第10話
シロネコ亭に帰って来た。
スライムをペットとして飼って良いかシロニャさんに聞くと「なせる君って面白い趣味をしているのね」と言われてしまった。
とりあえず飼っても良いみたいで大き目のタライを渡された。
何故タライなのかは……まあ、スライムだし、部屋が湿りそうってことなのかな。
スライムをタライに入れて自分の部屋へと向かう。
「さてと、先ずは名前を決めないとな」
スライムが入ったタライを机に置いて顎に手を添えて考える。
はっきり言ってネーミングセンスは無い。
無いけどもゲームのキャラ名などを考える時には1〜2時間はじっくりと考えて決めていた。
結局、最後は北欧神話系の名前にするか好きなアニメのキャラ名を付けたりするので無駄な時間なんだけどね。
ポチタマミケシロクロ……まあ、安直。
オーディン、ロキ、トール……はスライムに付けるには仰々しいな。
スライムだから、スラ助、スラりん、すらポン……なんか違う。
水色だから青色1号とかは……さすがにダメだな。
そう言えば青色1号って別名ブリリアントブルーっとかって言ったかな? 長年のヒキニート生活で無駄な雑学ばかり覚えてしまったな。
確かに透き通っていてブリリアントなスライムではあると思うけど、もっと可愛い名前が良いな。
「あうっ!?」
うんうん唸って居るといつの間にかクロニャが背後に立っていて脇腹をこちょこちょと
脇腹は子供の頃から、もの凄く弱いのである。
「やっと気付いた。なせるくん、晩ご飯出来たって」
「あー、もうそんな時間経ってたか」
窓の方を見てみると日が
「お母さんから聞いたんだけど、なせるくん、スライム飼うんだってね」
「あー、うん。そうなんだけどね。スライムの名前が中々決められなくってさ」
「それでうんうん唸ってたのかー。じゃあゼリンに似てるからゼリーちゃんで」
「ゼリーちゃんって……いや、意外と悪く無いかもしれないな。ところでゼリンって?」
僕の予想だとゼリーとプリンが合体した異世界スイーツってところだろう。
クロニャが首を傾げている。
ここがアニメや漫画の世界なら頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいると思う。
「なせるくん、ゼリン知らないの?」
「ゼリーとプリンっていうお菓子なら知ってるけどゼリンは知らないな」
「ゼリーとプリンってどんなお菓子!?」
クロニャが急に詰め寄って来て、押し倒されそうになったのを肩を掴んで押し戻そうとしたら、何故か抱き締めていた。
何故抱き締めているのか分からないと思うが自分も何をしているのか分からなかった。
クロニャを見ていると抱き付きたくなる衝動が抑えられなくなってしまい、またもや無意識に体が動いてしまったようだ。
ロリコンじゃない……はずなんだけどな……
自分で自分が信用ならなくなっきたぞ……
「へっ……?」
「あっ、ちがっ!」
急いでクロニャから離れようと後ろに下がると、ベッドに足を取られて仰向けに倒れそうになって、反射的に何かを掴もうとしてクロニャの手を掴んでしまった。
「うわっ!」
「きゃっ!」
そのままベッドに倒れるとクロニャの頭が僕のみぞおちにクリーンヒットする。
「ぐえっ!」
「うっ!」
クロニャも鼻をぶつけたようで手で抑えている。
「ごめん、大丈夫?」
「う〜、痛いけど、大丈夫」
この状況、
ちょっと気まずい。
「……えーっと」
「ねえ、なせるくん。キス、しようか……?」
「えっ?」
言うや否やクロニャの顔が近づいてきてガチッっと前歯が唇越しにぶつかった。
「「イタッ!」」
唇を手で抑えながらクロニャの方を見るとクロニャも同じように手で自分の唇を抑えていてそれが何だか面白くって吹き出してしまった。
「プフッ」
「ふふっ」
「「あはははは」」
二人してひとしきり笑い終えるとクロニャが真剣な表情になって僕を見つめる。
「もう一度キスをします。今度はゆっくりと痛くないようにするので動かないでください」
問答は無用とばかりに顔を近づけてくるので肩を抑えて止める。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、クロニャ。何でそんなに僕とキスをしたがるんだ? 勇者の顔ならまだ分かるけど元の、この顔はそんなにカッコ良く無いだろ?」
「ちがっ、う……けど、よく分からないよ。勇者さまが好きなのか、なせるくんが好きなのか、色々考えたけどよく分からなくて、それにラケルさんがなせるくんにキス……をされてから、なせるくんの唇が気になっちゃって、今日もずっとなせるくんのこと見てたけど、なんて声をかければ良いか分からないし……だからこのチャンスを逃さないようにって、この気持ちが勇者さまになのか、なせるくんになのか、キスをしたらはっきりすると思ってそれで……」
「それでキスをしたいと」
「お願いなせるくん! 私とキスして!」
今までの人生でここまで僕を求めてくれる女の子はクロニャが初めてだからこのまま流れでキスをしたいし、正直、その先もしたい。
この子を誘導して好き勝手するのも今なら簡単だろう。
だけど、そんなのはダメなことだって分かってる。
クロニャは真剣に悩んでる。
なら、僕も真剣に答えないと。
「キスって女の子にとって大事なことだと思うから、もう一度、よく考えてからでも遅くは無いと思うよ。まあ、ラケルさんは軽い気持ちでしてるみたいだけどクロニャは違うだろ? それにさ、クロニャが思ってるほど僕はカッコ良くも無いし、物語に出てくる勇者の様な振る舞いも出来ないよ。だから焦らずにゆっくりと僕の事を知って行って欲しいし、クロニャの事も知りたいから、それから先に進んで行けば良いと思うよ」
「うん」とクロニャが頷いたので肩から手を離すとそのままキスをされた。
は覚悟を決めてキスをしたのだろう。
だから僕も覚悟を決めてゆっくりと目を閉じて、大切な何かを確認するようにキスをした。
クロニャの唇はほのかに甘い果実の味がした。
◇
キスを終えるとその先を求めるのは男女の中なら当然ではあるが、クロニャの理性が飛んでしまったのか自分の股を僕の太ももに擦り付けていたので僕の理性が吹っ飛ぶ前にやめさせた。
見た目だけなら二人とも子供なのでこのまま致すのはかなりマズイと思う。
もし赤ちゃんを宿すことになろうものなら母子共に危険を孕むことにもなるだろうし。
それに二人の間に子どもが出来たとしても養う甲斐性は今の僕には無いので無責任な行動は出来ない。
クロニャの事を大切に想っている。
クロニャも勇者ではなく僕自身の事を好きになってくれた。
それが確認出来ただけでも良かったじゃないか。
あと数年ぐらい我慢出来るさ。
クロニャに愛想を尽かされないように頑張ろう。
ふとスライムの方を見ると、先ほどまで全くと言っていいほど動きの無かったスライムがそこはかとなくぷるぷる動いている気がした。
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