第24話
騒ぎを聞きつけたシロニャさんと一緒に居たラケルさんが何事かと奥から出てきたので、何が起きたのか事の次第を説明した。
倒れたクロニャをシロニャさんたちと一緒にクロニャの部屋まで運んで行き、ベッドに寝かせて介抱している最中、うわ言のように「魔女に殺される、助けて勇者さま……」などとクロニャが呟いていた。
冷静になって考えてみると、この状況は昔見たネトゲの都市伝説と良く似てるなと思った。
いや、「なせるくんどいて! そいつ殺せない!」という発言で気が付いてもいいはずなんだけど当事者になってみると全然気付かないものだ。
「私はすぐに気がついたわ。様式美って大切でしょ?」
「どんな様式美ですか……」
「刃物を持ったヤンデレちゃんに真面目に付き合う気は無いわ。命がいくつあっても足りないもの」
やれやれといった感じで両手を掲げてみせるひかり。
たしかにあの状態じゃまともに話しなんか出来そうに無かったか……
それにしても、あの優しかったクロニャの豹変ぶりには僕も驚いた。
あんな事になってしまうほど僕は彼女の事を知らず知らずのうちに傷付けてしまっていたのかもしれないな……
うーん、僕の記憶が曖昧になっていることと何か関係があるのか……?
僕はクロニャに何をしてしまったのだろう……?
「ねぇ、なせる君。クロニャのことどう思う?」
「どう、とは……?」
唐突に質問をされ戸惑う僕にシロニャさんが突拍子も無い事を言い出してきた。
「クロニャには幸せになって欲しいの……なせる君、クロニャをお嫁さんにしてあげて?」
「ぶふっ!? 嫁っ!?」
「ちょっ!? まだ早いわよ! 私の計画が……!」
な、何を突然言っているだ!?
嫁って……そりゃあ、クロニャに好意を抱いてはいたけれどまだ子供だし、ひかりと出会って無かったらクロニャが大人になった時、結婚しようとは考えてはいたけど今はひかりと結婚してるから、それって不倫しろってことで、えーっと、うーんっと、あーもう! 頭がごちゃごちゃだ!
「ごめんなさい神様。任せると言った手前、申し訳無いと思いましたが最近のクロニャを見ていると不安が募る一方でどうしても我慢できませんでした。クロニャには幸せになって貰いたいんです」
「はぁ……もう、しょうがないわね。いいわ。私もこっちに来てから浮かれていた所もあるし、許します。それとこれから私の事はひかりと呼んでちょうだい」
「ありがとうございます。ひかり様」
「様は止して、呼び捨てで良いわ。それと敬語も無しよ。一応あなたは――」
「ちょっと待って、ここで言っておかないと置いてきぼりにされちゃいそうだから言っちゃうけど、私もなせる君のことが好きなの、愛しているわ。それで良かったらなんだけど、私と結婚してくれないかな? ……って、うぅ、恥ずかしい。真面目な告白なんてお姉さん苦手よ……と、とにかく、私もなせる君と結婚したいから! それだけ!」
「へ……?」
脳内でひかりとクロニャの二人とどう付き合っていけば良いのかというシミュレーションで頭をいっぱいにしていると今度はラケルさんに突然プロポーズされてしまい僕の頭はパンクした。
「ウプッ!? ウ、オエエ、ゲボボボオオ」
「うわっ!? なせるんが吐いた!」
「あらあらまあまあ、大変大変」
「……なせる君。お姉さん悲しいよ」
違うんですラケルさん、あなたの事が嫌いとかそういうんじゃ無いんです。考え過ぎて吐くなんて自分でもビックリしてるんです。
隣に居たひかりに「全部吐いて楽になれ〜」なんて言われながら背中をさすられ、シロニャさんは掃除道具を準備し始めている。
ラケルさんは「よよよ……」と目元を拭う仕草をしているがどう見ても泣き真似なので気にしないでおこう。
少し落ち着いたあと。
シロニャさんとラケルさんの二人に「なせる君の気持ちも考えずにごめんなさい」と謝られたが二人とも真剣だったのは分かっていたので、いいえと首を横に振った。
そのあと掃除などの後始末をシロニャさんたちに任せてひかりの肩を借りて自室に戻りベッドで安静にしている。
ラケルさん曰く心因性の嘔吐だろうと言われ何も考えずに寝ていればそのうち落ち着くだろうとの事。
あんな事を言われたら考えるなと言われても考えてしまう。
クロニャは病んでしまうほどに僕のことを愛しているのだろうし、そんなクロニャを見ていたシロニャさんの心中は穏やかでは居られなかったのだろう。
そしていつもおちゃらけているラケルさんがあんなことを言い出すなんて正直驚いている。
というか、出会ってからまだ数日しか経っていないのに結婚したいとか正直よく分からない。
僕はこの先、彼女たちとどう向き合って行けば良いのだろうか……
と、また深く考えそうになりかけていた僕の頭をこつんっとひかりに叩かれてしまった。
「こーら、今はおとなしく寝てなさい」
「うぅ、でも……」
「しょうがないわね。じゃあスリープとスリプルとラリホーどれで眠りたい?」
「睡眠呪文ですか!? 全部掛けてください!」
「なせるんって魔法関係になると興奮するよね」
「超能力とか憧れていて漫画で読んだ修行法とか練習してましたからね」
「ふふふ、本当に子供のままなのね」
「あはは……なんせヒキニートでしたからね」
少し心に刺さるものがあったが事実なのでしょうがない。
子供のまま体だけが成長した僕が出来る事と言えば現実逃避だけだった。
そんな甲斐性無しな僕が彼女たちを幸せにする自信なんて無いし……
本当にどうしたら良いんだろうか……
「こら! 悪い意味で言った訳じゃ無いんだからネガティブにならないでよ」
「でも……」
「今は調子が良くないからそういうネガティブ思考に陥りやすいのよ。とりあえず今は寝ときなさい」
そう言うとひかりは僕の額に手を置き《スリープ》と唱え、僕はひかりの手の暖かさを感じながら意識が遠のいて行くのに身を任せ眠りについた。
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