ギルドのお仕事 3日目/4日目

 うん。まあ、分かってはいたけど、だいぶ筋肉に疲労が溜まっているよね。

 それは分かっていながらも、動かないことには始まらないから、きちんと起きて、今日もあっちの世界に向かった。

 今日はおじいちゃんがぼくのお昼用にとお弁当を作ってくれていた。創作料理は入っていないよねって確認したら、少し泣きそうになっていたけど。

 今日はギルドに寄らず、フルト教授の家に直接向かう。

「フルト教授、おはようございます。克人です」

 ドアを三回ノックして用件を言う。

「お、ちゃんときたね。うん。おはよう」

「おはようございます。早速ですけど、今日はリビングと、この隣にあるいろんなものが置いてある部屋を掃除しようと思っています。多分、二階に運ぶために、教授の力を借りることになると思うので、その時にはよろしくお願いします」

「分かったよ。あ、そうだ。昨日は聞きそびれたけど、今日のお昼はどうする? よければ用意するけど」

 そう来たかと、内心驚いていた。マジックバックには今日のお昼が入っている。腐りはしないけど、気持ち的に前日の昼用のお弁当を食べる気分にはなれないだろう。

「ありがたいんですけど、こっちの世界に連れて来てくれている人に弁当を持たされているので、いらないです」

「あ、そうなんだね。うん。気にしないで良いよ。最近はアレルギーとかめんどくさいしね」

 そういえばこっちの世界にもアレルギーの概念があったんだな。知らなかった。

「本当にすいません」

「いやいいよ。そもそも、ぼくが昨日の帰りがけに確認すればよかったんだし。あ、そうだ。それなら、明日のお昼はここで食べて行かない? 時間の制限があるなら、いつもより早めるだけだし」

「あ、それなら、多分大丈夫です」

「よし、それじゃあ、今日も掃除よろしくね」

 あとでおじいちゃんに明日のお昼はいらないって伝えなきゃな。それを心の中で反芻して忘れないようにしていた。

 まずは一階のリビングにある箱を一つずつ開けていって、それをフルト教授の指示に従いながら本棚に入れたり、箱を利用して一箇所に固めたりした。その作業をしていて分かったことがあった。

 まずリビングはめんどくさがりの割にデザインの良いもので揃えていた。そして、その隣の部屋はどうやら寝室らしかった。寝室にするよりも先に、箱が崩れ落ちないように物置として使っていたようだった。この部屋の中にある箱には何かの鉱石や何かしらの怪しげな薬品でも作りそうな材料が各種揃っていた。それをどうしようかと言うことになり、書斎の荷物を二階の本棚に入れて、空いたところに入れることになった。

 そうしている間に、あっという間に十三時になった。

「霧も良いし、この辺りでお昼にする?」

「そうですね。あ、でも、フルト教授はどうするんですか? 朝から仕分け作業とかで料理する暇なかったですよね?』

 たまにいなくなることはあっても、基本的にはぼくについて資料の整理をしていた。だから、料理をルくれる気がしない。

「ああ、そこは大丈夫。ぼくみたいな人のためにあると言っても過言ではない作り置きで対応しているからね」

 あ、うん。昨日でたっぷり分かってはいたけど、この人かなり重度のめんどくさがりだ。しかも、やるときはやるだけあって、扱いに困るタイプのめんどくさがりだ。

「ちなみに、どんな料理を作り置きしているんですか?』

「えっと、ロールキャベツでしょ、茹でじゃがいもでしょ、あとはドライカレーとか。結構バリエーションあってまとめて作れば手間も省けるし、楽だよ」

「そうなんですね」

「だから、いつもの食事は作り置きしたものを計画的に食べるだけなんだよね。まあ、最後の方はソーセージを煮るだけ煮て、追加して食べてるけど。それに、途中で食べたくなったものを書き留めておいて、それを週末に作れば次の週には夢が叶うから良いよね」

 うん。めんどくさがりなんだろうけど、なんかよくわかんなくなってきた。めんどくさいことをしないために効率化している人みたいな? そして、やらなくともどうにかなることはやらないみたいな感じ。

「で、計画通りなら、僕の今日のお昼はロールキャベツと味じゃがらしい」

「えっと、味じゃがって……」

「あ、うん。想像通り、味付けじゃがいもだよ。ちなみに味は鳥の煮汁、コンソメ味だよ!」

 やっぱり。この世界でもそう言うものがあるんだね。うん。そういえば、こっちのじゃがいもは向こうよりも甘かったから、コンソメみたいな塩の効いたスープの方が合うかもしれない。

「どこで食べますか?」

「そうだね。一番きれいにしているキッチンで食べようか。流石の僕も、キッチンを気鋭にすることの重要性は理解しているからね」

 と言うことで、キッチンで食べることになった。キッチンには中央に大きな作業台と、それを囲うようにコンロやオーブンが設置されていた。

「はい、椅子どうぞ。食べる前にそこで手洗ってね」

 流しのところを指さされた。もちろん、反論することもないから言われた通り、手を洗った。

「いただきます」

 おじいちゃんが作ってくれたのはど定番の卵焼き、鶏肉の照り焼き、野菜の炒め物。そして、プチトマトとご飯が入っていた。

 フルト教授の方は煮汁とロールキャベツを器に盛り、味じゃがをつけていたコンソメをのぞいて小鉢に二個落としていた。黒いじゃがいもの実がほんのり黄色くなっているのは気のせいなのか。

 手早く食べて、ひとまず、リビングと寝室の掃除を進めることになった。

 この分だと明日までかからないかなと思っていたけど、結局、次の日に残してしまった。


 昨日の帰りにおじいちゃんにはフルト教授のところでお昼を食べることは伝えていた。だから、今日はお弁当を持たずに降ると教授の家に来て、残った簡単な掃除をしていた。

 レほど箱が堆く積まれていたリビングは見違えるような広さを存分にアピールしていた。

「そういえば古宮君、君は明日から魔法学院の生徒らしいじゃないかい」

 そう言われたのは、掃除が早く片付き、キッチンに顔を出したときだった。

「はい。そうですけど」

「実は僕、明日から魔法学院で勤務することになったんだ。もし、どこかであったらそのときはよろしくね」

「あ、はい。何もなければ手伝います」

 特に拒否する理由もなく、そう答えてしまったけど。

「僕が魔法学院の新一年生だってどうやって知ったんですか?」

 と、疑問に思うことは当然だった。

「ああ、それは、僕が教授で、君の試験の採点をしたからさ。まあ、飛び級試験なんて普通は六月にやって七月の頭で返すから、君のだけしか見ていないけどね」

「そうだったんですね」

 まあ、結果はどうであれ、色々と学べるのならいく価値があると思っている。だから、試験の結果についてあまり意識していなかった。

「まあ、試験の結果は明日わかると思うから、そんなに身構えなくても良いよ」

 と、言いながら、フルト教授はサクサクサクと野菜を切っていた。

「そうだ、まだ一時間はできそうにないから、その間にギルドに行ってきたらどうだい?」

「そうしますね。それじゃあ、また来ます」

 そう言って、フルト教授の家を出て、少し急ぎ足でギルドに向かった。

 ギルドにつくと、カイトを探して出して、依頼が終わったことを伝えた。

「うん。了解。それじゃあ、会員証を貸してね」

 このまえと同じようにぽちぽちと操作をして、操作が終わるのを待つ間に、カイトは報酬を取りに奥に行ってしまった。とは言っても、すぐに戻ってくるけど。この四日間、ものすごく濃い時間を過ごした気がする。初めての土地を歩き回ったのもそうだし、人の家の掃除をして、知らない人と長い時間会話したのもそうだ。

「お待たせ。いやー、予想はしていたけど、克人も完遂しちゃうとはね。それで、報酬が書いてあった通り、百五十六レウンだよ。確認してね」

 この前と同じような小袋を渡された。その中には百レウン銀貨と五十レウン銀貨、十レウン銀貨がそれぞれ一枚ずつ入っていた。

「それと、依頼主のフルト先生から連絡があって、良い評価をもらっているから、報酬には反映できないけど、評価の方には反映しておくね。そうすると、もうすぐ九級に上がれそうだね」

「そんなに早く上がっちゃって大丈夫なんですかね」

 まあ、疑問に思うよね。よくあるライトノベルとかだと、一ヶ月かかってランクを上げるとか、もっと長くかかるのかと思っていたけど、たった四日間で『あと少しで九級に上がれる』と言われる評価を得てしまった。それがあまりにも実感が湧かない上に、本当かどうか疑いたくなってしまった。

「うん。それはほんと。まあ、初日に十件も依頼をこなして、それから、ギルドとしても手をこまねいていたフルト先生の依頼をこなしたんだから、評価は高くなるよね。それに、高くなった評価にフルト先生からの評価も加わったんだから、この短期で評価を上げられたのもおかしくはないよ。とは言っても、九級に上がるためには依頼を最低でも二個は受けないといけないし、それに、試験もあるからそれに受からないとね」

「あ、試験があるんですね」

「そうそう。座学だけでは人を判断できないけど、ある程度座学ができないと、依頼主の人とトラブルになった時が怖いからね」

 要は、脳筋対策ということか。少しでも冒険者と依頼主との衝突を避けたい。そういうことなんだろう。

「まあ、座学が優秀だとギルドから職員として働かないかって誘いを受ける人もよくいるし、克人なら取っておきたいところかな」

「てことは、カイトって、座学ができたの?」

「いや。できなかった。だから、だいたい、ルーレットに徹夜で教えてもらって、本番ではそれをただ吐き出したかな。ああ、大丈夫。十級の座学なんて、薬草の判別と基礎的な読み書き問題だから。普通の人ならクリアできるよ」

「そうなんですね。あ、そろそろ、フルト教授のところに戻りますね」

 砂時計をふと見た時に、残り時間から今の時間を計算して、あと二十分で戻らないと一時間以上外で過ごしたことになるなと思って、カイトとの話を切り上げた。

「それじゃあ、また今度」

「おう。それと、フルト先生によろしくな」

「あ、うん」

 そういえば、カイトは先生呼びしていたから、あったことでもあるのかなと、少し考えを巡らせていた。


「戻りました」

 玄関のドアを開けるとバターの香ばしい香りが漂ってきていた。

「ちょうどよかった。たった今作り終わったところだから。ささ、熱いうちに食べて食べて」

 そう言って出されたのはサラダと煮込みハンバーグ、茄子の炒め物だった。そして。

「この世界にもお米ってあるんですね」

「ああ、そうだよ。土地柄、この辺りでは小麦の方が盛んに生育されているけど、他の地域では米も栽培しているよ」

 そう。この世界に来て、未だ一度たりともお目にかかったことのなかった米。正直にいうと、パンよりもお米の方が好きだったりする。人によっては噛み潰した時kのべちょべちょした感覚が嫌だって人もいるみたいだけど。でも、噛んだ時の甘みが忘れられないから、パンよりもお米の方が好きだ。本当に良いお米をきちんと炊くとめちゃくちゃ甘くなることを知ってしまったから後戻りができない。

「それに、耕作面積の少ないところは一本の穂から取れる粒の多い米の方を栽培しているところが多いね。まあ、他の地域に持って行くなら、断然小麦の方が良いんだけどね。人気だし」

「そうだったんですね。ていうか、フルト教授って色々知っているんですね」

「まあ、実家が農家だったしね」

 農家なのにめんどくさがりの子が生まれてくるのはどうしてなんだろう。いや、逆か。農家の息子だからこそ、やる必要がなければやらないし、やらなきゃいけない時だけはやるんだろう。

「そういえば古宮君、君、最初に僕の姿を見た時、だらしないとか思わなかった?」

「ゲッ、エッフン、エフ」

「大丈夫かい、水を飲みな」

 いや、まあ、現代風というか、確かに、少しだけだらしないなとは思ったけど。ズバリ言い当てられると驚く。せめて、何かしらの心の準備の時間が欲しかった。

「まあ、図星ということで、うん。まあ、実際、自分で自分のことだらしないとは思うんだよね」

 あ、自覚あった。自覚あるだけよかったとするべきか、扱いずらいとするべきか。

「でも、この服カッコ良いじゃないか。少しだっらっとしているから僕の雰囲気にもあっているし、何より、動くたびに擦れるスーツのズボンよりも、擦れないこっちの方が良いし、何より、この服装だと若く見られて、学生とかにも親しみを持たれるんだよね」

「そうなんですね。確かに、親しみやすいとは思いました。難化、物腰柔らかそうというか」

「ありがとう。さて、そんな話は良いから、冷め切らないうちに早く食べてしまおう」

 フルト教授の作った料理はおじいちゃんの作った料理に負けず劣らず美味しかった。というか、味が割と似ていた。


「今日は本当にありがとうございました」

「いやいや、それは僕がいうべき言葉だよ。僕の家を片付けてくれてありがとう」

 フルト教授が握手を求めてきたから、それに従う。

「それじゃあ、また。もし学院の中で見かけたら声をかけてね」

「わかりました」

 時計台に太陽が重なってキラキラして見えたのは情景描写とでもいうべきなのか。そんな景色のようにキラキラと輝いた四日間はあっという間に過ぎていった。

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