第14話 緑下ソーマ/ウータングリーン

「そしてこっちにいるのが緑下みどりしたソーマさんよ」

「ソーマクンが変身する『ウータングリーン』は、森の賢者“オランウータン”がベースじゃぞい」

 手元のゲーム機から目を離さないまま、小柄な少女が「こんちは」と小さく声を発した。着古したパーカにカーゴパンツ、首にヘッドホンを下げている。栗色のベリーショートヘアがトイプードルを連想させ、その容姿は少女というより幼女に近い。

「彼女は十三歳にしてアメリカの工科大学を飛び級で卒業した天才少女じゃ。このチームのメカニックはほとんど彼女が開発したんじゃよ」

「へえ、すごいんだな。あれ、じゃあ猿田彦博士は何をやってるんだ?」

「わしは主に総務じゃよ。未成年の女子ばかりでは役所周りの申請がいろいろと面倒じゃからな」

「はあ、そっすか」

 猿田彦博士が偉そうに胸を張った。

 博士が話している間もソーマは相変わらず、手元のゲーム機をいじる手を止めない。まあいくら天才といえど中学生といえば、ゲームにハマる年頃だろう。俺は屈んで声をかけてみた。

「こんにちは。ソーマちゃんは何のゲームをやってるのかな?」

「『グーリンウェルの終末係数』だよ。あとちょっとでクリアできそうなんだけど」

「ああ、阪神のダメ助っ人外国人ね。野球ゲームをやってるんだ」

「何を言っとるんじゃ。『グーリンウェルの終末係数』は、かつての『フェルマーの最終定理』と並んで、数学史上最大の難問といわれとる未解決問題じゃよ。あとソーマクンがいじっとるのはゲームではなく彼女が開発したモバイル量子コンピュータじゃ。そもそもこの問題は解けたら百万ドルの懸賞金が」

「あ」ソーマが小さく声をあげた。「解けちゃった」

「うちゅうの ほうそくが みだれる!」


「はかせぇ」


 ひとりの幼女がひっそりと数学史を書き換えていたとき、間延びした声が聞こえた。声の主は、髪と胸をたゆんたゆんと揺らして近づいてくる。

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