ギルドのお仕事 1日目

 昨日までとは違い、今日からは冒険者としてギルドの依頼に取り組むことになった。まあ、最初のうちは簡単な薬草採取とか、あまり強くないモンスターの討伐とかなんだろうけど。

 久しぶりにギルド会館に行くと、ちょうどカイトが資料を運んでいるところだった。

「克人じゃないか。久しぶり。ルーレットも。そして、そちらの方はやはり」

「ええ、カイト、そういうことだから、絶対に口に出さないでね」

「わかりました」

 誰を、何を、それを一言たりとも言わない。それでも分かり合う二人はすごい。

 僕には全然わからないけど、おじいちゃんはこの街でもほとんど常に顔を変えているらしい。その魔法を解いたのは魔法学院に行った時と、家の中だけらしい。それだけおじいちゃんは有名ということか。

 カイトは僕たちを魔力測定した時みたいな部屋に連れてきた。

「ここなら誰か兄貴聞かれる心配もないですよ。なんなら。防音結界を張っても良いですし」

「そうだな。それにしてもカイト、久しぶりだな」

「はい。お久しぶりです。おじさん」

 おじさんという単語に対して、まだまだ若いんだがなぁ、とかなんとかぶつぶつと呟いているおじいちゃんは置いておくとして。

「今日はギルドの依頼を受けようと思ってきたんですけど」

「はいはい! お安い御用だよ。ルーレットに頼まれてギルド会員証も作ってあるからね。安心して受けられるけど、依頼を受ける前に色々と説明しておくことがあるから聞いてね。ルーねーはこっちの書類の必要事項欄を埋めておいて。あ、担当職員のところにはぼくの名前を書いておいたから、書かなくて良いよ」

 そう言って、ルーレットにボードと紙を渡していた。住所等届出と書かれていたのが見えたから、カイトが確認できなかった情報を書いてもらうつもりなんだろう。

「で、まあ、細かいことは後で話すから、ひとまず、このカードを持ってみて」

 差し出されたのは鎖がつけられた銀色のカードだった。ファンタジーのお約束的なやつで、ぼくが持つと魔力に反応するのかな。そんな予想を立てつつ、持つと、案の定、スッとぼくの名前や職業が視えた。

「あれ? 思った折も反応が薄い。普通はもうちょっと驚くんだけどね……。まあいいや。そのカードはギルド会員証で、無くすとペナルティーがあるから、必ず無くさないようにしていなさい。で、そのカードを確認して欲しいんだけど、名前、職業、年齢に間違いはないかな?」

「はい。あの、この、ランクって……」

「うん。それは今から説明するね。と、その前に、君の会員番号がこれとあってるか確認してほしい」

 そう言われて差し出された紙に書かれた番号と、おそらく一番上に書いてあるものであろう番号があっているかを確認する。まあ、もちろんあっていた。

「それじゃあ、まずはギルドの仕組みから。簡単にいうと仕事の仲介をしていて、いろんな仕事がここに集まる。街の堀の掃除から屋根修理、植物採取に魔獣討伐。色々とあるけど、ギルドの会員は自分でやりたい仕事を選べる。まあ、早い者勝ちなんだけどね。そこで仕事選びの基準になるのがランクさ」

 そう言って、ウィンクをしてきた。目の端に一瞬、星がキラッと輝いたように見えたのは気のせいだろうか。

「で、まあ、一番下が十級、そして一ずつ上がっていって一級になると、最高ランクってわけだ。上のランクに上がる方法は二つ。一つはギルドの定める基準をクリアすること。二つ目は大きな功績を作ることさ」

 よくある異世界ファンタジーの世界と一緒でよかった。そんなことに少し安心していた。

「それで、一応克人くんは十級扱いになってるんだけど、ぶっちゃけていうと魔力量だけなら現存するどの記録の偉人よりも多いから、すぐ一級に成れると思うよ」

「えっと、つまり、仕事をしたことがないから十級なだけで、数値だけなら一級だってこと?」

「そういうこと。参考までに言っておくと、今までに一級まで上り詰めたのは五百人いるかどうかだよ」

 数だけ聞くと多そうだけど、多分分母が桁違いなんだろうな。

「ちなみに、克人くんの横にいる二人は一級だよ」

「カイト、愛想が良いのは素晴らしいことだけど、はぐらかさずにもれなく情報は教えてあげなさい」

「ああ、はいはい。まあ、おじさんは想像通りだろうし、ルーレットも。いや、ルーねーはおじさんを一人前に仕立てあげたんだから、そりゃ一級だってわかりやすいよな。うん」

 なんかカイトが一人で納得してしまっている。

 そんな中、あってるかどうかよくわからないことを聞くのもどうかと思ったけど、まあ、この状況的にそれ以外あり得ないよねと思って、口に出す。

「カイトも一級なの?」

「うん。そうだよ」

 あ、軽い。めちゃくちゃ軽い。予想していたのは、なぜ分かったって、カイトが驚くことだったのに。

「まあ、驚いてもよかったんだけど、察しの良い克人なら当てちゃうよなと思ってました。うん。まあ、そんなわけで、克人はすぐに一級になれるよ。だけど、才能があるのと使えるのとじゃ訳が違う。それは察しの良い克人ならわかるよね?」

 確かにそうだ。例え能力があっても、使えなければ意味がない。使うためには使い方を知らないといけない。

 つまり、魔力はあっても、使い方を知らなければ、対処法を知らなければ、魔獣に対抗することもできない。知識がなければ、思考力がなければ、能力があっても意味がない。ただ無闇矢鱈に使うだけ。

「うん。分かってくれたみたいだ。と言うわけで、克人くんが受けられる依頼は十級の依頼です。あ、そうそう、基本的にはランクに応じた仕事しか受けられないことになっているけど、例えば指名依頼があった場合はその限りでないし、上のランクになると報酬も上がるけど、一級クラスの人達が出て来なきゃいけないことはほとんどないから、上の級に上がっても、下の級の仕事をすることはできるよ」

「わかりました。それじゃあ、依頼を探してこようと思うんですけど、何かおすすめとかはありますか?」

「うん。決断が早くて潔いから助かる。そうだな。特にこれといった感じのものはないけど、体力に自信があるなら街の清掃、自信がないならルーレットに教えてもらいながら薬草の採取をすると良い」

 その二つか。

 そういえば、朝市に行ったとき、街のどこを見ても目立つゴミはなかった。それもこれも、ギルドの仕事として依頼を受けた人たちがやっていたんだ。

 どっちをやっても良いなとは思ってる。もともと、掃除は好きだし、薬草採取は面白そうだった。

「ルーレット、ぼくはどうすれば良いかな?」

「そうね。魔法学院の初日まではまだ五日ありますから、手当たり次第受ける方向性で、そうですね……、実は私、明日はエインスさんとお茶をする約束をしています。ですので、今日は薬草採取をメインにやって、明日街の清掃をしてはどうでしょうか?」

 ぼくの知らぬ間に、ルーレットはエインスさんと会う約束を交わしていたようだ。

「そうしようかな?」

「それじゃあ決まりだ。ルーレットは克人と一緒に掲示板に行って依頼を見繕ってきてくれ。それで、おじさんはどうします?」

「ああ、そうだな。俺はブラブラと散歩することにしようかな」

「それじゃあ、ついでに黒化している魔獣に遭ったら、討伐をお願いします」

「おう。任せておけ」

「それじゃあ私たちも行きましょうか」

「あ、うん」

 カイトがおじいちゃんに話していた黒化した魔獣とはなんだろう。

 ただ、それが危ない存在であろうことしか、その時のぼくにはわからなかった。

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