第13話 墨堂院麗麗華/ゴリブラック

 俺があきれて口をつぐんだとき、扉が開いてふたりの女性が部屋に入ってきた。


「あら、気がついたのね。ごきげんよう」


「おお、ではメンバー紹介といこうかの。彼女は“ゴリラ”の能力を持つ『ゴリブラック』こと、麗麗華りりかクンじゃ」

 十頭身はあろうかというスレンダー体形に、腰まで届くキューティクルな黒髪が美しい。美脚を際立たせるタイトなスキニージーンズ、無地のTシャツにレザーライダースジャケットというスタイルはさながらハリウッド女優の休日だ。

墨堂院ぼくどういん麗麗華りりかよ、よろしくね。普段は隣駅の女子大に通っていますわ」

「さっきはどうもありがとう。おかげで助かったよ」

 俺は真っ直ぐな瞳にどぎまぎしながら礼を言った。長い睫毛が揺れるクールビューティ。涼やかな声としなやかな身のこなしは、ゴリラの中の人よりもパリコレのランウェイがよく似合いそうだ――がしかし、驚いたのはその仰々しい苗字である。

「墨堂院って……まさかあの大企業『墨堂院コンツェルン』の!?」

「ええそうよ。『墨堂院コンツェルン』はパパの会社なの。イケメンゴリラにハマって動物園ごと買収したら猿田彦博士にスカウトされたのよ」

「彼女の潜在ゴリ力は相当なものじゃ」と、猿田彦博士。

「潜在どころかめちゃくちゃ顕現してる気がするな」

「その前は猫鍋にハマっていたそうじゃ。好きな店はヴィレヴァンとブルーボトルコーヒー」

「ただのミーハーサブカル女子じゃねーか! しかも全部ちょっとずつ古い!」

「こりゃ少輔、口を慎みたまえ。サルレンジャーは『墨堂院コンツェルン』から九十九%の出資を受けているのじゃぞ」

 小声で注意してくる猿田彦博士。このおかしなコスプレ集団はこのお嬢様の道楽ってことか……?

 俺が困惑していると、麗麗華が隣の女子を「ずいっ」と押しやった。

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