第5話 青島京子③
「あ、あんたが寄り道しようとしているのが目に入ったから、止めようとして入ってきただけよ」
「そうなの? そりゃ手間かけちまったな。でももうキーマカレー頼んじゃったんだ、食ったらすぐ出るからよ。今出たら作ってくれてる店員さんに悪いしな」
「まあ、それはそうなんだけど……」
「そーいえばさ、ここって今朝までサンクスだった気がするんだけど気のせい? お前もここ毎朝通ってんだろ」
「うーん、どうだっけ……って、そんなことはどうでもいいでしょ」
どうもおかしい。
さっきから京子は窓の外をチラチラと見ながら言葉を濁している。いつも言いたいことはズバズバ言い、上級生にも物怖じしない京子にしては珍しい光景だ。俺は窓の外に目をやりながら軽口を叩く。
「ひょっとしてさー、実は日本にもうサンクスなんて一軒もなかったりして」
「――少輔、危ないっ!」
突如京子がテーブル越しに跳躍し、俺に抱きついた。ハリのある胸が俺の顔面に押し付けられ、脳内から幸せ物質が規定量を超えて分泌され――そして店内には閃光が走り、轟音とともに窓ガラスが粉々になった。京子’sぱいぱい越しに至近距離でなんらかの爆発が起こったのだ、ということが認識できたのは自分の体が爆風により壁に叩きつけられてから数秒ののちである。
「ファッ!?」
頭をしたたかに打ち付けた俺は、必死にカバンで頭を覆いながら身を起こす。先ほどの爆発音で聴力が麻痺しているのか、周囲がやけに静かだ。天井からは瓦礫の破片が降ってくる。一瞬前まで座っていたテーブル席は跡形もなく吹き飛んでいた。俺は恐怖で頭を抱えた。
(なんだ……事故……いやテロかっ……!? しかしなぜこんなカレー屋に……!)
もうもうと立ち込める砂塵の向こうに、身長二メートルぐらいの人影が見えた――。
瞬間、俺は目を疑った。否、それはヒトではなかった。
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