第9話 無宿人(のうほぇあまん)
スタジオは暗転した。
闇の中で竜馬とイゾーが白々とそれぞれのスポットに浮かび上がる。それぞれ右手に携帯を持っていた。
「気にしすぎじゃ。…そもそも薩摩が新兵衛と組ませたのも、手柄は横取りして都合の悪いことはみーんなおまんのせいにするためじゃき、おまん、悪魔のように言われちょるぜよ。京に人を斬る鬼が二人おる、新選組の沖田総司と、土佐勤王党の岡田以蔵ゆーてな、えらい評判じゃ。半平太なんざ、おまんの名をだしただけでタダになるゆーてな、もう何ヶ月も飲み代払うちょらんきに、ええ気なもんじゃ。のう、はっはっはっ…。新兵衛もおまんに斬られて喜んじょる!まあ、そう気にせんと飯でも食いに来んか。おりょうも逢いたがっちょるぜよ。」
竜馬のスポットが消えて、反対側に総司が浮かび上がる。心無しか顔が青い。
左手に携帯を握り、右手にはぬらりと光る血刀を下げている。知らぬげにイゾーが電話の向こうから尋ねる。
「総司は、悪魔のように言われてても、気にならないの?」
「いいんですよ。僕は近藤さんや、土方さんが大好きです。新選組を愛してます。あの人たちの夢のためなら僕は…(咳込む)…ね。」
「おら…誰かを愛せてるのかなあ…?」
総司の顔に切ない微笑が浮かび、優しい声が受話器からイゾーの心を撫でた。
「イゾー君はきっと、みんなに愛されてますよ。もう、心配しないで。」
「うん…ありがとう…それじゃあね…」
「元気でね。」
電話を切り、総司の周りが明るくなると、あたり一面に粛正された新選組隊士の死体が転がっている……総司は血刀を懐紙で拭うと鞘に収めた。懐から取り出した薔薇の花びらの花吹雪を死体に手向ける。
「総司、早く来い!何をぐずぐずしている。規律を破ったものに情けは無用だ。夜が明けてしまうぞ!」
「…はい!」
土方の厳しい声音がむしろ総司には心地好かった……。
暗闇にジョンの声が聞こえる。
「僕には愛する人がいません。愛してくれる人もいません。そう…思えるのです。」
イゾーが現れた。
「僕にはもう、どこにも居場所が無いように思えます。僕は何のために生きてるんでしょう。もう、わからないんです。」
「…と、悩んでいる岡田以蔵君、12才からのリクエストです。"無宿人"」
アカペラのハーモニーで曲が始まる。イゾーの心はぐるぐると回り続ける。
天地(あめつち)の間に
行き場がないのさ
僕は無宿人になった
誰かの愛さえ
信じられずに
固く心を閉ざして
*
無宿渡世
つらい時世
お前の愛だけを
棲み家にしたい
*
(EDO著作権協会承認:はの十一番)
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