第7章 二通の遺言状(15)



「かなり怒ってましたね」

「本当の事を言われりゃ、誰だって怒るさ。次呼んできてくれ」

 賢三が出て行った後、椎名はのんびりと言う佐久間に簡単に答える。言われた佐久間は急いで隣の部屋へ飛んでいった。

 しばらくして佐久間に連れられて入って来たのは、万沙子の長男、脩だった。





「東郷 脩さん……カメラマンなんですっけ?」

「そうです」

 あの両親の息子とは思えない、話しやすそうな好青年に、椎名もくだけた様子で世間話をはじめる。

 話してみて僕も思ったが、脩は感じのいいお兄さんという印象だ。

 弟の彬が、脩を嫌う理由は美凪から聞いてわかったが、もし彼が自分の兄だったら、どんなにか頼りになっただろうか?

「それで、皆さんにも聞いたんですけどね。昨日の晩から今朝にかけて、何か変わった事とかありませんでしたか?」

「……いいえ。私は気が付かなかったです。十一時頃に寝て、朝にあの事があるまで起きなかったですし…」

 あの事―――弘二の死体を見つけた時の騒ぎの事だ。

 僕も、朝まで寝たり起きたりとしていたが、あの騒ぎがあるまで何も変な音も、声も聞こえなかった。

「そうですか。わかりました」

「弘二おじさんは、自殺じゃないんですか?」

「まだ何とも言えませんのでね。皆さんから色々お聞きしているんですよ。ところで脩さんは、弘二さんとは親類同士でのお付き合いとかは?」

「ありませんね。母が…嫌ってましたから」

 脩は苦笑混じりに答える。

 椎名はその後も、いくつか質問したが、意外に早く脩を解放した。そして次に弟の彬を呼んで欲しいと伝えて、脩は部屋から出て行った。

 そして脩と入れ替わりで、彬が入って来た。

「めんどくせェな~」

 入るなり、彬はだるそうな声を出す。やる気などないのだろう。

 椎名に促されて、彬も僕の目の前の定位置に座った。

「早めに終わらせますから、私の簡単な質問に答えてくれますか?」

「いいぜ? なんでも聞いてくれよ。はっきり言えよ。弘二の親父は殺されたんだろ?」

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