第7章 二通の遺言状(10)
「それで君たちは……えっと秋緒君は、一人で部屋にいたんだね?」
「はい。寝る前まで、この美凪と一緒にいましたけど」
僕が美凪を見ながらそう言うと、美凪も頷いた。
「それは、何時ごろまでかい?」
「えっと…九時? だっけ? 確かその位だったかな」
「はい…九時ね。それで美凪さんも別の部屋で?」
「そーです。あたしその後、円香ちゃんと一緒の部屋で、休んだんです」
椎名は、何度も頷きながら、手帳に書き込んでいく。
「成る程…。それで、夜中から明け方にかけて、何か物音がしたとか、声が聞こえたとか、あったかな?」
これには僕も、そして美凪も首を振った。
僕の部屋も、美凪がいた部屋も、弘二が死んでいた東郷氏の部屋から離れてはいるが、特になにも聞こえなかった。
椎名は何も言わず、それも手帳に書き込むと、その手帳を仕舞いながら、部屋をぐるりと見回した。
僕もつられて見回す。
八畳の部屋だった。あるのは中央に置かれた、このテーブルと、小さなタンスがあるだけだった。部屋の後ろに押入れがあるが、それ以外には壁に掛かった時計しかない。
誰の部屋でもない、客間か何かなのだろう。
「こっちは? どうかな?」
椎名は独り言を呟きながら、押入れを開いた。上の方に、布団が一式入っている。
それを満足そうに見て頷くと、椎名は僕と美凪を手招きして呼んだ。不安な面持ちで椎名の所まで行くと、猫背の刑事は、人の悪い笑顔を浮かべて言った。
「悪いんだが、しばらく君たちは、ここに入っていてもらえるかな? これから事情聴取をはじめるんでね」
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