第7章 二通の遺言状(5)



 一番奥の部屋に、皆が集まっているようだった。

 僕と美凪は、その部屋から少し離れた場所にあるトイレの前へ移動する。トイレを覗くが誰もいなかった。

 トイレを背に、僕は周りを見回しながら、声を抑えて美凪に聞いた。

「…何だ? お前の話って」

「あ、うん…」

 美凪も僕と同じように、しきりに周りを気にしながら、囁くような小声で答えた。

「あたしさ、円香ちゃんと寝てたじゃない?」

 僕は無言で頷く。

「その時さ、円香ちゃんが変な寝言を言っててさ」

「寝言?」

 眉をひそめて聞き返すと、今度は美凪が無言で頷いた。

「そう寝言。あのね、やめておじいさまって……そう言ってたんだ。絶対だよ」

「やめて…おじいさま?」

「確かだよ。すんごいうなされてて」

「やめて……か」

「円香ちゃんって、おじいさんに贔屓されてたんでしょ? 変だよね?」

「……ん…ああ」

「秋緒?」

 僕は美凪の話を聞いて、ひとつ思い出したのだ。昨日の晩、奈々から聞いた話だ。

 奈々が言っていた、円香は東郷 正将に苛められていたというのは、本当の話だったのかもしれない―――。

 僕がその事を話すと、美凪は大きく何度も頷いた。

「そうかも! ううん、きっとそうだよ」

「…ああ」

 確かにそこは繋がりそうだが、これが東郷 正将の事件と、今回の事件にどう関わるのかわからない。

 というより、関係ない気もしてきた。

 どうしても事件に関する何かが掴めない。

 本当に僕は、こういう仕事には全く向いていない―――。

 父ならもうこの時点で、犯人の目星はつくのだろうか?

 東郷 正将の死と、弘二の死は繋がっているのだろうか?そうだとしたら誰が?何の為に?二人が死んで、得をするのは誰だ?円香か――――?

 そこまで考えて、いや違うと訂正する。

 東郷 正将の死はともかく、弘二は関係がないだろう。



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