第7話
冒険者ギルドに着くと昼間よりも人が多くなっていた。
どうやら勇者の目撃情報を交換するために集まっているようだ。
ざっと見た感じ冒険者というよりも農家と言った方が良い服装の人達が大半を占めている。
それはさておき、この人集りで薬の効き目が切れたらと思うとゾッとするので早く受付に向かおう。
「冒険者ギルドへようこそ!」
前回とは違う受付のお姉さんが笑顔で出迎えてくれた。
胸が大きい。
メロン、いやスイカだ。
「この子の冒険者登録に来ました」
受付のお姉さんの胸を凝視して固まっているとラケルさんが僕の頭をポンポンと叩きながら代わりに受け答えしてくれた。
大きい胸があったら見てしまうのはしょうがないことなんです……
「それではこちらの台に、左右どちらの手でも構わないので手形の枠に合うように手のひらを乗せてください」
親指が二本ある手形に窪んだ台を出されたので右手を嵌めてみた。
「あうっ!」
手を置いた瞬間、無数の針で刺された感覚がして条件反射で手を離してしまった。
手のひらを確認すると傷も何も無く、刺された感覚もすぐに消えた。
ラケルさんが「プフッ」と笑いクロニャが痛そうな表情に、受付のお姉さんは相変わらず笑顔だ。
少し恥ずかしい。
冒険者登録する時はみんなも同じ様な経験をしているのだろうか?
「これで冒険者登録完了となります。《カード》と手のひらを意識して唱えるとギルドカードが出現しますのでご確認ください」
受付のスイカップなお姉さんに言われた通り《カード》と唱えると手のひらに、ハガキほどの大きさのギルドカードが出現した。
「おー!」
この異世界に来てから密かに期待していた超能力の代表たる魔法を自分の意思で使えたことに僕は今、猛烈に、感動している!
「どれどれっと……」
「私も! 私も!」
クロニャとラケルさんが覗き込んで来たので僕もじっくりとギルドカードを見てみた。
――――――――――
名前: ナセル・ヤキモ
種族: 人
レベル: 1
職業: 冒険者
称号: なし
ランク: カッパー
――――――――――
異世界物でよくあるチート能力などはこれを見る限り無さそうだ。
「普通ね」
「普通だね」
二人とも何かを期待していたのか、あからさまにガッカリした様子だ。
僕だって勇者、勇者、言われて期待してたんだけど無いものは無いのでしょうがないじゃないか……
いや、でも、スキルとかもっと細かくステータスが見れたら、そしたら、もしかしてだけどチートスキルがあるかもしれない……かも……?
まだ諦めないぞ。
「こほんっ。それではギルドカードの説明をさせていただきます。名前は登録者の名前が表示されます。種族も登録者の種族を表示します。レベルは冒険者としての強さの水準を表します。職業は冒険者以外にも兼業することで増やす事が出来ます。称号は三つまで設定が出来、偉業を成し遂げたり普段の行いで増えたり消えたりします。ランクはカッパーから始まりブロンズ、アイアン、スチール、シルバー、ゴールド、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネの順に冒険者としての貢献度で変わっていきます。受けられる依頼はこのランクとレベルを見て判断します。確認が終わりましたらギルドカードを消す際、もう一度意識しながら《カード》と唱えるとギルドカードは消えます。ここまでのご清聴、誠にありがとうございました。」
受付のお姉さんがすらすらと一言も噛まずに説明してくれた。お見事です。
「《カード》」
言われた通り意識しながら唱えるとギルドカードが透けていき消えさった。
狩人が活躍する漫画内のオンラインゲームで使われた魔法を彷彿とさせる。
「冒険者登録も済んだし、晩御飯も食べたいし、今日はもう帰りましょうか」
「そうですね」
「私もお腹空いた」
「それではこれからのご活躍を、ご期待しております」
受付のお姉さんは察してくれたのかワンテンポ置いてから最後の挨拶をしてくれたので会釈してその場を後にした。
◇
シロネコ亭に帰る道中、ラケルさんとクロニャに、二人のギルドカードを見せて貰おうとしたけど恥ずかしいからダメと言われ、別の話題ではぐらかされた。恥ずかしい称号でも書かれているのだろうか? というかクロニャも冒険者登録してあったのね。
話題を強制的に変えられたのでこの村のことについて聞いてみた。
村の名前はツキヨ村と言って勇者が居たとされる時代からあるらしい。
この村で一番長生きしているおばあちゃんが言っているだけなので本当かどうかは分からないみたい。
このツキヨ村は水が豊富で農作物や家畜が良く育つらしく村人のほとんどが農家らしい。
他にも一番近くの街まで遠すぎて税金が掛からないとか、人を襲う魔物が少ないとか、平和過ぎて若者が刺激を求めて村から出て行き跡取りが居なくて困ってるとか、隠居した街の冒険者が農家になりに村に来て問題を起こしたり、村長が呆け出して誰が次の村長になるかで揉めたり、作り過ぎた作物をシロニャさんに押し付けたり、まだ赤ん坊の男の子とクロニャを許嫁にしようとするお節介なおばあちゃんが居る、とかとか色々な話しを聞けた。
最後の方は愚痴が多かった気がする。
◇
シロネコ亭に帰ってくるとシロニャさんが晩御飯の用意をしていた。
すごく美味しそうな匂いだ。
それに甘い匂いもする。
「ただいまー」
「ただいま」
「ごはーん」
「あらあら、お帰りなさい。クロニャ、まずは手洗いうがいよ。なせる君とラケルさんもね」
シロニャさんが元の世界のお母さんみたいなことを言うので少しセンチメンタルになってしまう。
というか、この、どう見ても中世な異世界で衛生観念がしっかりしているということは教育が行き届いているということで、もしかしてだけど、街とか行くと現代風の町並みが見れるかもしれないな。
手洗いうがいを済まして食堂に戻ると豪勢な料理が並んでいた。
「これは、いったい……?」
「あら、豪勢ね。何かのお祝いかしら?」
「美味しそう、ねえ、食べて良い? 食べて良い?」
「うふふ、まずは席に着いてからね」
シロニャさんがキッチンから色とりどりの果物をたくさん乗せた大きなタルトの様な料理を持って来て机の真ん中に置くと手をパチンッと叩いた。
「はい、それじゃあ、今からなせる君の冒険者登録祝いを始めたいと思いまーす! 拍手~」
僕が呆気に取られているとシロニャさんに釣られてクロニャとラケルさんも拍手し始めた。
「えっ? えっ? どうこと?」
冒険者登録ってそんなに重大なことだったの?
「私も一緒で良いのよね?」
「私の時はもっと小さいタルトだったのに~!」
「うふふ、もちろんラケルさんも一緒に祝ってあげてね。それと、クロニャの時はまだ小さかったからよ。あんまり大きいと食べきれないでしょ?」
「あざーす!」
「そうだけどさー……まあ、いっか」
よく分からないけどクロニャもやっているみたいなのでこの世界ではそういうことなのだろう。
いや、ここの家だけの習慣かもしれないけどさ。
「それじゃあ、なせる君の冒険者登録を祝して、みんな飲み物を持って、せーの、かんぱ~い!」
「乾杯!」
「かんぱーい!」
「か、乾杯!」
側に置いてあったコップを手に取って乾杯した後、匂いを嗅ぎ、一口飲んでみると、お酒では無くりんごジュースだった。
そりゃそうか。
見た目は子供だしね。
ま、元の世界の自分もお酒よりは炭酸ジュースの方が好きだったし、これはこれで良いか。
「おかわりもたくさんあるからどんどん食べてね!」
「今日はとことん食べるわよー!」
「おー!」
「ははは……」
こんなにたくさんの料理、果たして食べきれるだろうか?
でも、まあ、とりあえず。
「いただきます!」
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