第16話

「それじゃ、なせるん。カジノに行きましょうか」


「え? なんだって?」


 神様は急に何を言っているんだ? 

 カジノ?

 カジノって何だ?


 あ、この世界にはカヂノって言う地名があるのかな?


「あの、シロニャさん、カヂノって言う国や街はありますか?」


 シロニャさんに顔を近づけて小声で質問してみた。


「ふふふ、なせるくん。神様が仰っているのは賭け事が出来るリゾート施設のことなんじゃないかしら?」


「その通りよシロニャ。なせるんも難聴系主人公とかめんどくさいからやめてよね」


「いや、頭で理解出来てないというか……」


 やっぱりカジノはカジノなのか。


 でも何で急にカジノに行きたいなんて言い出したんだ?


 もしかして神様、こっちの世界に来れたからって賭け事でただ単に遊びたいってだけでは……?


「良いから、良いから、私に導かれなさい」


 何か誤魔化した感じがあるけど、神様が行くと言えば行くしか無いんだろうなぁ……

 まぁ、行かない理由も無いし、正直、行ってみたい気持ちもあるから、ここは素直に神様に導かれよう。


「ところでカジノに行くのは良いんですけど、僕はそんなにお金持ってませんよ? それにこの村にカジノってありましたっけ?」


 シロニャさんの方を見て質問してみた。


「うーん、この村には無いわね。カジノならダンジョン街と王都、それと豪華客船、海上のオアシス号が有名ね」


「じゃあ、この村から一番近いカジノが良いわね」


「一番近いのはダンジョン街のカジノですけど、馬車だと二週間ほど掛かります。グリフォンかドラゴンが居れば半日ぐらいで着きますけど……貴族や一部の冒険者ぐらいしか手懐けているものが居りませんので、借りるとなると相当な金額が……」


「その辺は大丈夫よ。それとなせるん、お金持って無いって言ってたけど、なせるん今いくら持ってるの?」


「えっと……」


 たしか財布が無いからってズボンのポケットに無造作に入れたままだったはず。


 ポケットの中身を漁ってスライム捕獲で手に入れた1500ダルクを取り出した。


「これだけですけど……」


「マジで?」


「マジです」


 「はぁ~」っと深い溜息をついて、これ見よがしに落胆した様子を見せつける神様。


 しょうがないじゃないか、まだ一度しかクエスト受けて無いんだから。


「まあ、いくら持ってるか知ってたけど」


 なら何故聞いた!


「あの、お金なら私が」


「それはダメよ。なせるんのプライドがズタボロになってしまうもの」


「あ、ごめんなさい。なせる君」


「い、いえ、大丈夫です……」


 もうやめて! 僕のプライドはもうズタボロよ!


「うぷぷぷ。とりあえずなせるんをおちょくって楽しむのもこの辺にして、種金集めにクエストに行きましょうか」


 くそぅ……見た目は完璧なのに性格がまるでよろしくない……


 待てよ……?

 

 この神様は元々僕の宗教観、つまり今まで見てきたアニメに出てくる神様が混ざったような存在なんだから、例えば、永遠の17歳女神を強く意識すれば――


「無駄よ、なせるん。私はもう、私として現界してしまったもの。あの世界でなら直せたかもしれないけど、もう手遅れね。まぁ、なせるんがどうしてもって言うのなら、その永遠の17歳女神の振りぐらいはしてあげるわよ?」


「いえ、遠慮しときます」


 よく考えたらシロニャさんと被りそうだなと思い遠慮しておいた。


「……?」


 シロニャさんの方を見ると何を言っているのか理解出来ていない様子できょとんとしている。


 く、なんて可愛さなんだ……!


 もし、女神総選挙があったとしたら、シロニャさんを第一候補として推薦したいね。


「ふーん、そう」


 心の声は神様にはダダ漏れのはずなのに、予想と違って何故か生暖かい目で神様に見られてしまった。


 何か企んでいる感じがして怖いな……


 ◇


 クエストを受けに冒険者ギルドに行く途中、村人達が僕の顔を見て「勇者様だ……」とひそひそと小声で話すのが聞こえてきた。


 もしかして勇者の顔に戻ってたりします?


「ええ、戻ってるわね」


 やっぱり……って。


「神様、戻ってるの知ってたのなら教えてくださいよ」


「神ちゃん……」


「え?」


「二人の時は神ちゃんって呼んで」


「えっと……神ちゃん」


「えへへ、なせるん」


 はにかんだ神様はまさしく神的な可愛さだった。


「ね、手、繋ごう?」


「あ、はい! 繋がせていただきましゅ!」


 な、なんて可愛さなんだ……!


 僕が利き手を差し出すと神様が恋人繋ぎで手を絡めて来たので頭が沸騰し出した。


 こんな、こんなことされたら、性格の良し悪しなんて、もうどうでもいいや。



 ただ、何かはぐらかされた気がするが気のせいだろうか?

 まぁ、今は神的に可愛い神ちゃんの笑顔を見つめながらイチャイチャしたいね。



 神ちゃんとイチャラブしながら冒険者ギルドの扉を開けるとギルド職員さん達が扉の前に左右二列に整列して待ち構えていた。


「「「ようこそ勇者様! 」」」


 うおっ!? 何事っ!?


「本日は当冒険者ギルドにお越し頂き誠にありがとうございます! 急なご来訪でなんのお構いも御用意出来ておりませんが、ごゆるりとおくつろぎ出来ますよう職員一同粉骨砕身でおもてなしさせて頂きます!」


 え? え? 何? この人達、何言ってるの?


 ボクユウシャチガウヨ?


「これ、勇者様。このように出迎えてくれたのだ。何か挨拶でもしてあげてもバチは当たりますまい」


 何言ってる神様!?

 挨拶って何? 何て言えば良いの?

 ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ。


 (突然の訪問にもかかわらず、快く歓迎して下さり、誠に感謝する)


 頭の中に神様の声が響いて来た。


 これが天啓というものか。


 (ボケッとしてないで挨拶しなさいよ!)


「すみません! あ……」


 ギルド職員一同がきょとんとした表情を見せた。


 失敗した。失敗した。失敗した。


 (落ち着きなさい! 私が付いてるから! 私が言った事をそのまま喋りなさい。良いわね?)


 神様の顔を見ると自信たっぷりに全てを任せなさいという様な笑顔で僕を見てくれていた。


 うんうんと首を縦に振って頷く。


 そうだよ。僕には神様が付いているんだ。もう何も怖く無い!


 (死亡フラグを建てる余裕はあるみたいね。良い? もう一度言うからそのまま喋りなさい)


 お願いします!


 (突然の訪問にもかかわらず、快く歓迎して下さり、誠に感謝する)


「えー、こほん。突然の訪問にもかかわらず、快く歓迎して下さり、誠に感謝する」


 「おー」という感嘆した声が職員達の数人から漏れ聞こえて来た。


 何だか良い感じみたい。


 (とある事情により、金銭が足りなくなったゆえ、報酬の良いクエストを見繕ってくれるとありがたい)


「とある事情により、金銭が足りなくなったゆえ、報酬の良いクエストを見繕ってくれるとありがたい、です」


「そうでしたか。ではドラゴンの捕獲はいかがでしょうか? 最近ではドラゴンを捕獲出来る冒険者もめっきり減ってしまいましてな。南の山に複数頭、住み着いていると聞きますので一頭辺り1000万ダルクお支払いします」


 (では、そのクエストを引き受けよう。今すぐ発つので金銭の用意をして待っていてくれ。見送りは遠慮する)


「では、そのクエストを引き受けよう。今すぐ発つので金銭の用意をして待っていてくれ。見送りは遠慮す、します」


「おお、流石勇者様! 職員一同、心よりお待ち申し上げます」


 あれ? 何も考えずに言っちゃってたけどドラゴン捕獲? 今すぐに? 無理でしょ?


「ささ、勇者様、日の暮れないうちにぱぱっと捕まえて来ましょうね」


 神様は笑い声を堪えながらニヤニヤと僕を見ていた。


 ドラゴンなんてどうするのさ!?



 僕がドラゴンについてあれこれ考えているとそのまま神様に手を引かれて村外れまで連れて来られた。


「ここなら大丈夫かな?」


「あの神様「神ちゃん」……神ちゃん、ドラゴン捕獲なんて本当どうするんですか?」


「あら、簡単なことよ? ドラゴンに自分の強さをアピールすればあとは勝手に懐くから」


「強さって……あぁ、神ちゃんが戦ってくれるんですね」


「え、嫌よ。私、暴力反対派の神だから」


 何、その取って付けたような設定……


「設定じゃ無いわ。本当の事よ」


「いやでも、それじゃどうするんです? 僕もドラゴンとは流石に戦ったり出来ませんよ?」


「大丈夫、大丈夫、神たる私が付いてるんだからなんとかなるなる!」


 腰に手を当てウンウン頷く神ちゃん。


 神様に自信があっても僕には無いんですよ……


「そんなこと言われても……」


「ほら、あれよ、戦うだけが強さの証って訳でも無いし、とにかく行ってみてから判断しましょう」


「まあ、行くだけは行ってみますけど装備とかこのままじゃダメじゃないですか?」


 ギルド職員さん達にあんなことを言ってしまった手前、手ぶらで帰ることも出来ないし、なんとかするしかないんだけどさ……


「大丈夫だ。問題無い」


「それは負けフラグですよ、神様……」


 ニヒヒと犬歯を見せて笑う神様。


 言いたかっただけだな、こいつ。


「良いから良いから、とにかく行ってみましょ!」


 こうして何がなんだか分からないうちにドラゴンの捕獲なんていう現実では絶対に有り得ないイベントフラグを立ててしまい、この先どうなってしまうのか不安でいっぱいになってしまう八肝なせるなのでした。


 まあ、神様が付いてるしなんとかなるでしょ……たぶん。

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