第43話

 焼かれては死に、凍らされては死に、刺されては死に、ありとあらゆる殺し方できっちり100回、僕を殺し終わると「飽きた」と言って全裸の童女はベッドに横になり、僕は100万回殺されずに済みました。


 ちなみにこちらも全裸にされていたのでアイテムボックス、そういえば、なんでもボックスって名付けたんだったな。で、適当に服を見繕って着る。


 全裸童女ちゃんにも似合いそうな和服を出してあげたけど「服は邪魔だ」と断られてしまった。


 普通なら発狂して精神が病んでいてもおかしくない苦行を受けたのだが、痛みを感じる前に殺されていたので、感覚としては寝ては覚め、寝ては覚めの繰り返しだったので、妙な寝不足感を感じている。


「すまない、なせる……何も出来なかった……」


「下手に手を出して、アイが危険な目に会うよりはマシだよ」


 しょんぼりしているアイのサラサラして綺麗な頭を優しく撫でて励ますと気持ち良さそうな笑顔を見せてくれた。


「その体はボクのスペアボディだ。誰が壊すものか。というか何で勝手に動いているんだ? ……アイ? アイって誰だ? 幽霊? 憑き物か……《ゴッド・ブレイク》」


 天上から聖なる光がアイに降り注ぐと赤子の天使たちが舞い降りてきて、アイの体から魂だけを持ち上げ、アイは安らかな笑顔で天へと昇って行ってしまいました。


「はわわぁぁぁ~……」


「アイぃぃぃいいいい!?」


 その光景はさながらフランダースの犬のラストシーンのようでした。



「神は居た……」


 完全に成仏させられたと思われたアイは無事に現世へと生還? を果たしたが、神秘体験をしてきたようで悟りを開いたような表情をしている。


「ひかりのことかな?」


「ひかり……そう、あれはまさしく光そのものでした。何という神々しさ、何という慈悲深さ、私たちは神の子であり、神は常に私たちを見守って下さっているのです」


 あぁー、ひかりとは違う俗世に染まっていない真面目に仕事をしているタイプの神様に出会えたようだな。


 良いか悪いかはさて置いて。


「その神様は何か言ってたりしてたか?」


「神は言っていた。子を成せと。なせる、私と沢山子作りしましょう。私が孕んでいる間はあなたを愛している方たちと子作りしていただいて構いません。このあまねく世界に神の子を満たしましょう」


 怖っ、目が完全にイっちゃってるよ……

 いや、まぁ、普段と言っていることに違いはあまり無いんだけど、これはマズイ。


「ボクの体を使って子作りだ、なんだと好き勝手言ってくれちゃって、神だぁ? あんな光ることしか能の無い奴らの言うことなんて聞いてるんじゃないよ。まったく……というか、ボクの浄化魔法を食らって無事に戻って来れるなんて、ちょっと自信無くすなぁ……いやいや、これは神の怠慢だ。後で苦情を入れてやろう」


 神様に苦情を入れるって童女ちゃんは神様と面識でもあるのか?


 そういえばまだ童女ちゃんの名前を聞いていなかったな。


「えーっと、僕は八肝なせる、そこの悟りを開いているのが幽霊のアイだ。君の名前は?」


「ボクはダンジョンシステムだ。アミニスと呼ぶ者も居たな。まぁ名前などどうでもいい。ボクが元居た場所へさっさと帰せ。それとスペアボディも元の場所に戻しておけよ」


「僕たちを地上に帰してくれるなら言う通りにします」


「ダメだ。というか君が意見を言える立場かねぇ? 100万回殺された勇者って絵本を出したら面白そうだが、さて……」


 ぐぬぬぬ、確かに手も足も出なかったけどさ。

 だからと言って諦めることは出来ないんだ。


「魔王に弄られたシステムを直すのに協力しますから、どうか僕たちを地上へ帰してください! お願いします!」


「別に君の手を借りなくてもシステムは修復出来るしなぁ……?」


 両腕を枕にして膝を立てて脚を組みプラプラと右足を揺らしながら目を閉じて何かを思案する様子を見せる全裸童女のアミニスちゃん。


「そこをなんとかお願いしますよ! 何でもしますから!」


「ん? 今、何でもするって言ったか?」


「え?」


 アミニスはベッドから起き上がると邪悪な笑みを浮かべて、こちらの目を妖艶な瞳で見つめながら、よく見るとぷにぷにした、むしゃぶり付きたくなるような生脚でぺたぺたとこちらへ近付いて来るので、今まで意識してなかった童女の裸に欲情しかけてしまい、慌てて視線を逸らした。


 目の前まで来たアミニスが僕の胸に抱き着くように手を当ててきたのでドキドキしていると、そのままズブリと体内へ右手を押入れられ、僕の心臓を鷲掴み、聞き取れない呪文を詠唱し始めた。


「なせる!?」


「ぐっ、ぅぁ、な、何を……」


「何でもするって言っただろ? 喜べ、地上に戻してやる。ダンジョンにやって来る人間共を皆殺しにしろ」


「そんな、こと、ゴフッ……す、する訳、無いだろ……」


「するさ。そういう呪いを刻み込んだからな」


 手を引き抜かれ、地面に倒れるとアイが駆け寄り抱き着いて来て、涙を流しながら何度も何度も謝り続けるのを遠くに聞きながら、意識をドス黒い何かで、じわりじわりと塗り替えられていくのを何の抵抗も出来ぬまま、ただただ受け入れることしか出来なかった。



「さてと、じゃあ戻るかな。勇者君、ボクを元の場所に戻してくれるかな?」


 アミニスに言われるままなんでもボックスを開いて元居た場所の空間に繋ぐ。


「あ、スペアボディだけど面白そうだからアイちゃんにあげるね。頑張って勇者君を止めるも良し、諦めて一緒に皆殺すも良し、好きにしてくれていいよ」


「なせるに人殺しなんて絶対させない! お前なんかの呪いになせるは負けない!」


 それを聞いて笑顔で元居た場所へ帰って行くアミニスを見送り、僕はダンジョン一層、冒険者ギルド前へと空間を繋いだ。


「行かせない! 行っちゃダメだ!」


「何を言っているんだ? 地上に戻れるんだ。アイも一緒だ。そう言えばエスツーが見当たらないな」


 辺りを見回すと物陰から出て来るエスツーが見えた。


「ワタシも戻らない方が良いと思う。ダンジョンシステムはまだ修復されていなかった。八肝なせるが戻れば大変なことになる。それよりもここでエッチなことをして過ごした方が何倍も楽しいと思う」


「ん? あぁ、そう言えばエスツーは人間にしたんだったな。ダンジョンの中だったら殺すところだったよ。ダンジョンの外に送るから手を出して?」


 手を差し出すが、エスツーは首を横に振るだけで近付こうともしない。


「しょうがないな……」


 エスツーの足元に虹色の波紋を開いて落とす。


「あ、それはズル――」


 ダンジョンに入られると殺さないといけなくなるのでここから遠く離れたシロニャさんの宿へと送っておいた。


 あそこなら安心だな。


「私にはそんなものきかにゃあああ――」


 アイがバックジャンプで回避した場所に波紋を展開した。


 アイは人間じゃないけど邪魔をして来そうなのでこっちもシロニャさんの宿へと送っておいた。


「良し、これで心置きなく皆殺しに出来る」


 改めてダンジョン一層のギルド前へと空間を繋げた波紋を足元に開いて落ちて行く。


 移動は一瞬、ギルド前へ無事に着地した。


「え? ど、どこから?」


 目の前に居たのはいつかどこかでナンパした清楚で可愛い僕のタイプど真ん中のヒーラーの子だった。


「やあ、また会えたね! 急で申し訳ないけど僕に殺されてくれるかな?」


「え? え? 殺しって……?」


 彼女の首に手を回して力を込める。


「うぐ!? んん、はっ、うぅ、んぐ」


 最初の犠牲者が決まり、狂乱の宴が始まる。

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