第40話
あれから数日経ったが、呪いの首飾りが外れることは無く、日がな一日ベッドの上でダラダラし続けている。
暇だ暇だと騒ぎ立ててたアイは街を散策してあれが欲しいこれが欲しいとねだって来たり。
毎回断るのが心苦しいのだが、キャシーさんは僕を街へと連れて行こうとしたり。
これも断ったのだが奴隷としての仕事が欲しいということでクロニャさんが毎食、食事を持って来てくれたり。
何故かソフィーさんは毎晩、僕のベッドで絵本を読み聞かせてくれたり。
シアさんは罪悪感のせいなのか隙あらばエッチなことをしようとしてくるのを止めたり。
と、まぁ、そんな感じの日々を送っている。
側から見たらハーレム状態なのだが、僕にはこの状況を楽しめる余裕は無く、ただただ体がダルくて辛いだけなのであった。
「お、おはようございます! なせるさん! 今日は私と街で、で、デートしませんか!?」
キャシーさんが元気良く部屋に入ってきた。
いつもとは違い、少し露出度高めの服を着ている。
「キャシーさんおはようございます。せっかくのお誘いですが体がダルくて……すみません」
「そ、そうですか……分かりました。その、元気出してくださいね!」
そう言って部屋から出て行くキャシーさんは最後の方ちょっと涙声になっていたけど、本当に体がダル過ぎて、無理してデートしてもダルい、ダルい、と愚痴ばかり出て来そうで、反って今以上に傷付けそうなので、この首飾りが外れるまでは断るしか無いんです……
「八肝さん、お食事をお持ちしましたよ」
料理やデザートなどを乗せたワゴンを押してクロニャさんが部屋へと入って来た。
「クロニャさんにはいつも迷惑を掛けてしまってすまないねぇ……よっこらせ」
さすがに寝ながら食べるのは行儀が悪すぎるし、食べさせてもらうのは恥ずかしいので、どんなにダルくても食事だけはちゃんとテーブルに座って食べている。
「お爺ちゃんみたいなこと言わないでください。まだ若いんですから」
「ホッホッホッ、わしゃもうすでに隠居した気分になっとるよ」
「皆さんも色々調べて回っているようですし、きっと、何とかなりますよ……それよりも冷めないうちに一緒に朝ごはん食べましょう!」
「そう、ですね……」
クロニャさんがテーブルへお肉やスープ、デザートを並べて行き、支度が整ったので二人でいただきますと言って朝食を食べ始めた。
「魔法の方はどうなんですか?」
「ん、いや、さっぱりだね」
ブーストとか試してみたんだけど、弱体効果を強大から中にするぐらいで大して変わらず、ブーストの効果が切れた後の体のダルさ加減が体感的に辛すぎるので緊急時以外ではあまり使いたくない。
攻撃魔法で鎖を断ち切ろうと試してみたけど、切れる様子も無く、お手上げ状態だった。
死なないんだから首から上を吹っ飛ばして物理的に外す方法も思い付いてたはいたけど、死ぬ痛みを知っているのでこれは最後の最後、本当に何も手段が無くなった時にしようと思っている。
というか、多分、そうするしか無い。
ひかりなら絶対そうすると思うし……
「すぐに生き返るんだし、いいじゃない」とか言って修行をサボった罰ゲームとして首を切り落とすぐらいはしそうだな。
ひかりにされるか、自分でするかの違いだ。
「どうしましたか……? 何だか怖い顔になってますよ」
「大丈夫、大丈夫、食べ終わったら、ちょっと散歩でもしようかと思ってね」
「そうですか! では私も一緒に」
「ごめん、一人で行きたいんだ……」
「そう、ですか……気を付けてくださいね。今の八肝さんだと、子供にすら負けちゃいますから」
「あはは、そうだね」
朝食を終えてクロニャさんが部屋を出て行ったので、誰にも見つからないようにダンジョンへと向かった。
「ヘイ! そこのヘッポコそうな兄ちゃん。良かったらオイラたちと一緒にダンジョン攻略してみないか?」
冒険者ギルド前の通りで、へへへ、と笑い合いながら、どう見てもこのまま育ったら軽犯罪を犯しそうなゴロツキに育ってしまうだろう不良少年御一行様がパーティーに誘って来たので、変な事件に巻き込まれる前に鉛のように重い体に鞭打ってダッシュで逃げ出したのだった。
「あっ!? コラッ! 逃げるな! みんな追っかけろ! ぜってー逃すなよ!」
不良少年たちが鬼の形相で追いかけて来たので、ベッドの上でダラダラしている時に思い付いた、縮地か瞬歩をぶっつけ本番で使うことになってしまった。
縮地とか瞬歩と言ってはいるが原理がさっぱり分からないので足の裏から風魔法を噴出させる方法で瞬間的に加速出来たら良いなという、妄想でしか無い魔法なので失敗する可能性大だ。
「やるしかないか……!」
左右の足裏から交互に風が爆発するイメージ!
「どはっ!?」
イメージした瞬間、魔法が発動して盛大にずっこけた。
「イテテテ……けど、これならなんとか行けそうだ」
コツは掴めたのでバランスを崩さないように魔法を発動させる。
一応成功してはいるけど、側から見たら片足ずつで連続走り幅跳びしているように見えるかもしれないな。
「ウサギかよ……」
そんな声が聞こえた気がした。
何とか不良少年たちの魔の手から逃げられたのでそのまま下層ダンジョンへと向かうことにした。
人混みに流されながら下層へ続く下り階段を進んで行くと石壁の迷路が見えて来たのでここが迷宮と呼ばれるダンジョンなのだろう。
一層目だからなのか誰も迷いそうに無い迷路になっている。
「ここは素通りだな……」
出て来るモンスターもスライムとかコウモリなので下層へ向かう人の流れに乗って二層目へ。
「おぉ、ちょっとだけ不気味になったな」
子供騙しのお化け屋敷って感じで血の跡とか蜘蛛の巣とか骸骨とか悲鳴とか聞こえるけど特に怖くは無い。
迷路も簡単そうだし、先に進もう。
「おい、なせる。何でダンジョンに居るんだ?」
「うぉ!? ビックリしたぁ……アイかよ。脅かすなよな」
「私もビックリだよ。街で食べ物屋を巡っていたら突然景色が変わってなせるが居たんだからな」
「離れられる限界が来てアイの方が飛ばされて来たって感じだろうか?」
幽霊と融合したことなんて無かったから離れられる限界の距離とか全く分からん。
「よく分からないが、なせるから結構離れた距離でも大丈夫だったから、そういうものだと思ってたけどやっぱりなせるとは離れられない運命だったんだな!」
このままアイを無視して冷んやりされると嫌なので適当に頭を撫でてやり、三層目へ。
「もっと優しく丁寧に撫でてくれ」
言われた通りに家で飼っていた愛猫を撫でる感じで頭を撫でると、幸せそうな笑顔になったのでやっぱりチョロいなと思いました。
ちなみに二層目のモンスターはゆるキャラっぽいお化けだった。
「おぉ、ダンジョンだ。間違い無くダンジョンだ」
三層目は誰がどう見てもダンジョンだと言える岩肌ゴツゴツの鉱石とか取れそうな洞窟ダンジョンだった。
「なぁ、なせる。何で一人でダンジョンなんて危ないところに来ているんだ?」
「秘密」
「秘密にしても意味無いからな」
「これが終わったら、一つだけ何でも言うこと聞いてやる」
「……しょうがないな。あとでダメなんて言うなよ?」
「言わないよ」
アイは納得したのかそれ以上は何も聞いて来なかった。
三層目の洞窟ダンジョン内部は複雑に入り組んでいて、ゴブリンや角の生えたウサギ、スケルトンなども居て、人もまばらになっていき、奥へ奥へと進んで行くと、やっと一人になれそうな場所を見つけられた。
「ここなら行き止まりだしモンスターも出てこない。入口も壁を作れば誰も入って来れないだろ」
魔法で土壁を作って入口を塞ぎ、真っ暗になってしまったので光球を飛ばして明かりをつけた。
その場に座り、心を落ち着かせる。
「本当にやるのか?」
「やるさ……」
「痛いの嫌なんだけど……」
「麻痺とか麻酔するとやり難いんだよ……無痛魔法を作ろうとしたけど麻酔と変わらなかったし、我慢してくれ」
「……約束、忘れないでよ」
「忘れないよ」
覚悟が決まったので首飾りが落ちるように頭を下げ、後ろ首に両手を当て頭ごと吹っ飛ぶようなビームと念じた瞬間、衝撃と激痛を一瞬だけ感じてそこで意識が途絶えた。
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