第8話 ババア

 俺がサッカー部を辞めたのは、高校二年の夏だった。


 当たり負けしないフィジカルと圧倒的な俊足。血の気からかファウルこそ多いものの、並外れた脚力を生かしたハイジャンプで空中戦も制するストライカーとして注目を集めていた、らしい。“らしい”というのは辞めてから伝え聞いたからで、つくづく人生とは皮肉なもんだなと思う。がむしゃらにやっていたときは周りの評価なんて気にならなかったのに。


 今年の夏の大会、弐剛高校サッカー部は都大会二回戦まで駒を進めていた。運命のあの日、後半十五分で一発レッドカードを喰らい退場となった俺は、試合終了後のミーティングをすっぽかし商店街をうろついていた。そこで、駅前で他校のヤンキーに絡まれていた京子を偶然目にしたのは運がよかったのか悪かったのかわからない。


 ――気がついたら、俺は目の前のヤンキー七人を全員ぶっ飛ばしていた。俺も左足の小指を骨折するというなかなかのケガを負ったが、相手には歯が折れたやつもいるらしい。俺がサッカー部のトレーニングウェア姿だったこともあり、この件は学校を巻き込んだ大問題となった。校長は「サッカー部の次の試合は辞退し、一年間活動自粛させる」とまで言いだした。

 結果として、俺はサッカー部を辞めた。諸悪の根源である俺が辞めれば、出場辞退だけは取り下げてくれると校長と監督が取引を持ちかけてきたからだ。サッカー部がその後どこまで勝ち進んだのかは知らないし知ったことではない。

「少輔は本当は優しい子だからねえ」

 唐突に死んだはずのおばあちゃんが出てきた。

 えっ、これほんとの走馬灯?

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