第22話 飛猿

「――少輔っ!」

 そのとき、視界の隅でシロハマグマリ女にとらえられたドリルブルー――京子の姿が見えた。雪によって力を奪われた彼女は、為す術なくシロハマグマリ女になぶられている。

「京子!」

 瞬間、俺の脳裏に夏の記憶がフラッシュバックした。七人のヤンキーに囲まれている京子。後先考えずに飛び出した俺。サッカー部を追われた俺は、幼馴染の風紀委員長を助けるために、不良として日々汚れ仕事を片付けていたんだ。サッカー部で鍛えた誰にも負けない脚力と、時に荒っぽい手も使って。決してむしゃくしゃしてやったわけじゃ、ない。


(私に足りないのは『力』、そして『サルレンジャー』に当時まだなかったのが『正義』の心よ)


 先ほどの京子の台詞が蘇る。「正義の心」が京子なら、不良の俺は「力」になってやる。そして何より――

「まだ、命を助けてもらった礼すら言えてないじゃないかっ……!!」

「少輔! 胸部アーマーのタッチパネルに触れるんじゃ!」

 そのとき、ハイエースの陰から猿田彦博士の声が響いた。俺は必死に手を伸ばし、無我夢中で自分の胸に手を当てた。


『S.A.R.U回路:使用者のステージ5/欲望診断デザイアスキャン完了――使用者権限による接続を許可。以降7分間、コード【MASHIRA】、SPモード【飛猿】を実行シマス』

 電子音声とともに、ゴーグル内にネオンカラーの文字列が並びこむ。その瞬間――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る