第7章 二通の遺言状(6)


 僕は無意識に、ぽんぽんとこめかみの辺りを叩いた。そんな僕を、少し首をかしげて見ていた美凪が、口を開いた。

「秋緒の話って、奈々ちゃんから聞いたその事だけ?」

「あ、いや…」

 美凪がいる事も忘れて、考えに没頭していたらしい。僕は首を振って答えた。

「まだあるんだ。お前、この家に来る時、タクシーの中での会話、覚えてるか?」

「うん、覚えてるよ?」

「派手な感じの女が、ここへ来たってタクシーの人言ってたよな?」

「うん。それなら江里子さんも、彬さんも知らないって……」

 僕は更に声をひそめる。

「そうじゃないかもしれない。江里子さんも、あと脩さんも知ってるらしいんだ」

「え? だって、江里子さん知らないって!」

「しっ!」

 思わず声が大きくなった美凪の口を、僕は慌てて押さえ込んだ。

「ごめ…」

 僕の手の下で、美凪がもごもごと声を出す。そっと手を離して、軽く美凪を睨んでから急いで周りを見回す。

 奥の部屋から、人の気配はあるものの、廊下には僕達しかいないようだった。

「じゃあ…江里子さん、嘘ついてたんだ」

「そうらしいな」

 独り言のように囁く美凪の言葉に、僕が相槌をうつ。

 そしてそのまま二人して黙り込んでしまった。

 だが次の瞬間、いきなり肩をたたかれて、僕と美凪は天井を突き破るほど、驚いて、飛び上がった。

 振り向くと、青い顔をした円香が、こちらも驚いた顔で固まっている。

「あ……ごめんなさい……そんなに驚くなんて…」

「いや、ごめん。こっちこそ」

「円香ちゃん、起きたんだ? 大丈夫?」

 美凪が聞くと、円香は小さく頷いた。

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