第36話

 成功したみたいだ。


 こっちの世界に来てから何度も意識を失っていたので、どうすれば意識を失うのか感覚は掴めていたから試してみたけど、案外上手く行くものだな。


 目が醒めると、両腕をキャシーさんとソフィーさんにそれぞれ腕枕にされていて、ほぼ腕の感覚が無くなっていた。


 安らかな寝息を立てている二人を起こさないように、そっと腕を動かし上体を起こすと、股間部に違和感を感じて毛布を退けるとシアさんが僕の股間を枕に丸まって眠っていた。


「え!?」


 な、何が起きたのか分からないと思うが僕も何をされてしまったのかさっぱり分からなかった。


 とりあえず、こんな訳の分からない状況を誰かに見られれる前にシアさんの頭をそっと退かして三人の眠るベッドから抜け出した。


「ふぅ……朝から心臓に悪いよ」


「お、やっと起きたか、なせる。昨晩は随分とお楽しみだったな」


 どこに居たのか、突然アイに声を掛けられて体がビクッとして、心臓が飛び出るかと思った。


「ビックリしたぁ……おはよう、アイ」


「おはようなせる。とりあえず顔を洗って来た方が良いぜ。そいつら何度なせるにキスしたか分からないぐらい、ブチュブチュペロペロしてたからな」


 うっ、マジか……


「それと手も色々使われてたな、毛布の中まではさすがに見えなかったけど」


 な、ナニに使われていたんでしょうか!?


「あと、シアって人はド変態だな、毛布被ってても分かるぐらいなせるの股間をスーハースーハー嗅ぎまくってたからな」


 すごい! 凄過ぎるぞ!

 シアさんがそんな事をしていたなんて、あの見た目からはまるで想像出来ない!


「……起きてれば良かったかな?」


「なせるも中々に変態みたいだな」


「ん……ふあ〜……あれ、なせるさんは……?」


 キャシーさんが目を擦りながら、寝ぼけ眼で僕の事を探している。


「おはようございますキャシーさん。昨日は随分とお楽しみだったみたいですね」


 キャシーさんの寝ぼけ顔を見ていたら、ちょっとイタズラ心が芽生えてしまった。


「あ、なせるさん、おはようございます……って、あれ、私、昨日……てっ!? ちがっ、違うんです! 私、あんなことをするつもりなんて……本当に違うんですーっ!」


 キャシーさんの顔が見る見るうちに真っ赤になっていき、慌てた様子で飛び起きると、そのまま部屋から逃げ出してしまった。


「んん……うるさいですわね……」


 騒がしくしてしまったのでソフィーさんも起き出したみたいだ。


 クックックッ、ソフィーさんにも同様に昨日の仕返しをしてやろう!


「ソフィーさん、おはようございます。昨日は随分と僕の体を使ってお楽しみだったようですね!」


「ふあ〜……おはようございますなせる様……あら? わたくし、昨日は……っ!? あ、あれは、違うのです! わたくし、本当に、違うんですのよ!? ……本当に違うんですの……」


 あれ? てっきりキャシーと同じ様に恥ずかしがると思ってたのに、何か落ち込んでる?


「……なせる様、どうやらわたくしはエッチでスケベでド変態な女だったようですわ……」


 ん? え? 何?


「ふふ、ふふふ、フフフフフ。わたくしがこんなにもはしたない女だったとは自分自身でも気付きませんでしたわ! なせる様! 今すぐにわたくしを抱いてくださいまし! もう、この体の火照りを抑えきれそうにありませんわ!」


 あ、ヤバイ、別のスイッチ入れちゃったみたいだ。


「えーっと、あははは、ソフィーさん、朝から元気いっぱいですね! 元気なことは良いことですよ。あははは」


 笑って誤魔化す以外に何か無いか、何か……なんでも良い、何か、何か思い付け!


「んー……うるさいです……うるさい子はこうです……」


「え? キャッ!? あっ、あぁっ、ダメです! おば様! わたくしです! ソフィーです! いやぁ、やめてぇ、そのようなことはなせる様に、ん、んんーっ、ンーーーッ!?」


 もぞもぞと動き出したシアさんがベッドの上に立っていたソフィーさんの足を引っ張り倒すと、そのまま毛布の中へと引き摺り込み、チュパチュパと言う水音が聞こえて来たと思ったらソフィーさんの悲鳴が聞こえて、さらに激しく毛布が蠢き出すとプシュっという炭酸が噴き出たような音と共に毛布の一部が湿り出した。


 一体、毛布の中では何が起きていたんですか!?


「す、すごいな……ぅぅ、見てたら私もしたくなって来ちゃったぞ……チラ、チラ」


 アイのことは放っておくとして、その毛布を引き剥がして、今すぐ中を確認したい!


「フーッ! フーッ! あ、開けますよ!? 何が起きたのかまるで分かりませんけど、すごく心配なので何か問題が無いか確認しますね!」


 そう言って毛布に手を掛けようとした瞬間、突然、ガバッとシアさんが起き出して、僕の姿を確認するや否や、そそくさと部屋から退散してしまった。


「なせる様……わたくし、もうお嫁に行けそうにありませんわ……」


「な、何があったんですかーッ!?」



 一部分だけ濡れたネグリジェのスカートを押さえながら、この場から逃げるように出て行ったソフィーさん。


 それを見てさらに発情し出したアイに感情が引っ張られそうになりながらも何とか耐える僕。


 とりあえず、この悶々とした気持ちを払うため、朝食を食べに食堂へ向かおうと思い、部屋を出ると、冒険者風の衣服に着替えたクロニャさんが扉の前で顔を赤くしながら立っていた。


 スカートから覗く褐色の太ももが眩しいぜ!


「お、おはようございます! 八肝さん」


「お、おはようございます。クロニャさん」


 何かあらぬ誤解をされている気がするけど、状況的に僕がキャシーさんたちとそういう事をしていたのだと勘違いされても仕方がないか。


 実際は一緒のベッドで一晩寝ていただけだし、いかがわしい事は何も……って三人の女性と一緒のベッドで一晩とか、いかがわしい事この上なかったわ……


「その……八肝さんって、おモテになるんですね」


「あはは……と、とりあえず一緒に朝食を取りに行きましょうか?」


「……そ、そうですね! 朝食、いっぱい食べてダンジョン攻略頑張りましょうね!」



 クロニャさんと一緒に食堂へ向かうと、他の宿泊客がまばらに席に座ってバイキング形式の朝食を取り、談笑していた。


「キャシーさんたちはまだ来ていないみたいですね」


「いえ、後ろに居ますよ?」


「うひっ!?」


 いつの間にっ!?


「おはようございます。八肝様、クロニャ様。昨晩と、それと今朝も大変、失礼致しました」


「いえいえ、全然気にしてませんから、むしろ見えなかったのが残念なぐらいで……」


 (……エッチ)


「お、おはようございます! なせるさん! クロニャさん! 私も昨晩は本当にすみませんでした!」


「全然、全然、僕の腕ぐらいならいつでも枕にしてくれて構いませんよ」


「はぅ……そ、それじゃあ、明日も……ひゃいっ!?」


 (調子に乗るな! なせるの腕枕も私のだ!)


 アイがキャシーさんの首筋に冷たい息をフゥーっと吹き掛けイタズラし出した。


「ひやっ、あひっ!? 冷たい風が、はうっ!?」


 (アイよ、あまりキャシーさんをイジメないでやってくれ。悲鳴がちょっとエッチで僕にまで効く)


 (なせるも、あんまり他の女に鼻の下を伸ばす様なら全身冷え冷えの刑だからな)


 (気を付けます……)


「そういえばソフィーさんが来ていませんね?」


「……ソフィーは、その、恥ずかしくて私にも、八肝様にも、顔を見せられないとベッドに引きこもっております……」


「そ、そうですか……じゃ、じゃあ、僕たちだけ先に朝食をいただきましょうか?」


「すみません。私が寝ぼけていたばかりに……」


「大丈夫ですよ! ソフィーさんが落ち着いてから謝ればきっと許してくれますって!」


「そう、ですね……」


 シアさんは暗い表情で深い溜息をついていた。


「ご飯食べて元気出してください、ね?」


「はい……」



 暗い表情のままのシアさんを連れてバイキング形式の朝食を取りに行き、僕は朝食は抜く方なのでベーコンスープっぽい物だけを皿に取り、席に着くと、お姉ちゃんモードのキャシーさんとそれを援護するようにクロニャさんが山盛りの肉と野菜が入った皿を持って僕の座ったテーブルの前へと次々に置いていった。


「こんなにいっぱい置かれても、僕にこの量は食べ切れませんよ?」


「食べ終わるまでダンジョンへは行きませんから」


「大丈夫ですよ。ご主人様が食べ終わるまでクロニャはここで見守っておりますから」


 シアさんに助けを求めようと視線を向けたが暗い表情のまま俯いてボソボソとパンを小さくちぎりながら食べていた。

 ちょっとリスっぽくて可愛い。


 こうなったらアイにイタズラしてもらってこの場から逃げるしか……


 (なせるの気持ちが伝わって来て分かるが、私自身では料理を食べられないので、すまないが、頑張って食べてくれ)


 この食いしん坊さんめ!


「分かりましたよ! 食べれば良いんでしょ? 食べれば!」



 頑張って食べ切りました。


 お腹がはち切れそうです。



 食後休憩を挟んでから冒険者ギルドへと向かった。


 休憩中にあれこれ誘ってはみたものの、ソフィーさんがベッドから出てくることはなく、しばらくそっとしておいて欲しいとのこと。

 そんなソフィーさんを放ってはおけないとシアさんも宿に残ることに。



「シアさんとソフィーさんが抜けてしまったのでとりあえずパーティー登録は私となせるさんとクロニャさんの三人で申請しましょう」


 馬車に揺られ、冒険者ギルドに着くと、窓口でパーティー申請書を貰い、近くのテーブルに座って、すらすらと記入していくキャシーさん。


「キャシーさんってパーティーとか経験あるんですか?」


「ありますよ。わたしの田舎はモンスターによる獣害が多かったですから、12歳を過ぎたら強制的に狩りに連れ出されるんです」


「そうでしたか、クロニャさんは、パーティー経験は?」


「無いですよ、ずっとソロでしたから。パーティーどころか奴隷館に入って、サーヤちゃんたちに会うまで友達すら居ませんでしたから」


 あっ……


「わ、わたしたち、もう友達ですっ!」


「そ、そうです! 奴隷と主人の関係ですが、僕もクロニャさんとはもう友達のつもりですよ!」


「お気持ちは嬉しいですが、その、察したみたいな顔するのやめてください……今は友達も居ますし、逆に辛くなります……」


 励ますつもりが、かえって落ち込ませてしまった。


「えーっと、そうだ! 帰りに奴隷館に寄っていきましょう!」


「昨日別れたばかりで今日戻ったら、もう返品かと絶対笑われますからやめてください。無理に励まそうとしなくて良いですから、普通に接してください」


「はい……」


 クロニャさんに怒られてしまった……


「えーっと、えっと、そうだ! パーティー申請にはギルドカードが必要なんですよ! 申請書のこの部分にギルドカードを置いてください」


 キャシーさんが申請書のちょうどギルドカードがすっぽりと収まる空欄を指さして、作り笑いを浮かべていた。


 ひょっとしてこのパーティー、コミュ障しか居ないのでは?


「ギルドカードですか……その、あまり見ないでくださいね?」


「あ、僕も、ギルドカードは……」


「わ、わたしのは見ても良いですよ! なせるさんのを一方的に見てしまったお詫びって訳でも無いですけど……」


「いえ、無理に見せなくても大丈夫ですよ?」


「ダメです! パーティーを組むには信頼関係が一番重要なんです! だから見てください!」


 キャシーさん、引くに引けない感じになって無理してるように見えるけど、そこまで言うなら見てあげないといけない気がしてきた。


「そうですね。信頼関係は重要です。私も、恥ずかしいけど見せますね」


 あ、この流れだと僕のも見せなきゃダメな奴じゃん……


 ま、まあ、キャシーさんには一度見られてしまっているし、クロニャさんも変な顔とかしなさそうだけど、やっぱり恥ずかしいなぁ……


「じゃ、じゃあ、わたしから……」


 キャシーさんが《カード》と唱えると手のひらにハガキほどの大きさのギルドカードが出現した。


 ――――――――――

 名前: キャシー

 種族: 人

 レベル: 25

 職業: 冒険者

 称号: お姉ちゃん お人好し 小心者 エッチ 美少年大好き 弟大好き 恋する乙女

 ランク: アイアン

 ――――――――――


「……お姉ちゃん」


「はぅっ……!」


 まぁ、僕のよりは全然ましだよね。


「次は私ね。何を見ても何も言わないでね?」


 クロニャさんがギルドカードを手のひらに出現させ、こちらに見えるように差し出した。


 ――――――――――

 名前: クロニャ

 種族: 人

 レベル: 30

 職業: ナセル・ヤキモの奴隷 冒険者

 称号: 巨乳 ボインちゃん 見た目は大人中身は子供 寂しがり屋

 人形を抱かないと眠れない 孤独士 無謀者 性に無知 奴隷

 ランク: スチール

 ――――――――――


「何も言わないでね!」


 何も言いませんよ。


 ただし、生暖かい目で見ますけどね!


「変な笑顔で私を見るのもやめてください!」


「次は僕の番ですね。先に言っておきますけど、僕の称号はエロいです」


「あ、なんとなく分かってました」


「そ、そうですか……」


 なら躊躇う必要も無いね!


 ……別に、何も気にしてなんか無いんだからね!


 《カード》と唱えて自分のギルドカードを出現させる。


 何度やってもカッコいい。

 他の魔法も早く覚えたいものだ。


「どうぞ、見てください」


 ――――――――――

 名前: ナセル・ヤキモ アイ

 種族: 人・霊

 レベル: 15

 職業: 冒険者

 称号: スライム大好き 強さを求めし者 お人好し 小心者 ドスケベ おっぱい見過ぎ  太もも大好き 女性大好き イタズラ好き 弟みたいな存在 ナンパ士 自己犠牲 善人

 憑依合体 抱き枕 食べ過ぎ

 ランク: カッパー

 ――――――――――


「え……?」


「なせるさん、これって……」


「霊って……八肝さん、霊に取り憑かれてる……?」


「おぉ、私の名前が書かれているぞ! でも、この称号はどうかと思う……エッチな奴め」


 どうしよう? アイのことバレちゃったよ……


「じょ、除霊! 教会! 除霊! して、教会に!」


「職員に話した方が早いよ! 八肝さんはその場から動かないで!」


「え、え、おち、落ち着いて! 僕なら大丈夫ですから! 悪い幽霊とかじゃ無いですから! めちゃくちゃ可愛い女の子ですから!」


「え、めちゃくちゃ可愛い……? えへ、えへへ、そっかー、私ってそんなに可愛かったかー……ウヘヘ」


 呑気に笑ってる場合じゃ無いでしょうが!


 除霊は出来ないとか言ってたけど、だったら隔離とか、そういうことされちゃうんじゃないのか?


 え? ヤバくない、それって。


「あや、あやつ、操られて! なせるさん! なせるさん! なせるさん!?」


 気が動転しているのかキャシーさんに激しく体を揺さぶられてしまった。


「きゃ、キャシー、さん! そんなに、体を、揺さぶらないで、くだ、さい!」


 気持ち悪くなっちゃうよー!


「キャシーさん離れて! あなたまで取り憑かれてしまうかもしれません!」


「取り憑いたりしませんから! 大丈夫ですから! 人畜無害ですから!」


「とにかく、私は職員の方を呼びに行くのでキャシーさんは八肝さんを見張って居てください!」


「わ、分かりました!」


「だから大丈夫ですって! アイは人に悪さをするような幽霊じゃないんですってば!」


 引き止めるも虚しく、クロニャさんは職員を呼びに行ってしまった。


「はぁ……どうしよ……?」


「まぁ、なるようにしかならないさ。そう、落ち込むなって。もし隔離されても私はずっとなせるの側に居てあげるね」


「アイ……」


 多分、僕が隔離なんてされたらひかりが黙ってる訳が無いと思うんだけど……


 ひかりのことだから正面から堂々と侵入してラケルさんたちと一緒に暴れ回りそうだな。


 そう考えると、そっちの方が心配だ……


「職員さん呼んで来ました!」


「この子ですか、どれどれ」


 連れて来られた職員さんはどう見ても聖職者だと分かる格好をしていて、小柄な体には不釣り合いな、大きな杖を持っていた。


「なるほど、なるほど、見た目では全然分かりませんね。とりあえず、《ターンアンデッド》」


「ひょええええええええっ!?」


 聖職者のお姉さんが呪文を唱えると、アイが叫び出して昇天しそうになっているのが分かった。


「変化無し、ですか……それでは《ホーリー・ピュリフィケーション》」


「「はわわぁぁぁ~……」」


 お姉さんが別の呪文を唱えると、心が洗われるような、清々しい気分になり、アイからも天に昇るような心地良さが伝わって来た。


「うーん? まだダメなのかしら? 仕方ないわね。《ゴッド・ブレス》」


「逝っちゃう! 逝っちゃうから! い、イクゥゥゥウウッ!」


 アイから絶頂にも似た感覚が伝わって来て、僕もイッテしまった。


 と思って確認してみたが、幸い、暴発するようなことは無かったようだ。


「何故、股間を抑えているのですか? もしかして……いえ、たまにそういう人も居るみたいなので何も言わなくて結構です。お手洗いはあちらです」


 何か誤解されているようだが、何もありませんでしたよ? 本当だよ? どこも濡れてませんし?


「な、なんのことだかさっぱり分かりませんが何も問題はありませんよ?」


「……そうですか。一応、ギルドには下着類も売っているので――」


「何も無かったですから! 大丈夫ですから!」


 くっ、絶対、このお姉さん勘違いしたままだよ。


 ああ、もう、恥ずかしい!



「カードに変化無し、ですか……ゴッド・ブレスで除霊出来ないとなると、もしかして神霊、とか……? いやぁ、まさか、そんな、ねぇ? でも、守護霊すら除霊出来るはずなのに……」


 お姉さんが思案顔でブツブツと独り言を呟き出して、ウンウン唸ってる。


「おい! なせる! 本気で逝ったぞ! 私、本当に逝って、知らないお婆ちゃんにお花畑で手招きされた!」


 臨死体験か、いや、アイはすでに死んでたな。

 成仏体験ってところか?


「成仏出来るチャンスだったのに、残念だったな……」


「残念な訳あるか! 私は永遠になせるから離れないからな! トイレの中まで付いて行ってやる!」


 トイレは勘弁してくれ……


「よし! 経過観察することにしよう! もし、悪さをするようなら君ごと封印するしか無いが、なぁに、もし本当に神霊だとするのならば、君は偉業を成し遂げる英雄になれるだろう! いやぁ、お姉さん興奮して来ちゃったなぁ! あ、今のうちにサイン貰っておこうかな?」


 経過観察か、封印なんてことになったら最悪だな。

 まぁ、アイが悪さするとは思えないけどね。


「えーっと、つまり八肝さんは霊に取り憑かれたままということでしょうか?」


「え? え? なせるさん霊に取り憑かれたままなんですか!? 除霊失敗したんですか!?」


「そんなに心配すること無いって、少なくても悪霊の類では無いからさ。邪神の可能性も残ってはいるけど、邪悪な気配とかまるで感じられないし、神霊に憑かれているのなら、運気が上昇してお金持ちになれるし、運命の人にも出会えるし、常に健康体で居られるから良いことだらけだよ?」


「私って凄かったんだな!」


 たぶん、僕と同化した影響だと思うけど、あの黒いモヤだったアイが神霊ってことは無いだろう。

 未練が残り過ぎて悪霊になっちゃったとかそんな感じじゃないかな?


「むぅ……そう言われても、すぐには信じられません。なせるさんに何かあったらと思うと……」


「本当に神霊ならば良いのですが……」


「神霊かどうかは置いとくとして、僕個人として客観的に見たアイは無邪気な子供って感じですから、良いか悪いかで聞かれたら良い子だと思います」


「そうだぞ、私は良い子……って子供扱いするな! いや、記憶喪失してるから本当は子供という可能性も……?」


 コロコロと表情が変わる、こんな無邪気な子が邪神とかありないっしょ。


「むー、でも……」


「まあまあ、とにかく経過観察してみて、何か問題があれば私に相談しに来てくれ。私は自分で言うのも何だが、このギルドで一番優秀な聖職者なんだ」



 その後、聖職者のお姉さん、クレアさんに連絡先を教えられ、何かあればすぐに飛んで来てくれるとのこと。文字通りの意味で。

 何その魔法、今すぐ教えて欲しい。


「とりあえずパーティー申請しちゃいましょうか、僕たちに出来ることは今の所ありませんし」


「そう、ですね……」


「見守ることしか出来ないとは、歯痒いですね……」


 二人とも表情が暗いよ……


 アイの姿が見えればなぁ、悪い存在なんて微塵も思わないだろうに。


 幽霊が見えるようになる魔法とかありそうなんだけど、シアさんなら知ってるかな?



 申請書の空欄にギルドカードを置くとRPGゲームのようなパーティー編成画面が浮かび上がり、自分をモチーフにデフォルメされたキャラクターとその隣に名前やレベル、ギルドランクなどが書かれていた。


「可愛いですね。これ八肝さんでしょうか? あれ、背後にもう一人、髪の長い女の子?」


 あ、本当だ。

 アイをデフォルメしたようなキャラクターが僕のキャラクターの背後に浮かんでいた。


「多分アイだと思います。あ、でも、これでアイの姿がなんとなく分かってもらえますね」


「これが幽霊のアイさん……結構可愛いですね……ぐぬぬ、別の意味で危険だとわたしの直感が反応しています!」


 キャシーさんが恨めし顔で僕の背後を睨んでいる。


 アイを睨みたいんだろうけど、残念だが、今はキャシーさんの隣で変顔をしておちょくっている。


「ふふふーん、そんな顔をしても、なせるはもう私のだもんねー」


 イタズラも程々にしてくれよ、邪神認定は流石にシャレにならないからな。


「たとえ可愛い女の子の霊が取り憑いて居ようが私は八肝さんの奴隷なので変わらずご奉仕させてもらいますよ。……それと夜の方も」


 最後にボソッとクロニャさんが呟いたけど、僕はそういうのを聞き逃さないタイプなんだ。


 夜のご奉仕……グヘヘ。


「邪な気持ちが伝わってきたので何を想像したのか丸分かりだぞ! エッチな奴め」


 な、何のことだがさっぱり分からないなぁ……?



 パーティー申請を無事? に済ませた僕たちは、いよいよダンジョンへと足を踏み入れるのだった。


「ところでなせるさん、そんな装備で大丈夫ですか?」


「大丈夫だ、問題な――」


「防具もギルドで販売してるので、まずはそちらで装備を整えましょう」


 ……僕たちの戦いは、これからだっ!

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