第1話 赤井少輔①

「うぜぇなダボが! 弐剛にごう高校のヤツらに手出してんじゃねえ!」

「フォカヌポウ!」

 金髪ヤンキーの側頭部に華麗な回し蹴りを炸裂させる俺の名前は、赤井少輔。十七歳、ごくごく普通の高校二年生だ。目の前には学ラン野郎が二人のびている。

「くそっ、お気に入りの靴が汚れちまったじゃねえか……」

 俺はスパイクのつま先をブレザーの袖でこすりながら悪態をついた。まもなく騒ぎを聞きつけた店員が駆けつけてくるだろう。とっとと退散したほうがよさそうだ。

「し、少輔くん……」

 ズラかりかけた俺の背中に、かぼそい声がかけられる。振り返ると、俺と同じ濃紺ブレザーの四人組が頭を下げていた。

「た、助けてくれてありがとう」

 一緒の高校に通うということ以外はなんの繋がりもないオタク野郎たちだ。本来なら俺が助けてやる義理なんてない。――という本音は口に出さず、俺は右手をひらひらと振った。

「別にてめーらを助けたわけじゃねーけど、気をつけろよ。ここらへん他校のヤツらも多いし何かと物騒だからな」

 そこまで言ってから、俺は心の中で舌打ちをする。これじゃまるでツンデレってやつじゃねーか。

「――あ、あと、俺が喧嘩したってぜってぇ言うんじゃねーぞ! 言ったらお前らもぶっ飛ばすからな!」

「わわ、わかったよ!」

 こんな汚れ仕事をしなきゃいけないのも、全部あいつのせいだ。俺はほぼ空の通学カバンをひっつかむと、馴染みのゲーセンを抜け商店街へと駆け出した。

 逃げ足にかけては自信があるのだ、昔から。

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