第11章 夏が来るたび(4)
「円香ちゃん、手を振ってるよー」
「ああ」
返事はするが、振り返らなかった――いや、振り返りたくなかった。
じりじりとしたアスファルトを踏みしめながら、僕はついこの間だの光景を思い返していた。
花畑の中。白い日傘と、白いワンピース。
守ってあげたいと思った。
多分、円香がいなければ、僕は帰ってしまっていたかもしれない。
そして、これがきっと僕の初恋で―――――初失恋なのだろう。
彼女には夢があり、それを叶える為に必要な人は、僕ではない。
「それだけの事さ」
「え? なに?」
まだ後ろを振り返りつつ、手を振っていた美凪が、ふいに呟いた僕の声に反応する。
「何でもないよ」
そう。
それだけの事だ。
僕の横で、美凪が軽く伸びをしながら、呑気な声を出す。
「あ~あ。結構早く帰る事になったから、どうしよっかな~」
「どうするって?」
「もっとかかると思ってたからさ、部活を一週間休み取っちゃったんだよね」
「……知るか」
ここまで振り返らずに歩いていた僕だったが、ふと気になって一度だけそっと振り返った。
円香達は、まだ僕らの後姿を見送っていた。
僕の視線に気が付いた円香が、手を振ってきた。だが僕は、軽く会釈だけしてすぐに前を向いて歩き出す。
いつか、この想いを忘れる事ができるのだろうか。
それとも、思い出に変わるのだろうか。
どちらにしても、僕はきっと夏が来るたび思い出すのだろう。
この事件の事を。
鎌倉の街を。
そして、花畑の中に佇む、あの少女の事を――――――。
「ねー、明後日にでもプール付き合ってよ秋緒」
幼馴染の呑気な声が、煩いくらいの蝉の声に溶けていった。
完
+++++++++++++++++++++++
あとがき。
長い話を、最後まで読んで下さった方、有難うございました。
説明部分にも書きましたが10年以上前に書いたものなので、
携帯事情が(スマホなんてなかったし)古くて申し訳
ないです。
この話「秋緒&美凪シリーズ」と称していて3部作の予定で
執筆しています。
いつ完結するかわかりませんが、もし見かけたら読んで下さると
嬉しいです。
みすぎけい
なつがくるたび みすぎけい @misugi
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