」

「本当の事だ。」

「…土方さんは?」

「会津が落城してから、仙台で榎本釜次郎という男が率いる旧幕府の艦隊に乗った。…北海道にクニを造ると言って、函館へ行くらしい。"どうせEDOに帰っても、総司は会ってくれんだろう。"…そう言っていた。」

「僕のせいですね……斎藤さんは、これからどうするんです?」

「そのことだが。総司、メリケンへ行かんか?会津で一緒に戦った平松武兵衛というプロシャ人が、会津の希望者を連れてメリケンのカルホーニャに移住するんだと誘ってくれた。空が青くてこう、からっと晴れているらしい。お前の病気にも良いかも知れん。こんな日本など飛び出して、坂本さんではないが、世界の沖田総司になるのもいいんじゃないか?あっちでビルボードのヒットチャート1位になるような、大スターをめざすんだ。」

「斎藤さんが誘って下さるのは嬉しいけど……もう、船に乗るほどの体力もないでしょうね……私はもう……これ以上に長生きしたいとも思いません。ただ……一つだけ、もし願いが叶うなら…」

「何だ?」

「イゾーに、逢いたいんです。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る