第39話

 宿屋に戻るとシアさんとソフィーさんが妙に近いというかイチャイチャ? してる感じがして、自分で言うのもなんだが察しの良い僕は二人がキマシタワーな関係になってしまったのだと理解した。


「ところで、八肝様とクロニャ様は暗い表情をされていますけど、ダンジョンで何かございましたか?」


「ちょっと、魔法で失敗してしまいまして……」


 僕たちがダンジョンで何をしていたのか色々と話していくと、シアさんの表情が見る見るうちに険しくなっていき、何かを思案するように口元に手を当て、僕にある提案をしてきた。


「取り憑いているというアイさんの件は今の所、八肝さんの様子を見る限りでは問題無いようですけど、今後、何かしら手を打たなければいけなくなる可能性もありますね。それよりも今は八肝様の魔法能力について先に解決しなければいけません。力の制御がまるで出来ていないようですから、その力を制御出来るようになりませんと、最悪ご自身が死ぬか、誰かを殺してしまう危険性がありますね」


「うっ……」


「ですので、一から魔法の特訓を致しましょう」


「特訓……?」


「今日から一ヶ月間、八肝様には魔法の基礎訓練を、僭越ながらこの私、アタナーシアが勤めさせて頂きたいと思いますが、よろしいでしょうか?」


 ふーむ、千年以上生きてきたシアさんなら魔法の知識もすごいことになっているだろうし、むしろこちらからお願いしたいところだな。


「では、よろしくお願いします!」


「了解しました。ところで八肝様、認識阻害の指輪を外されているようですが、何か問題でもありましたでしょうか?」


「え?」


 シアさんにそう言われて指輪をはめていた指を確認すると、何かの弾みで外れないようにしっかりと装備していたはずの認識阻害の指輪は、いつの間にか気付かずうちに失くしてしまっていたようだった……


「あっ……い、今すぐ探して来ます!」


 ヤバイ! ヤバイヤバイ!

 失くした!? いつ失くした!?

 どこだ!? どこだどこだ!?


 自分の部屋や歩いて来た道、建物やダンジョンなど、今まで行った場所をしらみつぶしに探し回ってみたが見つからず、ギルドの職員さんやケルクラヴさん、病院の職員さんにも聞き回ってみたが、指輪の落し物が届けられたことは無いとのことで、これはもう、いよいよ覚悟しないといけないな、と思いながらトボトボと重い足取りで宿屋へ戻るとシアさんにコツンと優しく頭を叩かれてしまい、指輪を失くしてしまったことを溢れ出てくる涙を堪えながら誠心誠意謝った。



「失くしてしまったものは仕方の無いことですが、お一人でダンジョンに入るなど、危険な行動は謹んでください。八肝様に何かあれば、ここに居る者は皆、悲しみます」


「はい……以後、この様なことがないように気を付けます……」


 はぁ……悲しいな……


 貰った指輪を失くしてしまうなんて本当、最低だよ……


「はい。ではこの話はこれで終わりにしましょう。八肝様の誰彼構わず愛されてしまうスキルの対応ですが、これはあまりしたくは無かった方法ですけど仕方ありませんので、スキルを弱体化させる呪いの首飾りをお付けください」


「呪いの首飾り……」


 手渡されたのはどう見ても観光地などで売っている中二病全開の邪竜が剣に巻き付いているキーホルダーだった。


「ダサい……」


「えっ……」


 あれ、シアさんの表情が急に暗くなって……まさか!?


「あ、あぁっ! よく見るとこの邪竜っぽいやつカッコいいなぁー。呪いの首飾りって言うからもっと怖いやつかと思ったけど、この首飾りならオシャレとして付けてもイイカモシレナイナー……」


「そうです! そうなんです! やはり八肝様にはこのデザインのセンスを分かって頂けると確信していました! 装備効果はアレですけど見た目だけならすごく素敵な首飾りなんですよ!」


 シアさんの目が爛々と輝いている。


 1000歳越えても中二病の呪いからは逃れられなかったようだ。



「付けてみましたけど、これと言って何かが変わる様子は無いようですね。自分のステータスが見られれば良かったのですが……」


 身に付けてみたものの、やはりダサいものはダサいのでキャシーさんたちの視線で恥ずかしくなってくる。


「私にはよく分からないが、ダサいというものが何なのかは理解出来た。それを付けて外に出歩く時は何も考えないでくれ。私まで恥ずかしくなってくる」


 無理だ、諦めて一緒に恥ずかしい思いをしてくれ、アイ。


「今のなせるさんになら鑑定魔法か、そのままステータスが見たいと思えば見れそうですけどね。新しく魔法を作っちゃっていましたし」


「ふむ」


 キャシーさんの言う通りイメージすればどんな魔法でも使えそうだし、試しにやってみるか。


「《ステータス》」


 名前 八肝なせる アイ


「……って、名前だけやないかーい!」


 突然声を荒げてしまったせいか、みんながビクッと体を震わせて驚かしてしまったようだ。


「名前を見れたと言うことはステータスと言う魔法は発動しているようですし、あとはイメージ力の問題かと」


「なるほど」


「「《ステータス》!」」


「ぅおっ」


 感化されたのかソフィーさんとクロニャさんが同時にステータスの魔法を発動させたようだ。


 突然だったのでちょっとビックリしちゃったよ……


「やりましたわ! わたくしも名前とレベルが見えました!」


「私も名前とレベル、それと好きな食べ物が見えました!」


「え、え、じゃ、じゃあ私も! ステータスっ! ……あれ? ステータス! うぅ、ステータス!ステータス!ステータス! はぁはぁ……うぅぅ、なせるさーん、何も見れませんでしたぁ……」


 涙目で僕に縋り付いてきたキャシーさんの頭を優しく撫でてあげた。


 自分だけ使えないのは仲間外れにされたようで辛いよね……


「ステータス! ……ふっ、分かっていたさ。分かっていても試したくなるのが好奇心というものなのだよ。分かるだろ? なせる」


 何か拗らせちゃってるアイを無視して――


「無視するな!」


「ひゃんっ!? やめろアイ! 冷たいだろうが!」


 みんなの視線が痛い。


 アイは自分以外には見えていないので虚空に向かって一人ツッコミ状態である。


 とにかく自分のステータスをより強くイメージしてと……スキル一覧みたいなので良いか。


「《ステータス》」


 八肝なせるのスキル一覧


 異性からそこはかとなく好かれるかもしれない

 身体能力弱体化(強大)

 魔法抵抗力弱体化(小)

 邪気眼(くっ、スーパーハイパーミラクルロマンチックユニバースソードに封印された邪竜が疼きやがるッ……!)


「……このクソダサい首飾り捨てて良いですか?」


「そんな……カッコいいって、オシャレだって、言ってたじゃないですか!」


「すみません嘘付きました。スキルまでクソダサくされたので捨てますね」


「酷い、ひどい、ヒドイ! 私を騙したのね!? そんなに要らないなら返して! 私の邪竜ソード返して!」


「言われなくても返しま、あれ? 外れない、ぐぎぎぎ! あれれ? 外れないよぉ……?」


 え、このまま一生外れないとか無いよな……?


「あぁ、そういうことですか、なんだだかんだ言ってもやっぱりカッコいいと思ってたんですね? まったく八肝様は素直でないのだから、ウフフ」


「違うようですわよ、シアちゃん。なせる様は本気で外したがっておりますわよ?」


「ふんぎー! 外れろ! こんのー! があああ! 外れない! くそぉ……本当に呪いの首飾りじゃないか……」


 最悪だ……


 クソダサいのは百歩譲っていいとして身体能力弱体化(強大)は無いだろ……

 クソ雑魚じゃん。

 せっかく異世界転移出来たのにクソ雑魚化とか……

 一発でもモンスターの攻撃を受けたら即死とかだったら、もう冒険どころの話じゃないぞ……


 強くなってツキヨ村に帰ってくる約束だったのにめちゃくちゃ弱くなって帰ってくるとか、どんな顔してひかりたちに会えばいいんだ……


「八肝様、冗談とかでは無く本当に外せないのですか?」


「外せません……」


「ちょっと失礼、ふーん! あら? ふーーん! あらあら? ふぎぎぎ! ダメですね……ど、どうしましょう? 私が身に付けた時は普通に外せましたのに……」


「「「……」」」


 部屋がシーンと静まり返って耳が痛いや……あはは。


「教会! 祓って! クレアさん! 聖職者! 行ってギルド!」


「お、落ち着きなさいキャシー。外れなくなった呪いの装備なら教会や冒険者ギルドで解呪して貰えますわよ」


「そうです! クレアさんのゴッド・ブレスなら外せますよきっと!」


「早く行きましょう!」



 ということでギルドへ行き聖職者のクレアさんにゴッド・ブレスで解呪してもらうことに。


「オーケーぃ、任せなさい! 今度はバッチリ祓ってみせるぜ! 《ゴッド・ブレス》」


「ひょへえええええええっ!」

「あうっ!」


 ちょっと出ちゃった……


「くっ、私のゴッド・ブレスを受けてまだ外せないとは……すまない、諦めてくれ……なあに、冒険者だけが人生では無いさ。最近は男が家事をして女が出稼ぎに行く時代だし、大丈夫大丈夫! 君にはステキな彼女さんも奴隷さんだって居るし、何とかなるって! 強く生きて! それじゃ、私はこの辺で、じゃあね!」


 逃げるように立ち去って行くクレアさんの背中を見送って、宿屋へと戻り、少し一人にして欲しいと、今は何も考えたく無くて自室で不貞寝して、次の日の昼までベッドで無気力にダラダラして、お腹が空いたので食堂へ行き、適当に置いてあった料理を食べて、またベッドで寝た。

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