第12話 青島京子/ドリルブルー

「そのとおりじゃ」

 猿田彦博士が再び口を開く。俺は左手に巻かれたブレスレットに目をやった。腕時計のような形状だが、本来文字盤があるべき位置には正方形の液晶画面がつけられている。

「ア◯プルウォッチみたいだな」

 俺が当然の感想を口にすると、博士は憤慨したような口調でまくしたてた。

「こりゃ、滅多なことを言うでないぞ。アメリカの企業は著作権にうるさいからの……それはバナナジウム元素照射機構及び超圧縮強化ボディスーツを内蔵した腕時計型変身ブレスレット『エイプルウォッチ(特許出願中)』じゃ。バンドはメタルとシリコン、レザーから選べるぞ」

「いや割とギリギリじゃん」

「このブレスに、特製ICカード『Saruca』をかざすことで『サルレンジャー』へと変身できるんじゃ。ブレス側で静脈生体認証を、カードで指紋認証を行なっとるから使用者以外の変身は不可じゃぞい」

 猿田彦博士が白衣の懐からICカードを取り出しひらひらと振ってみせた。先ほど、京子が俺の手に握らせたものと同じタイプのようだ。

「一回の変身が税込み五百四十円。少輔のカードは千五百円分チャージされとるが、金額不足だと変身できんから気をつけるんじゃよ。都内の駅構内の券売機でチャージ可能じゃ」

「金とるんかい!」

「我々も慈善事業じゃないからの」

 猿田彦博士が胸を張った。わけがわからない。

「しかし、なんで『サルレンジャー』なんですか?」

「いい質問じゃ。強化スーツをゼロベースから作り出すのは非常に難しくての。そこで遺伝的にもヒトに近く、種類も豊富、さらに様々な能力を持っとる『サル』の遺伝情報がスーツの基礎として選ばれたのじゃ。さっき京子クンと君を助けたメンバーは、“オランウータン”や“ゴリラ”の能力を宿しておるぞ」

 納得しかけた俺の頭に、ひとつの疑問が浮かんだ。

「あれ、オランウータンやゴリラはワシントン条約で保護されているはずですけど?」

「密輸したんじゃ」

「ふーん、密輸……って、ええ!?」

「それで悪の敵組織に追われておるのじゃ」

「もうどっちが悪かわかんねーな」

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