第2話 赤井少輔②

「おー少輔、また喧嘩か? 元気なのはいいがほどほどにしとけよ!」

 疾走する俺に、八百屋のおっちゃんが声をかけてくる。

「ちげーよ。でも京子には黙っといてくれよな!」

「その文字数で矛盾させんな」と、魚屋のオヤジの声。

 どうやら俺の姿は、この寂れた商店街ではかなり目立つらしい。ブレザーの下には赤色のジャージ。校則違反だが最近やたら寒いのだから仕方がない。足元は学校指定のローファーではなく原色のサッカースパイク。全力疾走にはこれが一番だし、他校のヤンキーを蹴り飛ばすときにもたいへん役立つ。

 商店街の最奥まで走りきった俺は、追手がいないことを確認して大きく息を吐いた。


「これだけ痛めつけておけば大丈夫だろ」

 ――じゃないと、またあいつがしゃしゃり出るかもしれないからな。


 俺の脳裏で藍色のポニーテールが揺れた。幼馴染にして、弐剛高校の風紀委員長。曲がったことが大嫌いで、何よりも“正義”を重んじる“彼女”が、他校生による理不尽なカツアゲ行為を見逃すとは思えなかった。恐らく騒ぎを聞きつけて今頃ゲーセンに駆けつけているだろう。諸悪の根源であるヤンキーたちはぶっ潰しといたし、とりあえずは一件落着だ。


 繰り返すが、俺はごく普通の“不良”高校生――少なくとも、とあるカレー屋を訪れるまでは――だ。ゲーセンでヤンキーどもをブチのめした俺が、商店街で奇妙な店を見つけるのは今から数分後のことだ。冬の気配深まる十一月、それがすべての始まりだった。

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