第29話

 キャシーさんたちから逃げ出した僕は、とにかくこの場から一歩でも早く遠くへと逃げたくて、塔から街中へと行く当ても無く走り続けた。



「うわっ!?」

「おっと!?」


 人通りの多くて走り難い大通りを避けて路地裏へと入った曲がり角。

 僕の前方不注意のせいで人とぶつかってしまった。

 幸い、相手が支えてくれたおかげで転ぶ事もなく無事に済んだ。


「すみません! 大丈夫でしたか?」


「おう、こっちは何ともねえが……そっちこそ大丈夫か? って、何でそんなに泣いてやがるんだ!? どうした!? どっかぶつけちまったか!? ケガしてねぇだろうな!?」


「は? え?」


 そう言われ自分の顔に触れてはじめて自分が泣いていることに気付いた。


「あ、本当ですね。まさか泣いているとは思いませんでした。すみません。ケガとかはしていないので、ご心配をおかけして申し訳ないです」


「お、おう、そうかよ……って違げぇだろ!? なんでそんなに冷静なんだよ! なんか嫌なことでも無きゃそんなに号泣する訳ねぇーだろ? ……あー、なんだ。とりあえず俺んちに来るか? 茶菓子ぐらいなら出してやる」


「ナンパですか? 僕は一応男ですよ?」


「違げぇーよ!? 俺にそんな趣味はねぇ! はぁ……俺はケルクラヴだ」


 ……ケルクラヴ? 何かの団体名か?


「ケルクラヴとは?」


「名前だ! 名前! お前さんの名前はなんて言うんだ?」


「八肝、なせるですけど……貴族ではありませんよ。一応」


 キャシーさんでりたので最初に断っておこう。

 またあらぬ誤解で傷付くのは御免だ。


「おう! なせるか、良い名前だな! 良し! 自己紹介も済んだ事だし、うちに寄ってけよ! 話しぐらい聞くぜ?」


 ぐいぐい来るな、この人。


 見た目は何というか、ガタイは良いんだけど全体的にチャラいおっさんって感じ。

 ネックレスとかブレスレットとか指輪とかアクセサリーを大量に付けているのもこの人のチャラさを際立たせてる原因になってると思う。

 異世界だから魔法効果とか付与された装備品なんだと思うけど、もし、オシャレで着けているのならハッキリ言ってセンス無いなと思う。


 見た目年齢的にはおっさんというか、まだお兄さんと言ってあげた方がいい感じだけど。


「いえ、特に話すことはありませんので……」


「ん、そうか。んじゃ、茶菓子だけ食ってけ。落ち込んでる時は甘いもん食ったら大体治る!」


 脳筋……いや、何も思うまい。


 うーん、断れそうに無いな……

 というかそういう誘い文句は女性に言いなよ……


 まぁ、僕も甘いものは好きだし、この人良い人そうだし、別にいっか。

 男に何かする訳も無いし。


「じゃあ、ちょっとだけお邪魔します」


「おうおう、食ってけ食ってけ。うちの茶菓子はうめぇぜ?」



 こうして、陽気なおっさんに連れられ歩いて行くこと数十分。

 路地へ、路地へと進んで行くケルクラヴさんを不審に思いながらも逃げ出す機会を完全に失った僕はただただ付いて行くことしか出来なかった。


「着いたぜ」


「ここは……?」


 辿り着いた場所は大きな洋館風の建物だった。

 洋館風というのはわざとそういう風に作ったように感じたからだと思う。


「俺ん家だけど、仕事場でもあるな。まあ、入ろうぜ?」


 この立派な洋館がケルクラヴさんの自宅?

 プフッ、全然似合わない。

 笑ったりしたら失礼だから笑わないけど、でも仕事場って、こんな洋館でどんな仕事をしているんだろうか?


 ケルクラヴさんに促されながら洋館の中へと入って行くとそこには煌びやかな大広間と左右に大きな階段、おまけにシャンデリアという、どこの成金貴族様の家ですか? という感じの光景が広がっていた。


「うわー……」


 何と言ったら良いか……

 とりあえず、ケルクラヴさんにはまるで似合ってない家だなと思いました。


「こっちだこっち。付いて来な」



 大広間を抜けて階段を登り、奥へ奥へと進んで行くと客室だろうか? そんな感じの部屋へと通された。


「とりあえず座れ。今、茶菓子持って来るからよ。飲みもんは何が良い? 遠慮すんなよ? 好きなもん持って来てやる」


「え、っと、じゃあ、メロンソーダで」


「メロンソーダ? 俺が聞いた事の無い飲みもんだな……どんな飲みもんだ? それ」


 あー、シロニャさんのところで色んなジュース出されてたから失念していたけど、ここ異世界だったわ。


 メロンソーダはさすがに無かったか……

 とりあえず特徴だけ言って似たような物が無いか聞いてみるか。


「えーっと、透明な緑色をしていて泡がプクプク浮いてくる甘い飲み物です」


「なんだ、シュワグリーンの事か。変な名前付けんなよ。なんなら、アイスグリーンにしとくか?」


 あるんだね……


 アイスグリーンはたぶんクリームソーダの事だな。

 異世界、舐めちゃいけない。


「じゃ、じゃあそれでお願いします」


「おう、ちょっと待っとけ」


 そう言ってケルクラヴさんが部屋から出て行った。


 うーん、手持ち無沙汰だな……


 ケルクラヴさんが戻って来るまで暇なのでとりあえず部屋を見渡してみる。


 客室だからか、ソファーはふかふか、テーブルはピカピカ、観葉植物も何だかんだ高級そうに感じる。

 壁に絵とか飾れば完璧だったな。


 窓から外をながめてみる。

 周りにそれほど高い建物が無いので眺めは良いかな?


 ここからでも軌道エレベーターみたいな巨大な塔が見える。

 いつかは行かないといけないけど少なくても今は戻りたく無いな。

 キャシーさんたちにどんな顔して会えば良いのか分からないし、何か言われるのも怖い。


 キャシーさんたちの反応は普通のことだったと思う。

 けど、僕の心は、あの引きつった表情を見てしまったせいで耐えられなかった。

 せっかく仲良くなれたのに……いや、仲良くなれたからこそ、あの反応だったのだろう。


 あの時ギルドカードさえ見せていなければなぁ……はぁ……



 そんな感じで自問自答を繰り返しているとケルクラヴさんが山盛りのお菓子やらフルーツやらを積んだ、アンティーク調のおしゃれなサービスワゴンを押して戻って来た。

 もちろんクリームソーダもあるよ。


「待たせたな! よっしゃ、じゃあパーッとやりますか! パーッと!」


 男二人でこんな女子会みたいな事をするとは思いもしなかったな。

 まぁ、でも、今だけは嫌なこと全部忘れてパーッとやりたい気分だ。


「よーしっ! いっぱい食べるぞー!」


「おう、食べろ食べろ! 俺も食うぜ!」


 やっぱりと言うかアイスグリーンは見た目もそうだけどクリームソーダと変わらない味がした。

 子供の頃からの大好物だったので今だけは幸せな気分に浸りたい。


「最高に美味しいです!」


「はっはっはっ! そうか! 美味いか! じゃんじゃん食って良いからな!」



 それから僕らは男らしくガツガツとスイーツをたらふく食べ終え、人心地付くとケルクラヴさんが「腹ごなしのついでに良いところに連れて行ってやる」と言ってお腹の重たい僕を強引に連れ出し、地下に続く階段を降りて、大きな鉄扉の前へとやってきた。


「ここが良いところ、ですか?」


「おうよ! ……ああ、心の準備はしておけよ? 面食らうかもしれんし」


 え? なんか嫌な予感がする……


 あれだけスイーツを食べさせた後にこれだもの……

 自分がヘンゼルとグレーテルでは無いことを祈ろう。


 ケルクラヴさんがギギッと鉄扉を開けて、部屋の中を覗いてみるとそこには鎖に繋がれた薄着の少女達が牢屋に入れられ体の自由を奪われていた。


「なっ!? なんて事を! ケルクラヴさん! こんなっ! こんなこと! 犯罪です! 犯罪ですよ! これは!」


「あー、やっぱり知らなかったか。ま、慌てんな! 素人がこんなことやらかしたら犯罪だが俺はちゃんと許可を得てやってる奴隷商人だ」


「ど、奴隷!? 奴隷制度があるんですか!?」


「いや、あるだろ。少なくても五つの都市で奴隷制度を行なってるぜ?」


「そ、そうなんですか……だけど、こんな扱いはあまりにも酷いんじゃ……」


「なーっ! やっぱりそう思うよな! ほら見ろ! こんな悪趣味なことしたって引かれるだけじゃねーか! じゃ、明日から元に戻すからなー。文句のある奴は他んとこ行けよ? まあ、こんな悪趣味な奴は誰も雇ってくれねーと思うがな!ハッハッハーッ!」


 え? 何? どう言うことなの?


「うるさいわね! 良いからその子連れて来なさいよ!」


「へいへーい。ほら、近くで見て来て良いぜ? こんな悪趣味な催しは今日だけの特別だからな」


「催し?」


「おう、なせるみたいなどう見ても奴隷とかに疎そうな田舎もんに来てもらって、どういう方向性が良いか第一印象を聞かせてもらうっていう、月に一度の恒例行事だ」


 あー、なるほど。つまりドッキリみたいな感じか……

 もう、脅かさないでよね……


「ま、今回はお前さんを元気付けてやるっていうのもあるがな……あんな顔されちゃ、黙って見てられねぇぜ!」


「あ、どうも? ありがとうございます?」


「つー訳で、好きな子連れて行って良いぜ?」


「へ? 僕、お金……って、あっ!」


 あちゃー、荷物全部シアさんのところだよ……


 どうしよう……?


 戻りたく無いなー……でも、しょうがないか……はぁ……


 ちなみに妖刀はしれっと僕の腰紐に差さっていた。

 さっきまでは無かった気がするがこの妖刀に常識は通用しそうに無いので考えないでおこう。


「ん? どうした? 金のことなら心配すんな! 三人までなら無利子で貸してやる! 俺が死ぬまでに返してくれりゃ良いぜ!」


 それは最早、くれると言ってるのと同義じゃないか?


「お金の事もそうですが、別の事を思い出しちゃって……はぁ……」


「おいおい、また元気無くなっちまったな……とにかく見て来いよ。別の事に集中してりゃ、嫌な事でも忘れられっだろ?」


 荷物の事を忘れちゃうのはマズイよ……


 まぁ、今すぐ戻れる訳も無いし、今は素直に見てみるか。

 興味があるとかじゃ無いよ?



 嘘です、ごめんなさい。


 だってあんな薄着で鎖に繋がれた少女たちを見る機会なんて今後二度とありそうに無いし、心のデリート不可フォルダに保存しておきたいじゃないか!


 という訳で間近でまじまじと見ていく。


「お兄ちゃん、私を連れて行って。お願いします……」


 か弱そうな10歳ぐらいの女の子が目をうるうるとさせながら上目遣いでこちらを見つめていた。


「お願いだよ……お兄ちゃん、私を連れ出してくれたらイイコトしてあげるから」


「「「ブフーッ! あははははっ!」」」


 ケルクラヴさんと牢屋に居る少女たちが一斉に腹を抱えて笑い転げだした。


「だーっはっはっはっ! 似合わねぇ! 笑い殺す気か!」


 いや、まあ、ケルクラヴさんの会話で何となく察しはついていたけどね……


「もー! アンタたちだってさっさと雇われないと、将来、路頭に迷うことになるわよ! 私はそんなのゴメンよ!」


「そ、そうね……私もそろそろ本気出さないと……」


「えー、私はもう少しここで暮らしてたいなぁ。お菓子いっぱい食べれるし」


「おバカ! いつまでもマスターが居る訳ではないのよ! 私たちよりも寿命は短いんだから、マスターが死んだ後は確実に路頭に迷って最後は餓死よ!」


「いや、俺の寿命以前にお前らは一年もここに居させねぇよ? それ以上居座る気なら強制労働組合にぶち込むからな?」


「「「ひっ!?」」」


「せいぜい頑張るこったな」


 彼女たちの話を聞きながら、薄着で見えそうで見えない男心をくすぐるような肢体をただぼけーっと眺めていた。


「ア~ン、お兄ちゃ~ん、私を連れ出してぇ~」


 その少女の一声で場の空気が一気に変わりざわざわとしはじめた。


「私よ! お兄ちゃん! 生き別れた妹の、えーっと? とにかく妹よ! だからここから連れ出して!」


「お兄さん、私の手料理食べたくない? こう見えて料理は得意なのよ? お兄さんが望むなら毎日美味しいご飯を食べさせてあげるわ。だから私を連れて行きなさい!」


「私は裁縫が得意です! 服に穴が空いたらすぐに直せます! 私を連れて行ってください!」


「私は、えーっと、とりあえずエッチなことしてもいいよ? だから連れ出してくれないかな?」


「オレは武器や防具を直せるぜ! ダンジョンに行くならオレを連れて行けよな!」


「じゃあ、私も、私、力持ちだから大量の荷物を運んだりできるわ。ダンジョンへ行くなら荷物持ちは欲しいわよね? だから私を連れて行って」



 と、まぁ、そんな感じで、延々と少女たちの自己アピールを聞かされた訳だけども。


 正直言って連れて行きたい子は一人も居なかった。


 何故かって?


 この、一見少女のように見える彼女たちがどうして奴隷になってしまったのかを考えれば自ずと答えは出て来るだろう。


 まぁ、あれこれ考えるよりも一言質問してあげれば分かってもらえると思う。


「皆さんどうして奴隷になったんですか?」


「「「……」」」


 その一言で彼女たちは押し黙り、明後日の方向へと視線を向けた。


「おーん? あれだけ威勢が良かったのに急に黙りこくってどうしたのかなぁ? お腹でも痛くなっちゃったかなぁ?」


 ケルクラヴさんが物凄い変顔をして彼女たちを煽り立てている。

 変顔が面白過ぎて直視できない。


「うーん? まあ、お前達が言わねーなら俺が言ってやるよ。こいつらはな、見た目はこんななりをしているがドワーフっつう種族で全員成人済みのババアどもだ。奴隷になった経緯も似たり寄ったりで、酒とギャンブルと男に貢いだ、救いようもねぇ大馬鹿どもさ」


「うわぁ……」


 あ、うっかり声が漏れちゃったよ。


 でも、そうか、やっぱりそんな感じだったか。

 というかそんな事故物件みたいな人たちを僕に見せてどうする気だったの?

 もし僕が騙されてたら尻の毛まで毟り取られてたところだよ?


「まぁ、ここは前座みてーなもんだ。一番下を知ってりゃ、こいつらより、もうちょいまともなやつが輝いて見えるっつうもんよ」


 あぁ、まだ他にも奴隷さん達が居るのね……

 いや、これを見せられた後だと他の奴隷さん達も似たり寄ったりな感じじゃないかな? 大小は違うかもだけど。


「あの、ですね。僕に奴隷は早すぎると思うんですけど……」


「早い方が良いだろう? 大丈夫だ。次は最上級を見せてやるぜ? こっちはさすがに三人とは言えないが一人だけなら無利子で貸してやる。俺が死ぬ前には絶対に返せよ? とりあえず十年は待ってやる」


 違う、そういうことじゃない。


 もう、なんか、買わせる気まんまんのケルクラヴさんだった。


 どんなに美人で良い子が現れても、心が乱れて即決しそうになったらひかりのことだけ考えて乗り切ろう。


 でも最上級は気になるのでちょっとだけ見てみようと思う。



 奴隷館の三階、その中央に位置する場所。無駄に豪華な装飾のされた扉の前へとケルクラヴさんに連れられやって来た。


「ここが……」


「おうよ。あ、目ぇ閉じとけ。俺が良いって言うまで開けるなよ?」


「何故に……?」


「そりゃあ、中に入ってからのお楽しみってぇやつよ!」


 またドッキリさせる気ですか……


 まぁ、ここまで付いて来てしまった以上、ケルクラヴさんの気が済むまで付き合ってあげますか。


「まぁ、良いですけどね」


「んじゃ、手ぇ引いて行くから繋いだら目、閉じろよ」


 ケルクラヴさんに手を繋がれ目を閉じる。

 キーっという扉が開かれる音が聞こえた後、手を少し引かれたので歩き出した。


「よし、もう見ても良いぜ」


 ケルクラヴさんの許可が出たので恐る恐る目を開けてみる。


「え……?」


 目を開けると、そこでは高貴そうな女性、というかどう見てもお姫様たちが優雅にティーパーティーを楽しんでいる光景が広がっていた。


 奴隷って何だっけ?


「どうよ? 凄くね? 俺もここまですげぇことになるとは思ってもいなかったぜ! 本当にビックリだ! 金はめちゃんこ掛かったが、これにはそれだけの価値がある! いやぁ、良い仕事してくれたもんだぜ!」


 ケルクラヴさんが僕以上に感動していることは分かったけど、こんな綺麗な人達を奴隷として雇うとなると身が持たないというか、僕には絶対無理だなと思いました。


 庶民とお嬢様とでは生きる世界が違いすぎる。

 例え雇ったとしても僕が命令される方だろうなぁ……


「帰ろう……」


「おいおい、どうした? まだほんの少ししか見てねぇじゃねぇか。話しかけてもねぇのに、帰ろうとすんなよ……何だ、何が問題だ? どっかおかしかったか? 何か問題があるなら言ってくれ!」


 ケルクラヴさんが僕の胸ぐらを掴んで必死な形相で僕を前後に揺すってきた。


「落ち着いて、ください! どこもおかしくないですから! おかしいのはここに居る僕の方ですよ! 庶民がこんな綺麗で高貴なお姫様を奴隷として雇える訳ないでしょ! 命令するどころか僕が下僕として一生、仕えることになってしまいますよ!」


「お、おう……そういうことか。すまんすまん。確かになせるみたいな田舎者には荷が重過ぎるか。あまりの完成度にちょっと浮かれ過ぎてたな……ここは富豪か貴族専門にするかなぁ……」


「あら、良いではありませんか? わたくしは庶民の暮らしを知りたくて奴隷になったのですから、そこのあなた、わたくしをお雇いになりなさい」


「ひえぇ……!」


 もう、いかにもなお人に目を付けられちゃったじゃないか!


 ねぇ、これ断れるの? 断っても不敬罪とかにならないよね?

 縛り首とか絶対嫌だよ!?


「あ、あの……お金……持って、無いです。すみません……」


「あら、そうでしたの……ではわたくしがお支払い致しますわ。マスター様、わたくしはおいくらほどでしたか?」


 いや、奴隷本人が払っちゃダメでしょ!? 払われても困るよ! やめてやめて!


「嬢ちゃん、その辺で勘弁してやれ。なせるの顔から血の気が引いちまってるじゃねぇか」


「ふふ、そうですわね。ですがいつか機会があれば是非ご一緒したいですわ」


「ひゃ、ひゃい……」


「うふふ、それではご機嫌よう」


 そう言ってお姫様は元いた席に戻って行った。

 心臓に悪過ぎだよ……


 そんなやりとりを見守っていた他のお姫様たちにクスクスと笑われてしまい、いたたまれなくなってしまった。


 ほんと、もう帰りたいっすわ……


「つーわけで、最上級も見せた事だし本命行ってみるか!」


 うー、まだ帰してくれる気は無いのか……本命、って言う事は次は本気で買わせに来るのか……?



 お姫様たちのティーパーティー会場から出ていき階段を降りて、奴隷館二階の客室のあった位置とは反対の部屋へと連れてこられた。


「ここは至って普通の奴隷部屋だ。上と下は言ってみればお遊びみたいなもんで買い手がつけば御の字みたいなところがあるからな。だが、こっちはガチで商売させてもらうぜ」


「ですから、今はお金を持っていないんですってば!」


「おう、大丈夫だ。お試しって事で一人目は安くしてやる。もちろん後払いで良いぜ? 気に入らなかった時の返品手数料もタダにしといてやるから、まぁ、じっくりと選んでくれや」


「はぁ……もう、分かりましたよ……でも、気になる人が居なかった時は素直に帰してくださいよ?」


「おうよ! んじゃ、入るぜ」


 扉を開けて部屋の中へ入ると複数の女性たちがソファーに座って待機していた。


 えーっと、キャバクラかな?

 行ったこと一度も無いけど……


「んじゃ、ここで見てっから、後は好きに見るなり、話すなりしてくれ」


 うっ、話すと言ってもなぁ……


 正直こういうところに縁は無かったので何て話し掛ければ良いのか全く分からない。


 とりあえず部屋の中を見回してみると、どうやら女性たちは四つの区画に年代別に分かれているようで下は10代から上は40代ぐらいまでの女性たちが僕についてあれこれ話し合ってるようだ。


「ねぇ、キミ、同い年ぐらいでしょ? こっち来て話さない?」


「え? あ、うん……」


 10代組の居る方から話し掛けられたのでとりあえずそちらへ向かってみる。


 他の世代組の方から「こっちに来るまで決めちゃ嫌よ?」と言う声が聞こえた。

 さすがに年上を奴隷には出来そうにないので良くて30代までだろうな……


 いや、やっぱり僕の精神年齢的に10代までで。

 それ以上だとたぶん僕が命令される立場に落とされそうだ……

 シロニャさんのお願いなら何でも聞いてあげたいけど、ここに居るシロニャさん世代の人達は肉食系っぽくてちょっと怖いです。


「いらっしゃい! 私はサーヤよ。よろしく!」


「私はルルナ、こっちはムムル。同郷よ」


「ムムルです。ルルナとはここで出会って仲良くなったので連れて行く時は一緒にお願いします」


「ピーツァ……よろしく……」


「レイテだ。私を連れて行くならピーツァも一緒に頼む。ほっとけないんだ」


「ボクはイリーネ。ダンジョンに行くならボクを連れて行って欲しいな」


「私の番ね、クロニャよ。よろしくね!」


「は? へ? クロニャ?」

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