ギルドのお仕事 2日目

「ごめん、来るの遅くなった」

「別に構わんが、どうした? 息が上がってるじゃないか」

「あ、うん。まあ、色々とあって……」

 いえない。昨日の夜に好きな作家の新刊情報を見てうっかい興奮しちゃったなんていえない。そして、起きたのが一時間前だなんていえない。

「まああ、良い。そろそろ行くぞ」

「あ、うん」

 今日はギルドで清掃関係の仕事を受けるつもり。昨日掲示板を見ていた時、個人宅の修繕やなんかも多かったし、もちろん、街の清掃も依頼の中に含まれていた。街の清掃に関しては、街をいくつかの区画に分け、その区画を一人で掃除するというものだった。大変なぶん、割と報酬が良いらしく、十級から八級当たりの低ランク冒険者はよく受ける依頼だとルーレットが昨日の帰り道の道中で言っていた。

「ルーレットなら先にあっちの世界に行っているから、今日は一緒じゃないよ」

「あ、そなんだ。だから、朝いなかったんだね」

 そういえばルーレットはエインスさんとあってくるんだっけ。

 強制転移して向こうの世界の家に着いた後、真っ直ぐギルドに向かってすぐに掲示板を見る。何があるだろうと思ってみると、なんと良いことに、個人宅の清掃があった。条件は無駄口を叩かない、掃除清掃が上手であること、礼儀正しいこと。とあった。礼儀正しいかは自分では測れないところがあるけど、少なくとも他の二つはクリアしていると思う。

「通った時は担当職員へ聞く。だっけ」

 昨日、帰りの道中でルーレットに言われたことだった。最初は何が自分に合っているか分からないから、日が浅くとも、ギルド職員に聞いてみること。それが依頼選びで成功するか失敗するかを分けるらしい。早速、受付に座っている職員の人に、カイトがいるかどうか聞くことにした。ちなみに、受付にいたのは昨日のあのお職員の人だった。

「すみません、カイトさんっていう職員の人はいますか?」

「あら、昨日の子ね。依頼完遂おめでとうございます。カイトは確か資料の返却のために奥にいるから少し待たなきゃいけないの。ごめんなさい」

「あいえ。それじゃあ待つんで、カイトさんが戻ってきたら、ぼくが相談したいことがあるって伝えてください」

「分かったわ。伝えておくわね。そっちの壁際の椅子に座っているといいわ」

 確かに、カイトが来るまで時間がかかるなら、椅子に座っていた方が良い。

「ありがとうございます。じゃあ、あそこで待ってますね」

 そう言ってちゃんと待っていた。カイトが戻ってきたのは大体十分経過したあたりだろうか。

「やあ、克人、昨日ぶり。それで、ぼくに相談したいことってなんだい?」

「えっと、この依頼を受けるかどうか迷っているんですけど、カイトの意見も聞きたくて」

「なるほどね、ちょっと見せてくれるかい?」

 依頼書をカイトに渡す。すると、ああ、この人かぁ、とか、うん。まあ、いいのかな? などという声が聞こえてきた。何か問題でもあるのだろうか。

「えっとね、多分、克人くんなら大歓迎だと思うんだけど、えっとね、この依頼、完遂できた人がほとんどいなくて、それで不人気依頼ベスト十に入ってるんだよね」

 そんなに厳しい人なのかな?その、依頼主の人は。

「まあ、普段は優しいんだけどね。まあ、克人くんなら大丈夫だと思うよ。うん。何かあればぼくの名前を出せばなんとかなると思うよ」

 なんでだよと心の中でツッコミを入れる。

 でも、よく考えたらカイトって一級の冒険者なんだよね。そりゃ、顔が広くてもおかしくはないか。難化、近所の子供には、「みんなのお兄さん、カイトだよ!」とか言っていそうだなと思ってしまった。

「それじゃあ受けてみようと思います」

「分かったよ。それじゃあ、会員証を貸してね」

 そう言って、昨日の女性職員のようにぽちぽちと操作をし始めた。

「それじゃあ、頑張ってきてね」

 会員証の返却と一緒に言われた。そういえば、完遂できた人がほとんどいないってことは、何人か入るってことなのかな? 誰なんだろ。まあ、いっか。

 そう思って、ギルド会館を出て目的の家まで歩く。

 依頼主の家は街の中心も中心、時計塔のすぐ近くだった。ていうか、時計塔ってめちゃくちゃ滝建物だったんだ。と、こっちの世界に来て一ヶ月経つのに初めて近くまできた時計塔を見て思ってしまった。

 えっと、この白いお家かな?

 依頼書に書いてある特徴に一番近い家の当たりをつけてきいてみる。最悪、間違っていても、この近所のはずだからわかるだろう。

 ドアを三回ノックして大きめの声で聞く。

「ごめんください、ギルドの依頼できた者ですが」

「少し下がってくれるかな?」

 物腰柔らかそうな男の人の声が聞こえてきた。

「はい。下がりました」

「うん。ドアが当たると痛いからね。で、ギルドの依頼だっけ?」

 ドアを開けて出てきたのは、髪を長くしてTシャツとジーンズという、いかにも地球のあるあっちの世界の現代人な服装をした男の人だった。地味に似合っているのがすごく思えた。

「それで、ギルドの依頼ってどれのことかな?」

「あ、すみません。ぼくは古宮克人といいます。ギルドの依頼でフルト・アルテニアさんという方のお宅に伺おうときたのですが、こちらはフルト・アルテニアさんのオタクで合っています?」

 そういうと、目の前の男の人はハハハハと高らかに笑い始めた。

「いや、すまない。不人気依頼ベスト十だか絶対行きたくない個人宅ナンバーワンだと言われているから、こうしてくる冒険者は久しぶりでね」

「えーっと、つまり……」

 やばい、流石に、こういう時の返しはわからないよ。

「ああ、すまないね。うん。僕がフルト・アルテニアだよ。一応魔法について研究しているから教授でも先生でも良いよ」

「わかりました。えっと、じゃあ、フルト教授」

「うん。なんだい?」

「僕はどこを掃除すれば良いですか?」

 実を言うと、依頼書には建物内の清掃としかきていなくて、結局どこを掃除すれば良いかは細かく書いてなかった。だから、始める前に聞いておきたかったんだけど、帰ってきた返答は、全部、だった。

「えっと、全部っていうことは、建物の中全部の掃除ですか?」

「そうそう。まあ、立ち話もなんだし、見てもらった方が早い気がする」

 そう言って、家の中に招き入れられてみたのは、ものが所狭しと置かれた部屋ばかりだった。流石によく使うのか、書斎とキッチンとトイレとお風呂はもので溢れていることはなかったけど、だからといって、埃が溜まっていないわけもなかった。だけど、不思議と目立つような汚れはなかった。

「お恥ずかしい限りなんだけど、この有様で。昔ここに住んでて、戻ってきたのは三ヶ月前なんだけど、どうにも整理とかが苦手でね。九月からは新しい仕事が始まるから、それまでには片付けたいなと思って昔出していた依頼をもう一度出すことにしたんだ」

 へぇー。大変そうだな。研究者ってことは魔法学院にも顔を出すのだろうか。ある意味偶然だ。

「さて、今なら断っても僕が口添えしてあげられるけどどうする?」

「いえ、一度受けた依頼ですし、断りたくないので。やらせていただきます」

「うん。頑張ってくれ、新人冒険者くん。一応、こっちで洗剤とか、箒とか、掃除道具は揃えてあるから安心して欲しい。それと、資料の中には重いものもあるだろうから、その時は遠慮なく僕に言って。どっちにしても資料の置き場所とかは僕が決めた方が良いだろうからね」

「わかりました。それじゃあ、二階からやっても良いですか?」

「うん。構わないよ」

 ということで、早速掃除という名の整理作業が始まった。

 二階は全部資料保管庫にしてしまって良いそうだ。その理由を聞くと、めんどくさいからと言われた。もしかしたら、このフルト教授はめんどくさがりなのかもしれない。そう思ってしまった。

 この家は二階に三部屋、一階にリビングとキッチン、玄関、書斎、お風呂、トイレ、そしてよく分からない部屋が一つあった。

 最初に二階からやろうと思ったのは、一階をもので溢れ返らせるよりも二階をきれいにしてしまって、廊下とかのスペースに一階の物を置いて掃除した方がやりやすいと思ったから。それに、依頼書には8月末日までに斗かあkれていたから、こっちの方がやりやすい。

 二階のサン部屋のうち、一番奥の部屋に他のに部屋のものを入れる。そして、埃などが溜まり放題になっている蓋部屋をざっときれいにした。まずは箒で埃を掃き出して、窓を開けた後に雑巾掛けをする。このセットを一部屋ずつやる。片方の部屋をやっている間に大体乾くから、からぶきして、それから資料を入れていく。どの資料も同じようなことをテーマに扱っているらしいから、どういうふうに分かれていても問題ないらしい。確かに、どの箱も論文の束か本が敷き詰められていた。一、二箱の中に衣類や食器は収まるという。フルト教授に許可を取ってから部屋にあった本棚を使ってそこに本や論文の束を入れていった。

 そうしていると、二階にあったはずのものは全て一部屋に収まってしまった。

 まあ、一階にあるものをここにおくからなんともいえないけど、思ったよりもスカスカなのを見て、やっぱりフルト教授はめんどくさがりなんだなと思った。なんか、せめて、二階に運んだ物ぐらいは棚にしまおうよと思ってしまった。そうして特に荷物の移動もなく二階の一番奥の部屋も掃除し終わった。

 砂時計を見ると、残り二時間になっていた。

「あの、フルト教授、申し訳ないんですが、今日はここで帰らせてもらえますか?」

「え? まあ、いいけど。明日も来てくれるんだよね」

「はい。もちろん、必ず。えっと、実は、僕は別の世界とこっちの世界を行き来していて、その関係でこっちの世界には十時間しかいられないんです」

「おお、そうだったのかい。そういうことならなおのこと仕方がないね。ちなみに、今日入れてあと三日しかないけど、終わりそう?」

 よかった。なんか理解ある人で。そういえばこれって言っちゃっていいことだったのかな? まあ、いい人そうだし、いいかな。

「はい。大丈夫です。必ず終わらせます」

「うん。その頼もしい返事を聞けたから安心した。それじゃあ、明日も明後日も多分ずっとこの家にいるだろうから、都合の良い時に来て掃除していって」

「わかりました。それじゃあ、今日はこれで失礼します」

 そうい言って、フルト教授宅を後にした。


 こっちの世界のおじいちゃんの家に着くと、すでにルーレットが帰っていた。その代わり、おじいちゃんはいなかった。

「克人様、おかえりなさい。今日はどこで依頼をこなしていたんですか?」

「ただいま。えっと、時計塔の近くに住んでいる人の家の中を掃除してきた。明日と明後日を使って終わらせようと思ってる」

「そうなのね。かんばってください。もう少しでご主人様も帰ってくると思いますが」

 ちょうどよく、おじいちゃんが帰ってきた。

「おお、なんだ。もう揃っていたのか。それならあっちの世界に戻るか」

「そうだね」

 そうやって今日のこっちの世界での活動は終わる。

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