魔法学院ー2日目
今日は魔法学院の新学期最初の日。そして、小学校の新学期最初の日でもあった。
今日みたいに学校のある平日をどうしようかということで、おじいちゃんに言われた方法がある。
まずは学校に行って、紙にかいた『強制転移』の魔法陣を発動させて、あっちの世界に行く。そして、魔法学院の授業を受けた後に小学校に戻って授業を受けるという方法だ。まあ、先に頭を使う難しいことからやった方が良いのだろうけど。
どっちにしても、頑張らないとなと思う。
まずは少し急ぎ目に小学校について、ランドセルを置いて、中から小さく赤い石だけ取り出して、そのままトイレに行く。そして、魔法陣を発動させる。
問題は魔法陣を発動させる時。こっちの世界は基本的に魔力が霧散しやすい。そして、人の体内にある魔力を集めて発動させるときは、携帯のバッテリーのように蓄積させることで発動させている。だから、こっちの世界で魔法を使うなら、一瞬で必要な魔力を貯める必要がある。そんな時に便利なのが魔石。魔石は必要な量の魔力を貯めておける石で、こっちの世界でなくとも向こうの世界でもよく使われている。
つまり、自身の魔力を使うよりも、必要な量の魔力を込めた魔石を使うのが良い。ということになる。
そんなわけで、トイレの個室に入った僕は床に魔法陣を書いた紙を置き、その中心に目掛けて思いっきり魔石を叩き込んだ。すると、狙い通りに割れてくれた魔石、その中に貯めておいた魔力で魔法陣が発動した。魔法陣の発動に伴って、ぎゅっと目を閉じる。
「ああ、きちんと割れたみたいだな」
「ええ、克人様が無事に来れてよかったです」
とまあ、二人の、特にルーレットの声が聞こえるから間違いなく成功したみたいだ。ゆっくりと目を開けると、自分の部屋で立っていた。
「えっと、大丈夫なのかな?」
「まあ、きちんと喋れるみたいだし、意識もしっかりしているから大丈夫だろう」
「そっか……それじゃあ、着替えて魔法学院に行かないとね」
二人とも、今から制服に着替えようとするぼくを見て、部屋から出て行った。
買った翌日には届いていたという制服は自分の体にぴったりだった。着終わってから、筆記用具とブックベルトをポシェットに入れて、それを腰に回す。
一階にいるおじいちゃんたちのところへ行って、用意ができたことを伝えると、そのまま学院位向かうことになった。
学院に着く頃には周りはぼくと同じような新入生とその親族か、慣れた様子で歩いている先輩たちでごった返していた。ごたがえしている原因は主に新入生かその親族なのだが。まあ、仕方ないかもしれない。ようやく敷地内に入ると、そのまま校舎に向かう人の波と、講堂に向かう人の波でくっきりと分かれていた。
どうやら、この波の前の方では受付があり、そこで出欠確認をとるらしい。それを済ませると、受付後ろの階段から講堂の中に入るらしい。まるで、どこかのテーマパークのチケット売り場みたいだなと思った。
「次の方々」
ようやく僕たちの番が来たみたいで、空いたところに移動する。
「お名前をどうぞ」
「古宮克人です」
「古宮さんは……、ありました。あなたのクラスは一年Aクラスです。講堂一階の前一列のどこかに座ってください。お連れの方々は講堂二階より上にてご観覧ください。それと、飛び級に関する試験の結果が来ています。あとで、教室などで確認するようにしてください。わからないことがあれば各所にいる職員にお声掛けください。それでは講堂にお入りください」
職員の人も急いでいるのか、少し早口だった。まあ、確かに、この量の人を捌くとなると時間も迫ってきているから急ぎたくなるんだろう。
おじいちゃんたちとは講堂の階段を登りきったところにあるエントランスで別れた。なんとなく真ん中の道を通るのは憚られたので、右側の入り口から入ることにした。まだ一階は半分も埋まっていない。もし、一階部分の席を全て使うとすると、生徒はまだ半分も来ていないということになる。
一番前の列まで来ると、もはや誰も座っていなかった。あっているのかなと、不安になりながらも、受付の人の言葉を信じて前一列目の一番端の席に座る。席の上には『本日の流れ』と書かれた厚紙が置かれていた。まだ時間はあることを思い出して、この紙を参考に、この後の行動予定を立てることにした。
早速開くと、理事長挨拶、クラス担当からの挨拶、注意事項等の説明と書かれていた。ちなみに、その下には、各クラスにわかれてのホームルームと書かれていた。全部で一時間と各クラスによると言ったところらしい。こういうところは、小学校の始業式とかと違って良い。多分、リタさんのことだから、簡潔にキッパリと言うに違いない。あとはわからないけど、時間的にも、そこまで時間はかからないのだろう。
「あの、すみません」
「はい」
見ると、明らかにぼくよりも年上の学生の人が声をかけてきていた。
「これを渡すように理事長から言われたので」
手の中に入ったものを見ると、メモのようだった。
「ここで開けても良いですか?」
「はい。どうぞ」
開いてみると、『ホームルームが終わり次第、私の部屋に来てくれ』と書かれていた。
「あの、言伝を頼んでも良いですか?」
「ええ、どうぞ」
「わかりましたと、理事長に伝えてください」
「承りました」
そう言って、先輩の学生はそのまま講堂を去っていった。
十分も経つと流石に考えることも無くなって来て、退屈になってきた。
だけど、受付の職員の人には教室で見ろと言われているし、そうなると、試験の結果を知ることは無理そうだった。まだ開始までには十五分ほどあるから、その間だけでも時間を潰さなければならない。
「あの、失礼ですが、Aクラスの方ですか?」
「あ、はい。そうですけど」
目の前に立っていたのは、綺麗な女の子だった。紫色の布で仕立て上げた制服はよく似合っていた。
「よかったです。私もAクラスで。他に座っているのはあちらの大柄な方とあなただけだったので。後ろはもう少し埋まっているのにこの列だけは極端に少ないので不安になってしまって」
「わかります。ぼくも、最初は一人だけだったんで、不安だったんですよ」
「そうなんですね。よかったです。それでは、後ほど、Aクラスの教室で」
そう言って、女の子は少し離れた席に座った。
仕方ないから、何か魔法を作れないか考えてみようかな。
そうして、式が始まるまでの十五分間で今までやりたいなと思って胸を馳せるだけで終わっていた魔法を再現する算段をつけていた。
「ええ、それでは、魔法学院新年度入学式を執り行います」
そう言っているのはこの学院の学長らしい。
「それでは初めに、理事長のフィートネールよりご挨拶させていただきます」
中央の演壇にリタさんがスッと立った。
「みなさん、ごきげんよう。この学校の理事長を務めるフィートネールだ。さて、ここには貴族も多数いるだろうが、魔法を学ぶ上において階級など関係ない。大事なのは実力だ。ここは魔法について学ぶための場所であることを弁えてほしい。有名な魔法使いたちは弛まず努力を続けた。ならば、君たちも、先人に学ぶと良い。他人を軽んじず、自己の努力を怠らないことこそが、魔術師として必要なことだ。そこに性別も年齢も、ましてや階級など関係ないと念押ししておこう。皆の夢が叶うことを願って、私の挨拶に返させていただきます」
うん。すごく短い。だけど、何が大事かを明確にしている。理論でもなく、才能でもない。ただ、努力でのみ変わってくると言う力強いメッセージだった。
「続いて、一年生の各クラスの担当から挨拶していただきます。まずはAクラス担当、フルト・アルテニア教授です」
学長の言葉を聞いて、急に知っている人の名前が出てきたことに驚いた。そして、さらに驚いたのは、フルト教授の服が昨日までのあの格好とは打って変わって、きっちりかっちりとしたスーツを着て、白衣を羽織っていると言うことだった。
「えー、このたび、Aクラスの担当になりました、フルトです。よろしくお願いします。リタ理事長の言ったことが全てではありますが、ぼくからの報告として、今年のAクラスは五人の生徒が在籍することになっていて、そのうちの一人はこのまますぐに卒業してもおかしくない人材です。この学院は卒業までに最大5年の時間を設けています。だけど、中には3年で卒業してしまうものも多くいます。与えられた環境だけで満足しているようでは、平凡な魔法使いとして一生を終わることになります。なので、みなさんは努力してください。決して早く卒業することが良いことではありません。しかし、努力をしないことは最も愚かです。自分の速度で良いので、努力をしてください。以上です」
へー、同じクラスにものすごい人がいるな。ていうか、フルト教授ってちゃんとした場ではちゃんとするんだね。
その後は、男女様々、年齢も若い人からかなりの高齢の方まで幅広く、そんな人たちが一通り挨拶していた。D組の担当の先生がものすごくちっちゃかったことだけは印象的だったかな。
その後に入学式の締めとして簡単に校則の説明がなされた。最後の最後で、各クラスのホームルームで配る一覧を見ていただくと細かいことがわかります。って、さらっと言っていたのは面白かった。けど、特にこれといって特殊な校則はなかった気がする。
そして、ちょうど一時間になったところで、話が終わり、各クラスのホームルームの教室に移動することになった。
ホームルームが行われるらしい教室は四階の一番階段に近い教室だった。そこにはぼくとさっきの女の子、そして、横に大柄な男の子の他に、筋肉隆々な厳つい男の人が一人と、めちゃくちゃ気の弱そうな女の子が一人の合計五人がいた。全員初対面なのか、一言も話すことなく、シーンとしていた。そこに、ガラガラと大きな音を立ててフルト教授が入ってきた。ちなみに、服はなぜか昨日前のあの服装になっていた。
「さて、なんだかものすごく喋りにくい雰囲気だけど、古宮君、説明してくれるかな?」
「ぼくもわからないです。そういえばフルト教授、カイトっていうギルドの職員でぼくの知り合いの人が、教授によろしく伝えておいてくれって言っていたんですけど、これで伝えたことにしても良いですか?」
「ああ、カイトね。あのわんぱく男子があそこまで成長されちゃあね。もともと面倒見て痛みからすると嬉しいやら寂しいやらだよ」
楽しそうに話す教授は、さっき演壇で見せた姿とは少し違っていた。どことなく、柔らかい。声も硬いというよりもホワホワとしたワタみたいになっている。
「さて、みんな、こうも硬い空気だとやりにくいから、とりあえず配らなきゃいけないものから配るね。とは言っても、僕が配ると時間がかかるから、古宮君、手伝って。ていうか、できたら全部配って欲しいです」
「あ、はい」
うん。こうなるとは思っていたけど、予想通りすぎるとどうしようもないよね。そんなことを思いながら、一つずつ配っていく。
「終わりましたよ、フルト教授」
「ありがとう。それじゃあ、説明が必要なものだけ説明して、後は自己紹介の時間にしようと思うから、何を話そうか考えておいてください。まずはこの講義登録用紙を見てほしい。これから三日間かけて、みんなには色々な授業を調香師に行ってほしいと思います。それを受けて、自分がどの講義を取るか、その登録用紙がその紙になります。もちろん、このクラスの人でも、人によって教科の階級が変わってくるから一概にこの時間に行ってほしいっていうのはないんだけどね。それと、必修講義の時間はすでに埋めてあるからそこにハイ講義を入れないでほしい。で、このクラスは必修講義の時、もしくは何かしらの訓練を行うときに一緒のパーティーを形成するメンバーになるから、できるだけ早めに中を深めてほしいです。何か質問がある人」
そういえば、結局、ぼくの試験結果はどうなったんだろう。全然見ていないや。そんなことを思っていると、ぼくに声をかけてきた女の子が手をあげた。
「はいどうぞ。申し訳ないけど、まだ名前を覚えていないから、できたら名前も言ってほしいです」
「私はアレステリナ・フリューと言います。あの、どうやって講義の時間帯を知れば良いのでしょうか?」
ぼくや教授と違って、姓名が逆になっている気がする。そのあたり曖昧な世界なのかな?
「ああ、それはその用紙の裏に各講義の担当の名前が載っているでしょう? そこに母kれた人のところに行けば、すぐに教えてくれるはずだよ。もしくは、仲の良い先輩に聞くのも一つの手かもしれないね」
「ありがとうございます」
「他に質問は?」
特にないというか、まだ全然じっくり読んでいないから分からない。
そんなことを思っている間、特に質問がなかったのだろう。
「それじゃあ、僕から自己紹介をします。僕は知っての通り、フルト・アルテニアっていいます。好きなことは魔法の研究、嫌いなことはやる必要がないことをやることです。こんな性格だから、みんなに迷惑かけてしまうかもしれないけど、これでも経験は豊富なので、みなさんが助けてほしいときは遠慮なく言ってください。それじゃあ、どうしようか。古宮君からお願いしても良い?」
「あ、そうですね。はい」
やばい、全然自己紹介のことを考えていなかった。
「えっと、僕は古宮克人と言います。最近冒険者としてギルドで依頼を受け始めました。好きなことは読書と食べることですかね。嫌いなことは特にないですけど、あまり人と話すことなく育ってきたので、会話が下手かもしれないですがよろしくお願いします」
「はい、ありがと。それじゃあ、アレステリナさん、次をお願いできますか?」
「はい」
ふう。とりあえず第一関門クリアかな。僕以外の四人をまとめるとこうだ。
アレステリナ・フリュー。生命魔法のマスターになりたいそうだ。好きも嫌いもないらしい。身長はぼくと同じぐらいで、歳はぼくより二つ上。髪を後ろでまとめているのが特徴かな?
アラン・ルイスフィー。冒険者として三年活動して、今のランクは四級だそうだ。身長は百八十は超えていて、ムキムキの筋肉が特徴。声もどこか落ち着いた低い声だった。
クルシ・ノーレン。極度の人見知りで、大気の属性の基本魔法を使ってようやく声が聞き取れるぐらい声が小さい。そのせいか、容姿はどことなく幼く、かといって、子供っぽいわけじゃない不思議な感じの子だ。動物が好きらしく、動物と対話する魔術の研究をしたいらしい。
ノルト・ステイン。見た目通り貴族らしい。だけど、貴族社会の上下関係とかが煩わしく、何よりも結婚の話は聞きたくもないそうだ。それよりも魔法の方が何倍も面白く感じたために猛勉強しては言ったんだとか。
「それじゃあ、このメンバーで少なくとも一年、頑張ろうか。ということで、今日のホームルームはこれでおしまい。何かあれば僕の研究室に来てください。明日の朝はこの教室に集合。以上、解散」
そう言って、フルト教授は教室を後にした。なんとなく気まずい空気になったけど、どうしようかなと思っていると、ノルトがやることが終わったなら帰っても良いかと言ってくれたので、おかげでそのばでみんな帰ることになった。
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