第14話
夢を見ていた。
その夢は凄く心地が良かった。
心が満たされて行く。
ああ、気持ちが良い。
こんなに気持ち良いと堕落してしまいそうだ。
いつまでもこの夢が覚めなければ良いのに……
◇
目が覚めた。
「知っている天井だ……」
そこはシロネコ亭にある自分の部屋だった。
いつの間に眠ってしまったのだろうか?
昨日はクロニャと風呂屋に行って、それから……思い出せない。
記憶をぐるぐる巡ってみても思い出せそうにないのでとりあえず起きよう。
起き上がり、身支度を整え、スライムをプニプニ撫でて食堂に降りる。
起きたのが早かったようでシロニャさんが見当たらない。
部屋に戻ってもスライムを愛でる以外にすることも無いので散歩でもしよう。
ついでにスライムのエサ探しもしよっと。
外に出て朝の新鮮な空気を体に取り込む。
「すうー、はあー」
元の世界では都会育ちだったのでこういう田舎特有の澄んだ空気の香りは最高だね。
「よし」
あまり遠くに行くのもあれなのでシロネコ亭の周辺を散策することにした。
周辺と言っても民家や畑ぐらいしかないのでスライムのエサ探しが主だ。
「エサ、エサっと」
畑に生えている雑草を勝手に抜くと怒られるかもしれないので道端に生えている雑草を引き抜いて行く。
雑草をぶちぶちと小気味良く引き抜いて行く最中、どう見てもマンドラゴラにしか見えない手の平ぐらいの大きさの人の形をした謎の植物を引き抜いてしまいギョッとした。
幸いにして、干からびたマンドラゴラは大きな叫び声をあげることもなく発狂死せずに済んだ。
「み、みず……」
「しゃ、喋った!?」
「う、うぅ、水を……」
「水!? あわわ! 水! 水!」
しわがれた声で水を求められたので慌ててシロネコ亭に戻って水を飲ませてあげると、一気に膨らんで妖精の女の子に姿を変えた。
マンドラゴラを引き抜いたと思ったらアルラウネの妖精を引き抜いていたということか?
「ふぅ~、助かりました」
「あ、いえいえ」
「ところで、あなたは私を食べますか?」
「食べる? いやいやいや。食べませんよ」
「はー、そうですか。仕方ないですがあなたが死ぬまでご一緒させてもらいますね」
「はい?」
えーっと、引き抜いた事による呪いか何かか?
四六時中付き纏われて呪い殺されるのか?
……こんな訳の分からない死に方は嫌だー!
「引き抜いた事は謝りますので呪い殺さないでください! お願いします!」
「え? 呪い殺したりは出来ませんよ。むしろ私と居ることで長生き出来ます。良かったですね」
「ど、どういうこと?」
「はー、説明するのめんどくさいので指、出してください」
「指、ですか?」
言われた通り利き手の人差し指を近付けるとカプッと噛まれた。
「痛ッ!?」
次の瞬間、頭の中にありとあらゆる時代の風景、人や動物、この星の記憶全てを詰め込んだような情報と言う名の爆弾が脳内で炸裂して、人の脳で処理しきれるはずも無く、鼻血が吹き出し卒倒する。
◇
目が覚めた。
長い夢を見ていた気がするがどんな夢だったか思い出せない。
スマホで時刻を確認しようとしたが充電が切れてるようだ。
仕方なく机に置かれた時計を見ると7時を指していた。
窓を見るとカーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。
昼寝のつもりが朝までぐっすりだったみたいだな。
スマホに充電ケーブルを指して机に置き起き上がる。
顔を洗いにドアノブに手を掛けると、ばたばたと壁と天井がサイコロの展開図のように手を掛けたドアノブだけを残して倒れていった。
「まだ夢だったか……」
残ったドアノブをその辺に捨てて、この現実感がまるで無い真っ白な世界からさっさと目を覚まそうと思い、布団に潜り込み、目を閉じた瞬間、どこからか声が聞こえてきた。
「ちょっと、ちょっと、すぐ寝るとかなくなくない? もっと驚くとか探索したりとかあるでしょ?」
「フッ」
僕が密かに期待していたイベントがやっと起きたかと思い、微笑した。
「なになに? 意味深に笑って中二病ですか? それとも全てを察した的な?」
「いや、こういうのはアニメやラノベで見たことがあるからやっと僕の所にも来たかと思ってね」
「ふむふむ、なるほどね。じゃあここの説明は省くけどあなたは死にました。ご臨終です。お疲れ様でした」
……少し予想してたのと違った。
と、言うことは……やっぱり、あの情報爆発で脳が焼き切れて、僕は死んでしまったという事か……?
つまりここは死後の世界?
ヤバイ……段々と恐怖が込み上がって来たぞ……
「あは、ウッソでーす! 引っかかった! 引っかかった! ぷぷぷー。ちょっとした神様ジョークよ。赦しなさい。私は赦す。神だから」
こいつ……
これで見た目がひげもじゃのじじいだったら一発ぶん殴らないと気が済まないな。
猫耳ロリ巨乳で例の紐を着けて水色の長髪ツインテールでどう見てもパンツを履いていない中学生ぐらいの美少女神様なら赦す。
「うわー、欲望ダダ漏れね」
む、ひょっとして考えてる事、分かります?
「そりゃそうよ。なんたって神様だからね!」
サムズアップして自慢気な表情をした美少女神様が目の前に現れた。
今まで見て来たアニメに出て来る女神様を全部足したような姿だ。
最近見たアニメが色濃く出ているようだけど。
「君の宗教観にとやかく言う気は無いけどもう少しまともな姿にならないかな?」
「なりません。今の姿が一番可愛いです神様!」
「そうかい? それなら良いけど」
本当可愛いなぁ、神様。
神様と結婚ってのもありかもしれないな。
いや、僕にはもうクロニャという心に決めた人が……
「それ、良いわね。結婚しましょう!」
「え、なんだって?」
「急に難聴になるなんてハーレム系主人公の素質があるわね」
「け、結婚なんて、ただの妄想ですよ! 本気にしないでください!」
「いや、神、本気だから。断ったら天罰落とす」
「うぐっ……」
この息が詰まるような、心臓を鷲掴みされたような威圧感。
これが神様か。
「汝は、神を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、未来永劫、愛を誓い、妻を想い、神と神に認められた妻のみに寄り添うことを、神による婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
急に神聖な光やら教会やらが出て来て結婚の誓いを言われても……
これ断ったら天罰落とされるんだよね……
「落とすわ。まあ、天罰って言ってもピンと来ないかもしれないから、とりあえず一番痛い奴ね」
く、殺せ……!
いや、やっぱり死にたくないです!
くそぅ……誓うしか無いか……
「うー、誓います……ん」
「え? なんだって? ちゃんと聞こえるようにハッキリと言って? あと語尾にんって付けるの禁止ね」
くっ、やっぱり誤魔化せないか……
しょうがない、ここは素直に諦めよう。
「誓います! 誓えば良いんでしょ! 誓えば!」
「んふふっ、素直でよろしい。これからよろしくね。なせるん!」
「なせるんって……まあ良いですけど」
「私のことは神ちゃんって呼んでね」
「神ちゃん……」
妙にキャピキャピした神様だな。
「よろしい。それじゃあ現世に戻りましょうか」
「戻れるの? というかここって? 色々説明不足ですよ、神様」
「あら、アニメやラノベで察してたのではなくて?」
「いや、それは……」
正直強がってました!
はっきり言ってこの状況はチンプンカンプンで頭がどうにかなりそうだよ!
「クスクス、そうねぇ。一から十までなんでも教えちゃうのは面白く無いし。一つだけ聞きたい事を教えてあげる」
「一つだけ……」
神様が一つだけ何でも教えてくれるって?
何を質問すれば良いんだ?
宇宙の真理とか人はどこから来てどこへ行くのかとか生命、宇宙、すべての答えとかか?
そんなものを聞いても僕にはどうしようもないだろ……考えろ、考えろ。
運命の人……は神様だったけど目の前に居るし、将来どうなるかは聞くの怖いし、えーっと、えーっと。
あっ。
「あら、決まったようね。それじゃあ聞かせて貰いましょうか」
「それでは質問させていただきます」
深呼吸して心を落ち着かす。
「汝、神様は、この八肝なせるを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、愛を誓い、夫を想い、夫と寄り添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「あー、そう来たかぁ、良いわ。一方的な契約じゃ不公平だものね。ええ、誓います」
「おっしゃー!」
昔、演劇部の助っ人で神父役をやった時のセリフをまだ覚えていて良かった。
たぶんあってるはずだけど、まぁ間違ってた時はその時考えよう。
「ふふふ、でも良かったの? 他にも色々聞きたかったみたいだけど?」
「だって結婚の誓いって一方だけにするものじゃないでしょ?」
「あなたって結構ロマンチストなのかしら?」
「そうかもしれませんね」
二人でクスクスと笑いあう。
「それじゃ現世に戻します。戻ったら少しだけなせるんの体、借りるね」
え?っと言う前に暗転。世界は闇に包まれた。
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