第19話 ウータンナックル

「しかしきりがないやあ」

 ソーマ=ウータングリーンが戦況を確認しながら言う。

 シロハマグマリ女から脱出した京子が再び敵をなぎ倒し、仕留め損なったり逃げ出す者には麗麗華の鉄槌が上空より降り注ぐ。息のあったコンビネーションは見事だったが、倒しても倒しても戦闘兵の数はあまり減ったようには見えない。


『ふたりとも、いったん固まろう。戦闘兵を海側に追い込んで、陣形「ファランクスβ」で一点突破。麗麗華も近接白兵戦に切り替えて、一気にシロハマグマリ女の首を狩る』ソーマが手元のモバイル量子コンピュータを確認しながら、マスクの内部マイク越しに淡々と告げた。

『了解!』『わかりましてよ』


 ソーマの的確な指示のもと、ふたりが陣形を整える。彼女のアドバイスを受けた後は、元からの圧倒的な戦力差も相まって見る見るうちに敵戦闘兵が減っていった。

「頑張れみんな! あと少しだ!」俺はといえばすることもないのでハイエースの陰から声出しをしてみる。

「『スフィンクス・バイト』!!」

 紅の大輪を咲かせる音速の斬撃。刃を食らった者は、悲鳴を上げる間もなく気を失っていた。

「とどめよ! 『ゴリグラップル』!!」

 麗麗華が敵の肩をむんずと掴んで捻り上げる。

「あぎゃあああ!!」麗麗華に掴みあげられた敵が悲鳴を上げて悶絶。

「博士、あの攻撃は!?」

「なあに、ただのつねり攻撃じゃ」

「つねり」

「ただし、ゴリラの握力は霊長類最強といわれているんじゃよ」

「地味だけどなかなかエグい攻撃だな」

「『ゴリグラップル』! 『ゴリグラップル』!」

 まさしく掴んでは投げ、掴んでは投げ。漆黒の暴走機関車と化した麗麗華が次々と敵を倒していく。

「……もう全部あいつひとりでいいんじゃないかな」

「『ゴリグラップル』! 『ゴリグラップル』!!」

「あぎゃああーーー!!!」「痛え、痛えよお……」「腕が、俺の腕がああ」

 キックやパンチなどの打撃とは違い、「相手を思いっきり掴みあげる」攻撃の前には安らかなノックアウトなど訪れない。麗麗華のまわりには、攻撃を食らった敵が壮絶な痛みにのたうち回っている。つまりは地獄絵図である。

 俺は正直かなり引いていた。

「いや、ひとおもいに楽にさせてやれよ……」

「次はボク!」

 それまで指揮に徹していたソーマが戦場に躍り出る。怯える敵に掌を突き出し――。

「うなれ、賢者の拳! 『ウータンナックル』!!」

「あんぎゃあーーーー!!」

「ちなみに、オランウータンの握力も三百キロあるんじゃ」

「個性かぶりすぎだろ!」

「ちなみに少輔の変身後の握力は三十キロしかないぞい。君のベースは“ニホンザル”だからの、モノを掴むのが苦手」

「弱なっとるがな」

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