魔力測定

「ルーレット、カフェのマスターになると何ができるの?」

「そうですね……やはり、そこの辺りは張本人に聞くのが一番手っ取り早いですね。それに、少し私が喋りすぎました」

ルーレットがおじいちゃんの方を見たので目をやると、少しむくれていた。

「それじゃあ、話し始めるとするか」

ぼくが視線を向けているのに気付いて、そう言った。

「カフェのマスターっていう職業は、いろいろな材料から魔法飲料を作ることができるんだよ。一番近いものはポーションだな。ただ、ポーションと違うのは、完全な液体ではないってことだ。まあ、これはおいおい話すとするか。前見てみろ。あれがギルド本部。むこうの世界でいう役所だな」

よく知っているファンタジー世界の単語が出てきたことに驚きながら前を向くと、そこにはさっきまで見た家や店よりも大きい、石造りの建物があった。

「どうだ、すごいだろ」

横からおじちゃんが言ってきた。そこは、おじいちゃんが褒められているわけでは無いはずだけど……、まあ、無視しよう。

「私からしたら、むこうの物も同じように大きく見えますが、やはり雰囲気が違いますね」

同じく横ではルーレットが感嘆していた。

「それでは私が克人様と手続きの方をして参りますので、ご主人様はロビーでお待ちください」

ルーレットはそう言うと、後ろから肩に手を添えて僕を促した。



ドアを開けると、目の前のエントランスホールは想像以上に暗かった。でも、ステンドグラスから漏れてくる自然光や柱ごとに設置されているランタンの綺麗な炎が明るい雰囲気を醸し出していた。

「克人様、こちらです」

ルーレットに示された先には、受付の職員が座っていた。

「身分証明書は右奥のカウンターのようです。それでは行きましょう。あと、今日は各種測定もしてもらうので、忙しいですよ」

ルーレットにそう言われて少し憂鬱になった。右奥のカウンターに行くと、かなりの美少年が座っていた。

「こんにちは。って、ルーレットじゃないですか。では、そちらの子は?」

「あら、カイト久しぶりね。まだお父上は元気?」

どうやら、カイトさんとルーレットは顔見知りらしい。

「ああ、元気だよ。たまにしか会えないから心配だけど。ところで……その子は誰かな?」

「カイト、たとえ年下でもまず自分から名乗らないなんて礼儀がなってないわ」

「こりゃ失礼。……はじめまして。ぼくの名前はカイト。近所の子からは、カイ兄ーとか、カイトーって呼び捨てだから、気軽に呼んでね」

そう言うと、立ち上がってぼくに握手を求めた。座っていて見えなかったが、カイトは背中の中程まである長髪を後ろでまとめていた。髪の色が銀色なせいか、容姿と相まって格好よく見える。

「はじめまして。克人と言います。ぼくのことは克人で大丈夫です。あと、今日は身分証明書を作りにきたんですけど……」

「はいはい、お安い御用さ。ところで、肝心な質問に答えてもらってないんだけど……」

「むこうの世界でのご主人様のお孫さんよ。この世界に来たのは今日が初めてだから。こっちのことは何も知らないけど、素質はあるわ。なにせ、小さい頃から私がそばで見ていたんですもの。私の目は狂ってないはずよ」

ルーレットがそう言うと、「ホォー」と興味ありげな顔をした。

「まさか、あの方に孫がいたなんて……。それはそうと、身分証明書だね。じゃあ、部屋を取ってくるから少し待ってね」

そう言うと、奥の方へ行ってしまった。銀色の髪の毛はさらさらとしていた。



しばらくして、カイトが戻ってきた。

「いやー、待たせてごめん。部屋の用意してたら、上司からいろいろと頼まれてさ」

「それはそうと、早く済ませましょう」

ルーレットの掛け声で、ぼく達は二階にあるという部屋に向かった。



中に入ると、3種類ほど何かしらの道具が並んでいた。

「今から、身分証明書の発行に必要な測定を克人君にはやってもらいます。その前に、魔法って何かわかるか?」

当然わからないので首を横に振った。

「まあ、そうだよね。魔法っていうのは魔力を使って何か物事に変化をもたらすことを言うんだけど、例えば、植物の成長を早めたり、遅めたりとかね。で、その魔法にも人によって使える使えないっていうのがあって、それは魔力と適性によって決まるんだ。あ、魔力は自分の体の中にあるよ。ま、あまり意識しないけどね」

つまり、体の中にある魔力を使って物事を変化させるってことか。

「そして、魔法を使うにはイメージ力が大事。潜在的にできる人が多いけど、イメージ力があったほうが威力も精度も格段に上がるからね」

イメージ力か。僕にあるかな。少し心配になってきた。

「それじゃあ、まずはこの石の上に手を置いてくれるかな」

そう言うと、目の前に僕の顔と同じぐらいの大きさもある透明な石が置かれた。家にも同じような石があるが、これは雰囲気から違う。綺麗に磨かれていて、反射したろうそくの光が眩しかった。きっと、特別な鉱石なのだろう。

「この石は色石と言って、魔力に反応して色が変わるんだ。それじゃあ、物は試し。実際やってみようか。とりあえずリラックスして体の中の力を意識して、それを流すイメージでやってごらん」

力を流す。ようは、力をこの石に流し込むってことだよね。それじゃあ、力をこの石の中に入れ込むイメージで力を流せばいいのかな?えーっと、体の中の力をまず意識して、それを入れ込む、いや染み込ませる方がいいかな。

そうイメージした途端、自分の中に熱のようなものを感じた。ああ、これが魔力なんだなと、直感で感じた。そして、この力を石に染み渡らせるように意識する。

「克人君!?ストップ!ストップ!」

その声を聞いて我に返った。見ると、石が七色に光っていた。

「ふふ、やはり、ご主人様の孫だけあって魔力は相当のものね」

石の色を見て、ルーレットが微笑んでいる。片手にボードを持っているので、どうやら書類を書いていたようだ。

「ここまで綺麗に光る色石を俺は見たことがないぞ」

カイトの口ぶりからしてぼくの魔力は相当なものらしい。

「確かに、初めてにしてはうまくできていたわね。それに、色石の光に見とれてしまったわ」

ルーレットが言うのだから本当にすごいのだろうが、どのぐらいなのだろうか。

「ああ、それにあの状態を30秒は続けていたぞ。そんな奴、この世界に何人いるか……。ましてや、初めての奴がここまで使えるなんて話聞いたことがねーぞ」

「そんなにすごかったんですか?」

実感が湧かないから二人に聞いてみた。すると、同時にこう言った。

「こんなに綺麗に色が出るなんて、まず見ないぞ」

「克人様に魔力がかなりあることは分かっていましたけど、これほどまで多いとは……」


どうやら、ぼくの魔力は相当多く、初心者にしては出来すぎているということらしい。

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