第19話
「ドラゴン捕獲!? だって目の前に居るじゃないですか! ……あの、大人しく捕まってくれるんですか?」
恐る恐る目の前にいるライベルマイトさん、見た目イケメン紳士の青年は少し困惑した様な苦笑いを浮かべている。
「いやぁ、誰かに飼われるってのはちょっとご免かな……ははは」
じゃあどうしろと……
「じゃあどうしろと、という顔だね。はっはっはっ、何も本物のドラゴンを捕まえる必要も無いのさ。人間達が欲しがっているのはどうせ移動用に使う騎乗ペットってところだろ? ならヤモリドンかイモリドン、オオサンショウドラゴンなんかがオススメさ」
ヤモリとかイモリとか元の世界に居た生物と同じような名前を聞いて、あれ、もしかして行けるんじゃね?とか思ってしまう。
いや、急にスケールダウンした感じで簡単そうな響きになったけど騙されてはダメだ。
何と言ってもここは異世界。
モンスターや魔物が
「はは、そんな難しい顔をしなくても、あいつらは餌さえやれば付いてくるアホウガモと一緒さ。人間達に同列視されているのも腹立たしい、とまでは言わないが、区別ぐらいはつけて欲しいね」
「むむ、危険は無さそうだけど、それなら――」
「同列視されていると言ったろう? 手を出す冒険者なんて稀さ」
先読みされてしまった。
流石はドラゴンというべきか、人が考えることなんて何でもお見通しさ、みたいな感じで察しが早い。
「それで餌を捕まえないといけないのだけど、まあ、今の君でもヘヴィスパイダーや魔王コオロギぐらい倒せるだろう。ダークミドガルズワームは流石に無理だろうけど」
「すごく物騒な名前が聞こえたんですけど……?」
ヘヴィはまぁ、でかくて重たそうな蜘蛛ってところだろうけど、魔王って……
エンマコオロギはたしか顔が怖いっていうのが由来だったと思うけど魔王コオロギも顔が魔王に似てるのが由来なのだろうか?
いや、きっと魔王の尖兵とかで、黙示録に出てきたアバドンが率いるイナゴの大群とかそんな感じのヤバイ魔物だろ……
ダークミドガルズワームとかはもう想像も出来ないよ。
「ん? ああ、まあ、大丈夫さ。装備ぐらいは貸して上げるよ。ちょっと待ってて」
装備を取りにライベルマイトさんが部屋を出て行ったので神様、じゃなくてひかりにどうするか聞いてみるか。
「はい、神様呼びしたので減点ね。なせるんも慣れないわね。そんなに私って威厳あるかしら?」
「ただ慣れてないだけですよ。ひーちゃん」
威厳は……
あ、いや、やめておこう。
威厳あるよね。うんうん。
これ以上は減点されたくない。
というか減点されるとどうなるんだ……?
「ふふ、それで良いのよ。それでどうするか? なんて聞かなくても分かっているでしょ?」
まあ、そうなんですけどね。
でもヘヴィスパイダーとか魔王コウロギなんてどう考えてもでかくて凶暴な奴ですよ。
絶対ぶっ殺されるのがオチですって。
それにあのイケメンドラゴンが僕達に協力的なのもよく分からないし。
「どうしたものか……」
「ま、あのイケメン君は信用して大丈夫よ。あの子のお爺さんからの付き合いだしね」
「えっと……それって……?」
「あ、勘違いしないでよ! 私はこれまで誰とも付き合ったことなんて無いんだから! ちょっとお告げしてあげただけだから! 処女だから! いや、性別とか無いんだけど」
「わーわー! 分かりましたよ! ひーちゃんのこと信じてますから!」
「そ、なら良いわ」
急に処女とか言い出すから童貞の身にはビックリワードだよ……
「童貞……ね。そうね、なせるんはまだ童貞だもんね」
「からかわないでくださいよ!」
「お二人とも新婚だけあって
いつの間にかライベルマイトさんがどう見ても高価そうなアイテムの数々を色々抱えて戻って来ていた。
「お姉さんが居るんですか?」
「ええ、まあ、そんなことより装備を持って来ましたよ。人間の、というより八肝君が使えそうな物がよく分からないので軽めの物とマジックバッグを用意してみました」
おお、久しぶりの魔法関係! テンション上がる!
「マジックバッグとはどういった物なのでしょうか!? 詳しく教えてください!」
「ははっ、テンション高いね。うーんと、何でも入るし汚れないし壊れもしない鞄ってところかな?」
「何それ、すごい!」
「ええっと、あと何でも、とは言っても生きているものは入れられないんだけど、植物とかは入れられたりするんだよね。その辺は俺にもよく分かってないんだ」
「すごいですね! 何か入れてみても良いですか!?」
「え、ああ、良いとも。テーブルに置いてあるコップに水を入れてそのままバッグに入れてみると面白いと思うよ?」
「なるほど、試してみましょう!」
言われた通りテーブルに置いてあった水差しでコップに水を注ぎマジックバッグの中に入れてみる。
「零れそうですけど?」
「蓋を閉じて振ってみて」
半信半疑でバッグの蓋を閉じて振ってみると中からバシャバシャ水が零れてシェイクされている音が聞こえた。
「これ絶対零れましたよ!?」
「ふふっ、じゃあ、開けてみてくれ」
言われた通りバッグの蓋を開けると、そこには、水が零れたような跡も無くバッグに入れた時の状態のまま何事も無かったかのように水が入ったままのコップが入っていた。
「すっごーい! 何これ何これ!?」
「なせるん、知能が低下してるよ」
「と、まあ、そんな感じで入れた時の状態のまま出てくるのさ」
「他には? 他には?」
「それは狩りをしてからのお楽しみさ」
「狩りごっごだね! 負けないんだから!」
マジックバッグを持ってそのままの勢いで出て行こうとする僕の頭をひかりのゴッドハンドで鷲掴みにされ落ち着かされた僕は、今現在、武器選びの真っ最中だ。
「それで八肝君はどの武器が使えそうかな?」
「えーっと、子供の頃に剣道を習っていたので刀が良いかなっと」
「じゃあ、これなんか良いかも」
テーブルに並べられた数ある刀から、紫色の禍々しいオーラが漏れ出ている誰がどう見ても一発で妖刀だと分かる物をライベルマイトさんが持ち上げると僕に渡そうとしてきた。
「持って平気ですか?」
「私の加護があれば平気よ」
ひかりはそう言うけど普通の人だったらどうなるんだろうか?
「普通の人は?」
「発狂して絶命すると思います」
「いやいやいや、そんなの持て、あー!?」
ライベルマイトさんから妖刀を受け取ったひかりが僕に投げ渡してきて
「ほらね、大丈夫だったでしょ?」
大丈夫じゃなかったらどうする気だったのだろうか……
もう済んでしまった事だし考えてもしょうがないか……はぁ……
「大丈夫なのは良いですけど、これめちゃくちゃ軽いですよ。空気で出来てるみたいです……すごい」
ブンブン振ってみるがそもそもブンブンともヒュンヒュンとも言わず風切り音すら聞こえない。
「試し切りしてみますか?」
「お願いします!」
と、ライベルマイトさんが右腕の袖を捲って僕の目の前に差し出して来た。
何をしているんでしょうか……?
「どうぞ」
「いやいやいや!? どうぞってどういうこと!?」
腕を斬り落とせということなのか? そうなのか? 違うと言ってよ!
「ご心配無く、直ぐにくっ付きますので」
「そういう問題!?」
「そもそも俺の腕を斬り落とすことが今の八肝君の力で出来るとは思えませんので」
ああ、そういう感じなのね。
良いだろう。乗ってあげましょう。その挑発!
「じゃあやりますよ? 本当に斬れてもキレないでくださいよ!」
「面白いこと言いますね。好きなタイミングでどうぞ」
何千回と素振りをしていた子供時代を思い出して精神を集中させていく。
深く深く、深呼吸してただ目の前にあるものを斬ることだけに意識を向ける。
眼を見開き、刀を振りかぶり、無駄な力を抜いて、目標を斬る!
「ハッ!!」
ゴトッという音がした。
「切り口がすごく綺麗です。血も出ていないし、八肝君には才能がありますね!」
「さっすが! なせるんすごい!」
え、え、これ、これ、くっ付くよね? くっ付くんだよね?
「あわ、あわわ!?」
「青白い顔をしてそんなに心配しなくても、ほら、切り口が綺麗なので戻し斬りとさほど変わりませんよ」
ライベルマイトさんが自分の斬り落とされた右腕を拾って斬られた腕にくっ付けると傷痕すら残さずに治ってしまった。
「この妖刀の斬れ味もすごく良いですが八肝君の剣の腕も中々良いですね」
「そ、そうなのかな?」
「そうね、100人中90人には入るわね!」
「それってほぼ全員に出来ることじゃないですか……」
「その90人のうち何十年も修行した1人が達人の域に達せられるかどうかという話しで、なせるんも修行すれば達人になれるチャンスがあるってこと。それって素晴らしいことよ?」
「はぁ……?」
才能があるってことなんだと思うけどその修行を何十年も続けられる才能は僕には無いですよ……
「これでなせるんの装備が決まったわね。それじゃ狩りに行きましょうか!」
「待ってください! まだ防具が決まってませんよ!」
「刀に防具ってどうなの?」
「少なくても面と胴と籠手は必要ですよ」
「それ付けて素早く動けるの?」
「それは……それです」
「じゃあ要らないわね」
「じゃ、じゃあ、何かマジックアイテム! 指輪とか首飾りとか防御が上がるアクセサリーぐらいは付けさせてくださいよ!」
このまま防具を何も装備しないのは心許ないし。
「ではこちらをどうぞ」
ライベルマイトさんに指輪と腕輪それと首飾りなどなどを手渡された。
どれもこれも高価そうなものばかりだ。
どれか一つでも貰って売っぱらえば種金にはなりそうだな。
「その場合、冒険者ギルドの信用はガタ落ちね。なせるんは悪く言われないと思うけど依頼を出したクライアントのギルドへの信用は失うわね」
「え? でもあの依頼は冒険者ギルドが出しているんじゃ?」
「あの田舎にあるギルドよ? そんなにお金があるように思う?」
「思いません」
「今頃、金持ち相手にあれこれ手を焼いている頃じゃないかしら? それを
「痛みます」
「ならよろしい」
何か上手く騙されているような気がしないでも無いけど確かめようも無いのでどうすることも出来ない。
ということでアクセサリーを色々試した結果、幸運アップと汚れ防止と敵感知の指輪を装備することになった。
「防御力とか痛み止めとか回復とか無いんですか?」
「ありましたよ。八肝君の今のレベルだと装備出来なかったですけど」
「あー、着けても直ぐに外れちゃった奴か」
というかレベルって冒険者レベルのことかな?
「当たらずとも遠からずってところね。実際のレベルは冒険者レベルとは違うわよ」
いつの間にか修道服から、頭にうさ耳を着けて、健康的な生脚がお尻まで見えそうなレオタードで、胸元が大きく
って、まあ、ここまでじっくりと観察すれば何の作品のコスプレかは思い出しているんですけどね。
「グランぶーむぅ、んー! んー! 」
これ以上はいけない。
「それで、実際のレベルは冒険者レベルとは違うという話しですけど、ひーちゃんには僕のレベルが見えてるんですか?」
口を塞いでいた手を離してあげた。
また変なことを口走ったら容赦はしない。
「あぁ~! なせるんのグッドスメルがあ~! クンカクンカッ! いつもその手でしているのね、ハァハァッ!」
「そっちではあまりして、って何を言わせるんですか!」
もうやだ、この変態。
早くなんとかしないと……
「まあレベル以外もある程度のステータスは見ることが出来るわよ」
テンションの振り幅が激しすぎて突っ込みが追いつかない……
いや、ここで突っ込むとキリが無いので話しを進めよう。
「それは神様だから出来ることなんですか?」
「鑑定系のスキルを持ってる人なら大体は出来るんじゃないかしら?」
「なるほど……」
鑑定スキルかぁ、やっぱり異世界ならそれぐらいはあるよね。
つまり、これからはひかりにレベルが上がったどうか聞けば僕の強さがすぐに分かるということか。
「教えないわ」
「え?」
「知りたければ自分の力で鑑定スキルを手に入れなさい」
「どうしてです? 良いじゃないですか別に……」
何か問題があるようには思えないけどなぁ?
そんなことを考えているとひかりの顔がムスっとした気がした。
「何、でしょうか……?」
「何でもないわ。とりあえずさっさと狩りに行きましょう」
僕のステータスってそんなにマズイんですか……雑魚なんですか……雑魚なんですね……くっ……!
これ以上は聞いても話してくれなさそうなので狩りに出掛けることにした。
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