第11話 S.A.R.U.RANGER

「わかったかな」

 映像を停止させた博士がゆっくりと振り向いた。

「おう……。なんか半分くらいしか理解できてないけど、コスプレをしてストリートファイトをやってる集団がいる……」

「違ーう」

 猿田彦博士がぶんぶんぶんと首を横に降った。

「じゃから、我々は『サルレンジャー』……」


「――私たちは、東京の秩序を守る半官半民特殊自警集団タスクフォース。強化スーツを身に纏い、超人的な能力の発動および超法規的措置の運用が許されている――秘匿開発コード『超猿人隊』、組織内仮称『"Special Armored-of-the-apes Riot Unit" RANGER』。イニシャルを取って通称『S.A.R.U.RANGER』よ。メンバーは五人一組、それぞれが個別のサルの能力を有してる」


 博士の声を遮って説明を引き取ったのは、藍色のポニーテールに見慣れた制服。コスプレスーツを脱いだ青島京子だった。

「ここは、その特殊自警集団のアジトよ。カレー屋は偽装形態。あんたが入店できたのは、猿田彦博士が趣味のカレー作りに没頭してうっかり光学迷彩装置のブレーカーを落としちゃったから」

「……京子」

「私が『正義』を何よりも重んじていることを少輔も知っているでしょう? だから中学から生徒会に入って風紀委員になって、『全国学生風紀委員選抜大会』も制覇したわ。力なき正義はただの無力だからよ。私が高校の生徒会に入ってから全校生徒の出席率は三百パーセントアップ、補導件数はゼロ、都のモデルケースにも推薦されてるわ。今じゃ自治生徒会、職員会、教頭までは私の傘下に収めている」

「優秀すぎて逆に怖いよ」

「だけど……だけど」

 京子が下を向いた。さっきまでの朗々とした語りぶりからは一転、不安そうに視線をさまよわせている。

「個人で、しかも高校生が手にできる『正義』なんてたかが知れてるの。私たちの高校は改善されたけど、駅前の男子校生からカツアゲされたって生徒は後を絶たないし、隣町の女子校の飲酒コンパの噂だってよく聞くわ。ううん、高校生だけじゃない。連日報道される心ない事件やテロに国家間の戦争……この世の中には悪人が多すぎるもの」

「スケールの幅が広い」

「今日だってそうよ。大通りのゲーセンで、ウチの生徒がカツアゲされてたって通報聞いてかけつけてみたら、こんどはこっちでハムかずのこ男の襲来アラートを受信して……あれ、どうしたの少輔、汗すごくない?」

「……なんでもねえよ」

「だから今年の夏、『全国学生風紀委員選抜大会』で3連覇したとき、猿田彦博士から『サルレンジャー』にスカウトされて、『これだっ!』て思ったの。私に足りないのは『力』、そして『サルレンジャー』に当時まだなかったのが『正義』の心よ。これまでは四人で活動してて、残りひとりの適合者を探している最中だったんだけど……」

「京子が俺の命のために、最後の変身ブレスレットを使ってくれちまったってわけか」

 俺みたいな、できそこないの不良のために。

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