魔法学院ー2日目 ②

 ホームルームも終わったことだし、階段を降りて、理事長である、リタさんの部屋に行くことにした。

 まだ授業をやっているのか、はたまたAクラスだけ遅かったのか、廊下は閑散としていた。

 理事長室のドアを三回ノックする。

「入って」

「失礼します。克人です」

「あら、早かったわね」

「まぁ。それで、話ってなんですか?」

 理事長室にはエインスさんの姿はなく、リタさんだけいた。

「まずは、あなたの試験結果を確認したかしら」

「実を言うと、まだ見てません」

「そうなのね、それじゃあ、今すぐに見てくれるかしら」

 なんだろう、すごい急かされている感じがする。

 言われた通り見てみると、そこにはフィーデの四文字が多く連立していた。

「えっと、これがどうしたんですか?」

 その結果だけを見て何を感じ取れと言われてイルカがわからなかった。

「あ、うん。まあ、わからないわよね。仕方ないのよね」

 うん。なんか、色々とぶっ飛んだことをしてしまったみたいだ。演壇に立っていた時とは打って変わって、今にもほろほろと涙を流しそうなほどヨレヨレとして、力を無くしていた。

「えっとね、正直に話すと、あなたを教えれる人がなかなかいなくてね。いや、まあ、わかってはいたのだけど、その予想を遥かに超えてあなたが優秀だったから。一応、形式上はフィーデなんだけど、特に教えることもないそうよ。で、ここからが本題なんだけど、どうしたい? このままだと、受けるのは必修講義と少しだけ残っている教科だけになるけど」

 ああ、なんか話が読めてきたな。

 内容は、成績が良すぎて特段教えることないから、どうしようかってことだよね。どうしようも何もね。まだ小学六年生で、できたらルーレットと話して決めたい。多分、おじいちゃんなら受けなくて良いものは受けないと言うだろうけど。

「とりあえず考えてみますね。なんか、おもしおそうな講義なら受けたいですし」

「そうよね。うん。そうして頂戴」

 なんだろう、ものすごくリタさんに申し訳なくなってきた。

「リタ、入るぞ」

「あ、おじいちゃん」

 ノックもせずにいきなりドアを開けて入ってきたのはおじいちゃんだった。その後ろからルーレットがエインスさんと一緒に台を押してきていた。なんだろう。そんな疑問に答えたのはエインスさんだった。

「リタお嬢様、こちらはお昼でございます。暇だからとお二人がお作りになられましたが、いかがいたしましょう?」

「ええ、まあ、食べるわ。あんなに大勢の前で喋るのは緊張するし、やっぱり、疲れを癒すなら、食べるのが一番早いわ」

 そう言って、リタさんは来客用のソファーに座った。

「エインスも食べるのでしょう? なら、私の隣に座りなさい。バカはそこのお誕生日席で良いんじゃないかしら」

「克人様は私の隣に来てください」

「あの、一応俺は能力的にも上な気がするんだが」

「まあ、キャラだと思って我慢しなさい」

 おじいちゃんの弱々しいツッコミも、リタさんの辛辣な言葉で木端微塵に打ち砕かれていた。

「まあまあ。オールドマスターのキャラクター性は確かにいじられる立場なのでしょうが、どちらにしても、誰かがその席に座るなら、一番問題ない人を選ぶのは当然だとおもわれます。椅子もちゃんとご用意させていただいたので、どうかお願いいたします」

 ちゃんとおじいちゃんのことをフォローするエインスさん、やっぱりカッコ良いな。歳を取ったら、あれぐらい器の大きい人になっていると良いけれど、なれるかな? 見つめすぎてしまったのか、エインスさんはぼくの方を見て首を傾げていた。なんでもないとジェスチャーで伝える。

 エインスさんが配膳してくれたプレートにはいわゆるドレス・ド・オムレツが乗っていた。

 口の中に含むと、濃いデミグラスソースが黄身とケチャップライスと絡んでちょうど良くなる。卵のドレスの半熟具合もさることながら、やっぱり、ぼくはおじいちゃんのこのデミグラスソースが好きだ。

「そういえば、フルトがこの学院に来ているんだてな」

「あら、言っていなかったかしら。今年から彼が来てくれて、私としても慣れている人だから話しやすいし、何より、あの子は弟分みたいで扱いやすいから好きよ」

「えっと、フルト教授とリタさん、おじいちゃんの三人は知り合いなの、ですか?」

 ぼくの疑問に答えてくれたのはリタさんだった。

「そうね、昔、同じ研究科にいたのよ。私とバカが先輩で、フルトが後輩。ついでに言うと、ルーレットちゃんが私たちの師匠みたいな存在で、カイトはフルトの教え子ってところよ。まあ、知っていてもなんの役にも立たないけど」

「あ、そうだったんですね」

 てことは、カイトってああ見えて、実はめちゃくちゃ努力しているんじゃない? ふと思った。

 どっちにしても、この関係図がわかったから、いろんなことが繋がる。カイトがフルト教授を先生と呼ぶのは通りだし、リタさんやおじいちゃんが教授を呼び捨てにするのも理解できる。そうなってくると、一番の謎はやっぱりルーレットになるよね。

「克人様、好奇心が強いのは良いことですが、女性は秘密を持っている方が良いのですよ」

 と言うことで、あっさりと、理由を聞けない状況をつくられてしまった。

「そうそう。克人君、あなたに話しておきたかったことを忘れていたわ」

 リタさんが急に思い出したみたいだ。てことは、あのぼやきが全てじゃなかったんだなと、なんだか申し訳ない気持ちが強くなってきた。

「あなたがもし、フィーデになった授業を受けないのなら、その時間を使って研究に手を出してみないかしら」

「具体的にどんな……」

「それは色々ありすぎて絞りきれないわ。でも、研究で好きな魔法を作って、謎を解明することはできるわよ」

 なんだかものすごく楽しそうにリタさんが話しているけど、若干狂気じみたものも感じる。

「まあ、なんだ、研究だけが全てでもないからな。冒険者として経験を積むも良しだし、研究なんて名目じゃなくても、勝手に調べて、勝手に実験することはできるからな。そこは克人のやりたいようにやれ」

「まあ、そこのバカは本当に勝手に研究していたからな。おかげで、どれだけこいつの後始末をしなきゃならなかったか」

「そうですね、考えてみます」

 リタさんの言うことも一理あるし、おじいちゃんの言っていることも分かる。

 でも、正直に言うと、全然決まるわけがなかった。

 だって、少なくとも一年はここに通う。なら、どうせなら、楽しく過ごしたいし、面白いことをやりたい。新しいことに触れていたい。

 研究という道ならできるかもしれないけど、それよりかはもっと自由にやっていたい気がする。そもそも、研究って言っても、ぼくにはクルシやノルト達みたいに何かしら目標があってきているわけじゃない。だから、研究と言われても、何を研究しようか考えることから始めなくちゃいけなかった。

「まあ、その辺りは克人様の好きなようにすればよろしいかと。相談には乗りますし、五年の中ならどれだけいても良いのですから、ゆっくりと考えてください」

 ルーレットのその一言が救いだった。

「ひとまず、明日からは一通り講義を受けてみて、やりたいことを決めようと思います」

「ああ、そうすると良い。君は努力ができるからね」


 こっちの時間的にはかなり早いお昼を食べ終わって、それでもまだまだ時間があるからどうしていたかといえば、普通にギルドで依頼を受けていた。今日はちょうど掲示板に貼ってあった、ラビットイヤーとラキトルエンダーの採取の依頼だ。 この二つなら割と近場にあるし、そこまで時間がかからないと思ったからだった。

 学院をでて、一度家に戻って服を着替えてからギルドに顔を出した。だからカイトから、制服で依頼を受けにきても良いんだぞと、言われた。もちろん、それでもよかったんだけど、未だ慣れないのか、気持ち的にはこの服の方が落ち着く。

 この前の場所に行く間に、いくつかあったからラビットイヤーを採取して、この前の場所の近くでラキトルエンダーを探していた。花は百合を小さくしたみたいな形をしていてイメージしやすいし、花自体も目立つから、案外早く見つかった。それをギルドに届けると、とうとう九級に上がる資格を得られた。試験を受けないとランクを上げることはできないから、正式に九級に上がることができるのは週末あたりだろう。

 まだ十時間は経っていなかったけど、なんとなく、このままこっちの世界にいるよりも、あっちの世界に戻った方が良いかなと思って、おじいちゃん達よりも先に『強制転移』することにした。

 学校の個室トイレの中に戻ってきたのを確認した。それから、窓の下近くにある門のところで先生達がおはようと、言っているのを聞いて、時間が進んでいなかたんだなと安心した。

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