銀麗族

「そ、それじゃあ、次は魔法検査の方へ移ろうか」

 この時、カイトはカツトならどんな魔法でも使えるだろうと思ってしまったが、魔力量と適性はまた別の話。それに、もし全ての属性が使えるなら、それを見て見たいと思ってしまった。

「あのー、測定に入る前に、魔法検査が何か教えてもらってもいいですか?」

「あ、ごめん。忘れていたね」

そもそも、この世界の魔法に関する考え方として、大きな魔法の用途によって分類している。基礎魔法、生命魔法、生産魔法、調合魔法、特殊魔法、聖典魔法の6つだ。

基礎魔法は火、土、光、水、木、金属、大気の7種類の属性によって構築できる魔法のことを指し、例えば火を指先に出す火の玉ファイアアクション、あたりを照らす陽の光ライトなどが当たる。 例としてあげたものは一番ランクの低いものだが、他の高位の魔法でも、そのほとんどが基礎魔法に当たる。

 この魔法を扱えない人は他の魔法を使うことができないと言われている。それほどに、基礎魔法は重要。他に魔法を行使する方法を挙げるなら、精霊を使役するしかない。だが、精霊を行使するには、使役する精霊に受け入れられなければならないので、あまり見かけない。

 生命魔法は命を操ることができる魔法で、主に光属性によって融合、構築された基礎魔法の上級の魔法のこと。有名な例として、蘇生リヴァイブなどが当たる。

生産魔法は全ての魔法で融合、構築するもので、ものを作ったりすることができる。とは言っても、全ての魔法が全ての属性を使うわけではなく、魔法ごとにいろんな属性を組み合わせるという意味だ。

 調合魔法はすべての属性を融合、構築させたもので、本来融合出来ない物同士を魔法で混ぜ合せる魔法。生産魔法と似ているが、別のものを使って加工はできても、混ぜ合わせることは生産魔法にはできない。また、魔法の融合に関しては、調合魔法ではなく、出来上がった魔法の用途で分類される。

特殊魔法は一部の人だけが使うことのできる特殊な魔法。どの属性にも属さず、しかし、確かに魔法の一種。空間魔法はその最たる例としてあげられる。特殊魔法は使うことのできる人が少ないことから、重宝されていた。

そして、魔法検査では、どの魔法に得手不得手があるかと、どの属性が強くて、どの属性が弱いかがわかる。

「ていう感じでだいたいわかったか?」

「うん、ある程度は。ところで、聖典魔法ってなんですか?」

カイトがわざと避けたかのように教えてくれなかった聖典魔法とは一体なんなのか。わざわざいっぺんに教えなかったのには理由があるにがいない思った。

だけど、聞かないという選択肢はなかった。

カイトはさっきから額に汗を浮かべながら「今教えるべきなのかな……」とぼやいていた。ここまで渋るんだから絶対何かあるはずだ。

克人の中で朧げな推測が明確な確信に変わった。

 隣の椅子がガタッという音が聞こえた。見るとルーレットが悩んでいるカイトを見かねたらしく、仁王立ちしていた。

 ルーレットがゆっくりと話し始めた。

「克人様、聖典魔法とは簡単に言ってしまえば、禁じられた魔法なのです」

 克人は、その言葉を聞いて、聞いてよかったと思うと同時に、嫌な予感が頭をよぎった。

「この魔法を使うと人を死に至らしめることが可能なのです。私もあまりこういう話はしたくありませんが、この魔法によって絶滅、減少した種族もいます。その一つが、銀麗族ぎんれいぞく、そしてその生き残りの一人がカイトなの」

 カイトの方を見やると、泣いていた。目の周りが赤くなっている。涙はすーっと頬を落ちていた。カイトが肩をすくめながら話し始めた。

「僕たち銀麗族は聖典魔法によって絶滅しかけた。魔法のことは恨んじゃいないけど、使い方を間違うと人を殺してしまうんだ。たとえ、それが基礎魔法だとしても」

 カイトが言わなかった理由がわかった。

なんで今いうべきか迷っていたのかもわかった。

確かに理由はあったが、楽に身構えていた自分に嫌気がさした。

魔法はあったら便利かもしれない。でも、簡単に人のためになれる反面、人を殺めることもできる。それに、今更ながら気がついた。

 三人の間に沈黙が降りる。聞こえるのは、カイトの鼻をすする音だけだ。

 しばらくは何も話さなかったが、カイトが服の袖で涙を拭いて、弱々しい笑顔で言った。

「だから、魔法を使い始める人にはこの話をきっちりするんだ。使い方を間違えないために。道を踏み外さないように。

でも、君のような純粋な子には重すぎる話だから、今話すか別の時に話すか悩んじゃって。あーあ。……やっぱりルーねーはすごいよ。克人、わかんないことがあったらルーレットに聞いたほうがいいよ。ルーねーなら間違ったことは教えないから。だって、一番最初に僕が魔法についての手ほどきを受けた人だから。背中が遠くて、追いついたと思ったら、全然背中は遠いままなんだもん」

 カイトは最後の方は涙まじりに微笑んでいた。ルーレットの方を見ると、彼女も涙目になっていた。



「さて」

 少しは落ち着けたのか、まだ涙声のままのカイトが話し始めた。

「聖典魔法はさっきも言ったけど、人を殺すこともできてしまう、そんな魔法。この魔法だけは、特定の例があるわけじゃないんだ。有力な説明としては、感情の昂りや憎悪によって、引き起こされるって言われてる。ただ、この魔法は厄介で、人の命を奪うことができるとともに魔法を構築した人の魔力を最大限に使用するから、行使した人も死んでしまうんだ」

「え、じゃあなんのために……」

 じゃあなんのために、魔法を使うのだろうか。

 その疑問にカイトは答えた。

「例えば、僕らの一族の場合はこの容姿を恨んだ人によるものだった」

「そんな理由で……」

「そんな理由で。その人は昔、僕たちの集落を訪ねてきたんだ。婚約者と一緒にね。婚約者の人は政略結婚でその人のお嫁に行くことになったらしいんだけど、その人は女癖が悪かったらしくて。こんな話は君には早いね。仲が良くはなくて、できれば好きになった人の嫁になりたかったらしい」

 克人には話がだんだん読めてきていた。カイトの涙声も収まっていた。

「もう克人はわかったようだね。そう。一族のうちの一人と引かれあって行って、終いには駆け落ちしてしまったんだ。二人はそのあと人目につかないように真夜中に男が集落からいなくなるまでの間隠れられる安全な場所に引っ越していた。もちろん、その男は気がつかなかった。次の朝に起きてようやく気がついたんだ。それで、怒って婚約者を探しに行ったんだ。もうくどいよね。結局、二人が集落に戻った時に二人の家めがけて聖典魔法が放たれたんだ」

 感情がまぜこまれていない声で、淡々と話した。一呼吸おいたカイトは冷静な声でまた話し始めた。

「ほんと、こんなことがあるのかってぐらい聞いたときは耳を疑ったよ。家族の最後に会えなかったんだから。僕が話を聞いたのは、たまたま他の村へ行っていて、うちを留守にしていた父さん達と、村の外で暮している同郷たちからだった」

 なんで、カイトがここまで淡々と話しているのかがわかった。おそらく近隣の家にも被害が出たのだろう。それぐらいは想像できる。そして、それが真実かどうかなんてわからないことも。

「せめて、僕が帰省している間に起こっていたらなんていまでも思うよ」

 三人の間には沈黙しか流れなかった。



「ごめんね。なんか辛気臭い話になっちゃって。それじゃあ、魔法検査を見よっか」

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