第7話 ハムかずのこ男

 京子? ピンクスーツが発した名前に俺の微かな意識が揺り動かされる。閉じかけた目を開けると、俺の前には風紀委員長、青島京子の姿が。よかった、こいつは無事だったのか……そしてこいつ、コスプレスーツ集団とお友達ですか。


 目の前の京子は、青ざめた顔でぶるぶると震えていた。まあ、こんな状況にもなれば風紀委員長といえどビビっちまうのはわかる。そうだ、彼女は今でこそ風紀委員なんて肩書きで千人を超える生徒の上に君臨しているが、幼稚園や小学生のときなんて俺の背中に隠れていつもグズってたただの泣き虫じゃないか。中学生になり背も伸びた彼女はメキメキと正義なんて厄介なものに目覚め、そうだ思い出した今年の夏のあの事件だって――あヤバ、これが噂に聞く走馬灯というやつ――そんな俺の臨死体験を知ってか知らずか、京子は口を真一文字に結び思いつめたような表情をしている。うつむいた顔には睫毛の影が落ち、右手は「正義」の腕章をぎゅっと掴んだままだ。


 その間約〇・二秒。


 彼女は顔を上げると、毅然とした表情で口を開いた。

麗麗華りりか、ごめん。ハムかずのこ男をちょっと足止めしておいて!」

「京子さん、まさか変身ブレスを勝手に使うおつもり!?」

 黒スーツが焦った口調で口走ったが、俺の意識は遠ざかる一方だ。頭部は焼きごてを当てられたように熱いのに、全身には風邪をこじらせたような悪寒が走る。じっとりと脂汗をかいた左手に、何かが巻かれるのが薄れる視界で確認できた。

(……何を…………)

 口を開きかけたが、俺の喉は空気を震わせなかった。かろうじて認識できたのは、京子によって俺の左手に巻かれたスマートウォッチのような形状のブレスレット。次に彼女はカード状の物体を俺の右手に握らせ、それを無理やりブレスレットに触れさせた。

 瞬間、俺の体は灼熱の閃光に包まれ――。

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