第9話
村の近くの川辺にやって来た。
スライムなら水辺の近くに居るだろうという安直な理由である。
スライムが食べる虫も、雑草も、川辺にはたくさんあるし大丈夫、大丈夫。
森が怖いからもあるけどね。
襲われた時の記憶がフラッシュバックして体がブルッと震える。
「忘れろ、忘れろ」
頭を振って別の事を考えようと辺りを見渡す。
川には釣り人と10才前後の子供が数人遊んでいるだけで、特に変わったところはない。
……川だけに。
駄洒落を思いついたが話す相手も居ないのでスライムを探しに行こう。
川辺周辺をしばらく探していると、草を食べていると言うよりも、体全体で吸収している感じのスライムを見つけた。
まだこちらには気付かれていないようなので、そーっと、そーっと、近付いていく。
抜き足、差し足、忍び足。
手が届きそうなところまで来たので網は使わず、素手で獲ろうと思う。
そーっと、そーっと。
「とりゃっ」
ガシッとグレープフルーツぐらいの大きさのスライムを両手で鷲掴みにして天に掲げる。
「獲ったどー!」
テレビで見たことがある、無人島生活番組の名セリフを思わず叫んでしまった。
幸い、周りには人が居なかったので恥ずかしい思いをしなくて済んだ。
捕まえたスライムの重さもグレープフルーツぐらいなので皮袋に入れられるだけ入れて持って帰ろうっと。
スライムを皮袋に入れて他を探してみる。
川辺をあっちこっち探して5匹目を捕まえたあたりからどこにスライムが潜んでいるのかというコツみたいなものをつかんだみたいだ。
それから10匹ほど捕まえて皮袋が満杯になったので村に戻る事にした。
村に戻る途中、川沿いに他のスライムとは違う、バレーボールぐらいの大きさで水色の透き通ったスライムを見つけた。
今まで捕まえていたスライム達は緑系の少し濁ったグミのような感じだったのですごく珍しい個体かもしれない。
抜き足、差し足、忍び足と近寄って行く。
逃げる様子は無いのでそのまま持ち上げてみると見た目以上に重かった。
家で飼っていた猫よりは軽いけど背負っている皮袋に居るスライムと合わせると村まで運ぶのは大変そうだが頑張ろう。
このスライムを見て思い出したけどラムネ味のわらび餅みたいで美味しそうだな。
スライムが食べられるかどうか冒険者ギルドのお姉さんに聞いてみようっと。
村に戻る途中、水色のスライムをずっといじり倒していた。
撫でたりプニプニしたり引っ張ったりしてスライムの感触を思う存分楽しんだ。
スライムが怒り出す気配は無かったので殴ったり蹴ったりしなければある程度は大丈夫なのだろう。
やり過ぎたらヤバイかもだけど。
そんなこんなでスライムで遊んでいたらいつの間にか村の入り口まで辿り着いていた。
散々弄り倒しておいて、このまま別れるのはなんだか寂しい……というか既に愛着が湧いていたので冒険者ギルドのお姉さんにペットに出来るかどうかも聞いてみよう。
◇
「すいません、スライムの引き取りお願いします」
今朝と同じお姉さん(品乳)にスライムの入った皮袋と借りていた網を返した。
「スライム捕獲依頼お疲れ様でした。お手持ちのスライムはよろしいのでしょうか?」
「えっと、スライムってペットに出来ますか?」
「スライムをペットにですか? えっと……スライムは基本的に無害な生き物なので出来るとは思いますけど随分と変わったご趣味ですね」
やっぱりスライムをペットにするのは一般的では無かったか。
予想はしてたけどね。
この際だから食べられるかどうかも聞いちゃおう。
「あはは、それとスライムって食べても大丈夫ですか?」
「ああ、なるほど、そういうことですか。私も子供の頃に食べたことがありますけど泥臭いし土の味がしてまるで食べられたものではありませんよ。体を傷付けられると怒りますし食べるのはお勧めしませんね」
「あ、はい。やめときます」
この世界の子供なら誰でも一度はスライムを食べてみるのかもしれないな。
まぁ、土の味がしたとしても毒は無さそうだし、ちょっと舐めるだけならいいよね?
やっぱり自分が試してみないことには気になるし。
もし、舐めてみて、この水色のスライムが美味しかったとしても、もう食べる気は無いけどね。
「えっと、お持ちのスライムはどうしますか?」
「あ、こいつを食べるつもりで言った訳じゃありません。ペットにしたいと思います」
「そ、そうですか……それではスライムの捕獲数を拝見しますので少々お待ちください」
苦笑いしたお姉さんが皮袋に入ったスライムを数えていき合計金額を木のトレイに置いて渡してくれた。
「こちらがスライム15体の捕獲報酬、合わせて1500ダルクになります。ご確認ください」
渡された2枚の100円ぐらいの大きさの白に近い銀色のコインには人の横顔と、横顔の周りに500と1000とそれぞれに異世界の文字で書かれていて、裏側を見てみると魔法陣の様なマークが描かれていた。
触って持った感じは子供の玩具でまるでプラスチックのようだ。
まあ、沢山持ち歩くなら軽い方が良いか。
金で出来た硬貨を期待していたけどデザインと見た目は良いのでこれはこれで良い感じだ。
財布を持っていなかったのでズボンのポケットにそのまま入れた。
「ありがとうございます」
「はい、またのご活躍、ご期待しております」
こうして、人生で初めての仕事を無事に終えられた。
晴れてヒキニート卒業である。
そういえばスライムのことばかり考えていたのでシロネコ亭で飼えるかどうかシロニャさんに聞かないと。
もしダメだったら外に小屋でも作ってやろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます