魔法学院ー1日目 魔力枯渇
セロを連れて歩き出したはいいものの、カバンの中が苦しくないかがひどく心配だった。なので、信号で止まったりした時に、チラチラとカバンの中を確認して、撫でたりした。朝の早い時間帯のせいか、あまり人はいなかったが、周りが見えないセロは撫でるたびにクルル〜〜〜〜と、喉を鳴らしてくれた。その音を聞くたびに、安心しながらおじいちゃんの店に着いた。
「おう、来たな」
「おはようございます」
すでにおじいちゃんは厨房で下準備をしていた。僕が来るのを確認すると、適当なところで終わらせてこっちにきた。
「セロは持ってきたか?」
「うん」
「それじゃあ、このまま向こうに行くけど、忘れ物はないな」
「うん」
「それじゃあ、先に上がっててくれ」
いつもよりもせっかちに質問して来たおじいちゃんに口を挟むことができずに、言われた通りに二階に上がる。
いつもなら、セローーールーレットというべきなのかな?ーーーが空間魔法であっちとこっちを繋いでいたから、いつもの部屋の扉を開けて、戸口をくぐればよかった。でも、今日のルーレットは弱っているから、無理はさせられない。
おじいちゃんが上に上がってくるのを待っていると、少しだけ暇になったので、バッグからセロを取り出して、膝の上に乗せる。うん。やっぱり、セロの毛並みは最高だ。
「待たせたな、克人」
セロを撫でに撫でて、余すことなくセロをマッサージしたところで、おじいちゃんが来た。両手には、なぜかふわふわとしたクッションがあった。……おじいちゃん、なんでクッションなんか持ってるの?
「ああ、このクッションは、セロを置くためのだから。気にするな」
「気にするなと言われても、気にしない人の方がどうかしていると思うけど……」
「まあ、そうじゃろな」
あっさりと肯定したおじいちゃんは床にクッションを置いて、僕の膝の上からセロを持ち上げて、クッションの上に置いた。
そして、セロを乗せたまま、おじいちゃんはいつもの扉に魔法をかけ始めた。
魔法をかけていると術者以外が知るためには、周りにある魔力の変化を感知する、いわゆる魔力感知か、周りの精霊から教えてもらうしかない。後者は精霊と会話する力を有していないとできないが、前者は少し訓練を積むだけで行うことができる。方法は色々とあるが、ルーレットの教えてくれた方法は、自分の魔力を薄く空中に流して、空気と馴染ませるようにする。もし魔法が使われていたら、自分の魔力に対してギスギスと擦れ合うような気持ち悪い感触を感じるはずだと言われた。
こっちの世界では魔力の消耗が激しいので、あまり多くの魔力は使えないが、後日、カイトにきちんとした魔力量を聞いたら、平均的な魔力量は5000。そして、僕の魔力量は50040275らしい。参考までにおじいちゃんとルーレットに聞いたら、ルーレットは140032、おじいちゃんは2053420らしい。歴代最高量と言われていたおじいちゃんの魔力量の約20倍。そんな容量があって、ルーレットが少し苦しい程度の魔力感知は、克人にとっては「少し苦しいかな?」と思えるかどうかというぐらいだ。
そうでなくても、なぜか克人には魔力の流れというものが見るので、おじいちゃんが魔法を使っていることはすぐにわかった。
「克人、それじゃあ、それじゃあ入ってくれ。あまり維持できないから、さっさとしろ」
言われた通りにさっさと戸口をくぐる。
くぐった先は、先ほどまでいた薄暗い喫茶店の二階とは打って変わって、日の差し込む明るい部屋だった。いつもの、あっちの世界のおじいちゃんの住処だった。
「克人、ルーレットを置いていくとは少し薄情じゃないか?」
僕の後ろから、おじいちゃんがくぐってきた。
「ごめん……。おじいちゃんに急かされて、セロのこと考えてなかった」
「それだと俺だけが悪いみたいじゃないか……」
おじいちゃんの悲しげなつぶやきが後ろから聞こえてきたが、無視することにした。
時には、はぐらかす事も大事。
閑話休題。
「おじいちゃん、セロはどうするの?」
「ああ、それは、放っておくしかないから、ここに置いていくだけだな」
それを聞いて克人は放置はかわいそうだなと一瞬だけ考えて、すぐにその考えを取り消した。
それは以前、ルーレットから聞いたことを思い出したからだ。
***
「魔力枯渇?」
「ええ」
あっちの世界の存在を知ってから、そんなに日が立たずにルーレットから教えてもらったことだ。
「まあ、克人様に限っては関係ないことですが、一応説明しておきますね。魔法を構築・発動するには体内の魔力を消費することは説明しましたよね?そして、発動する魔法の世界への干渉が大きい場合、また魔力を通しにくい材質に対して魔法を行使する場合や、あっちの世界のように魔法を行使する為に多くの魔力を使わなければならない場合は通常の何十倍と魔力を消費します。その時に、体内にある魔力を極限まで使ってしまうと、起きてしまうのが魔力枯渇です」
ルーレットの言う通り、僕の魔力量で魔力枯渇の状態を起こすためには、それこそ膨大な数の魔法を連続して構築・発動するか、かなりの大規模な魔法を使わない限りなくならないらしい。
「魔力枯渇になったらどうやって治すの?」
「ふふ、克人様はご主人様と違って、なかなか鋭い感をお持ちですね。一番いい方法は魔力が体内に自然と蓄積されるのを待つか、まだ少しでも魔力があるなら魔力回復薬を飲ませるかのどちらかですね」
治療方法にしてはだいぶ
「まあ、自分の魔力を流し込むなんていう荒技もありますが、生半可な魔術師がやっても殺してしまうだけなので、本当も本当の緊急事態以外ではやらないでくださいね」
なんて笑顔で言われたので、心を読まれたのかと肝が冷えた。
***
その時は、一部理解できないところもあったせいか、「そんなこともあるんだ〜」程度にしか思っていなかった。
けど、まさか、自分の身の回りで実際に起きるとは思っても見なかった。だから、ルーレットの話を思い出すことができたので、幾分か冷静になれた。そして、克人は思い出したことの中で、ルーレットが早く治りそうな方法をおじいちゃんに提案することにした。
「おじいちゃん、魔力回復薬ってルーレットに飲ませてあげてもいい?」
「構わんが、効果は望めないかもしれないぞ」
確かに、ルーレットも言っていたけど、魔力が全くない状況では効くかわからないけど、やって見るだけの価値はあるはず。
そう思って、おじいちゃんが持ってきた魔力回復薬をセロの口の中に少しずつ流し込む。
魔力回復薬は見た目を何かに例えろと言われると、形容しにくいけど、 緑色で見た目から不味そうな液体の薬を想像してもらえれば良い。
「あとは、少しの間放っておくしかない。取り敢えず学院に行くか」
確かに、こっちにいられる時間は10時間。 その間に行くところには行っておかないといけない。克人は急いでこっちでの服に着替えた。
克人は少しだけルーレットの方を見て、こっちの世界でのおじいちゃんの家を出た。
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