第45話
ガンガンっという鉄格子を叩く音で目が覚めた。
「起きろ、朝食の時間だ」
ゆっくりと起き上がり、寝ぼけた頭で今がどういう状況なのかをぼんやりと考えながら、朝食のスープとパンを受け取って、モソモソと食べ始める。
「夢じゃなかったか……」
寝たら何か変わるんじゃないかと思ったがやっぱりダメだったみたいだ。
何も変わらず牢屋の中。
「はぁ……どうしようかな……逃げちゃおうかな……それともひかりたちにもう一年待ってて欲しいって言うか?」
いや、ひかりたちに一年以上も会えないなんて寂しすぎるし、キャシーさんたちにも心配を掛ける。
「というかキャシーさんたちはどうしているんだ? 地上に戻れたということはキャシーさんたちとも会っているはず……もしかして会う前に牢屋に入れられたとか?」
うわぁ、それだとマズイぞ……
一年も音沙汰無しなんて心配を掛けるなんてレベルじゃない。
心労で病気になったりしなければいいけど。
「しょうがない。ひかりに連絡してどうすれば良いか聞こう」
(自分で考えなさい。あとなせるんの状況はちゃんとこの子たちにも伝えてあるから大丈夫よ。心配しないでちゃんと頑張んなさいよ? あと今回連絡した罰として帰ってきた時に女装ね。以上、連絡終わり)
「ひかりェ……」
特別サービスには対価が必要ということですか。
緊急時だし女装だけで済んだということで納得するしかないな。
そういえばこの子たちって言っていたけど、クロニャたちのことかな?
キャシーさんたちのことならこの子じゃなくてあの子って言うはずだし。
「まぁ、今はこの状況をどうするか考えないとな」
ウンウン唸りながら無い頭を捻っていると、いつの間にかお昼ご飯の時間になっていたので受け取って食べていると面会者が来たので牢屋から出ろとマッチョな看守さんに言われたので付いて行った。
「あれ? 手錠とかは無いんですか?」
「あ? んなもん意味ねぇだろ? 何? お前さん逃げる気でもあるってのか? その貧相な体で俺を人質に出来るんってぇならやってみてもいいぜ? ただしお前さんのケツが真っ赤になる覚悟はしておくんだな。ガハハッ!」
やだ、この人、ガチムチな方だったの……!
お尻を隠しながら後を付いて行き、面会室へ通されるとそこにはシアさんとソフィーさん、キャシーさんにクロニャさんが待っていた。
なんだかみんな暗い顔をしているけど、やっぱり犯罪を犯しちゃったのはマズイよね……
記憶が無いから実感が無いけど、心配させてしまっているので謝ろう。
「えっと……ごめんなさい」
「いえ……」
気まずい沈黙が流れて胃がキリキリしてくる。
「あの、本当になせるさんなんですか?」
キャシーさんは半信半疑といった表情を浮かべて聞いてきた。
「こんな見た目ですが八肝なせるですよ。今まで黙っていてすみませんでした」
自分が八肝なせると名乗るとキャシーさんたちの表情が疑いから困惑といった感じに変わっていくのが分かった。
あえて隠そうとした訳では無いが自分のことについて話す切っ掛けが無かったというか、村に戻る時に話せばいいかぐらいの簡単な気持ちでいた結果のこれである。
「本当になせるさんなんですね……」
「いつか話そうと思っていたのですがこのようなことになってしまい、本当に申し訳ありませんでした……」
「いえ、なせるさんだということが分かればそれで良いんです。ダンジョンで沢山の人に迷惑を掛けてしまったのも呪いが原因だと分かっていますから……」
呪い? 呪いが原因ってどういうことだ?
「その、記憶が一部無くて、迷惑を掛けたということは聞いたのですが、呪いってどういうことですか?」
「頭を殴られた時に記憶が飛んだのでしょうか?」
ソフィーさんが顎に手を当てそんなことを言う。
「殴られたんですか……」
「大勢の人の前で急に裸になってしまったので私が殴って気絶させました。ごめんなさい!」
クロニャさんに謝られてしまったけど、裸になったってどういうことだ? 呪いに関係あるのかな?
人前で急に裸になったのなら殴られて当然だけど。
「いえいえ、それが本当なら気絶させてもらって良かったです。大勢の人に裸を見られるのは恥ずかし過ぎますから、それで呪いというのは?」
「ダンジョンに居る人間を性的に皆殺しにしろという呪いが掛かっていたようですが、それを解呪出来たと思った矢先に裸になってしまったのでステータスで八肝様を見たところダンジョンに居る人間と性交しろという呪いに変化していまして、気絶している間に何度も解呪を試みたのですが、私たちに出来たのはダンジョンに居る人間とエッチしたいにまですることが限界でした……」
すごく真面目な表情でツッコミどころ満載なことを言うシアさん。
ちょっと何言ってるか分からないですが呪いはまだ解呪出来ていないらしい。
「その後、気絶した八肝様を衛兵に問答無用で連れて行かれ、略式裁判で死刑にされ掛けたところをオーブスツ家の力でねじ伏せたのですが、大勢の人たちに迷惑を掛けてしまったのも事実でしたので禁錮1年という結果になってしまいました……」
「そうでしたか……僕のせいで本当にすみませんでした……」
呪いか……
自分でも確認してみようとステータスで呪い一覧を見てみる。
八肝なせるの呪い一覧
ダンジョン内に居る人間とエッチしたい(解呪不可)
「解呪不可か……」
願望なのがまだ救いだけど、おいそれとダンジョンに行くことが出来なくなってしまったな。
「呪いについてはこちらで調べているので、きっとなんとかなります! ですからなせる様は安心して待っていてくださいませ!」
明るい声で僕を励まそうとしているソフィーさんの表情は、笑顔ではあるがどこか暗かった。
最悪、自分たちではどうにも出来なかった場合にはひかりに解呪してもらえばいいかな。
そうだ、ひかりたちについてもキャシーさんたちにはまだ話していなかったな。
「ありがとうございますソフィーさん。呪いについてはなんとかなると思いますからそんなに心配しなくて大丈夫ですよ。それで、僕のこの見た目とか色々なことをお話ししたいと思いますが、無理に理解しようとしなくて良いです。ただ聞いてもらえると嬉しいです」
そう言って僕がこの世界に来たところから話しをし始めて、見た目が勇者なこと、元の世界のこと、元の体のこと、死んでも死なないこと、ひかりたちのこと、ハーレムのこと、修行に来たことなどをすべて話し終えると、やはりというか、みんな頭を悩ませていた。
「まだよく分かっていませんがハーレムは賛成です! ひかりさんたちにも早く会ってみたいです!」
先程までウンウン唸っていたキャシーさんは考えるのをやめた様子。
「私もよくは分かりませんがハーレム賛成です。修行もここを出たら一緒に頑張りましょう!」
クロニャさんもキャシーさんに続いて思考停止したみたいだ。
「わたくしもハーレムは賛成ですわ。ですけどひかりさんたちに会ってどういう方たちなのかを見極めてからでないと受け入れられませんわね!」
ソフィーさんは理解したというよりそのまま受け入れたみたい。
みんながハーレムを受け入れてくれたのは正直嬉しいけど、こんなにあっさりと受け入れてしまって良いのだろうか?
うーん……いや……僕を愛してくれた人たちは全員愛するって決めたんだ。
なら、どうであれ僕のことを受け入れてくれた彼女たちを幸せにするのが僕の道だ。
「神様は居たのか……そうか、居たんだね……」
「シアさん?」
「ん? そうですね。私もハーレムには賛成です。八肝様の子供を沢山育てられるなんて夢のようです」
思い詰めたような顔をしていたシアさんはすぐに元の優しい顔に戻ったけど、神様について何か思うところがある様子。
ひかりに会ったら何かしたりするのだろうか?
「ふふふ、そんなに見つめられたらドキドキしてしまいます」
そんな無邪気な笑顔を向けられたら聞くに聞けないじゃないか……。
その後は面会時間が終わってしまってまた明日、ということで牢屋に戻され夕食のパンとスープと青汁を食べ終えて何もすることが無いのでそのまま就寝した。
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