第4章 円香(2)
円香の話を、僕と美凪は、何も言わず何も聞かずに聞いていた。円香は話しながら、その時のことを思い出したのだろうか。少し青ざめた顔をしている。
「で、その東郷さんは、首をつって自殺をしていたんだね?」
僕がそう聞くと、円香はわずかに頷いた。
「あの後、わたしの悲鳴を聞いた皆が来て……おじい様はもう死んでいると判ったの」
「そうか……」
東郷 正将の死体の第一発見者は、円香だったらしい。
僕はその現場となった部屋を見たかった。すると、円香の方から口を開いた。
「その、おじい様の部屋へ行ってみる?」
僕と美凪は、同時に頷いた。
僕達は円香の案内で、東郷 正将の部屋へと向かった。
カラカラと襖を開けると、少しかび臭かった。たぶん正将氏が亡くなってから、この部屋へは、誰もあまり、近づいてはいないのだろう……。
確かに、首吊り自殺のあった部屋へは、僕だって入りたくはない。
「ここなんだけど……」
円香が、部屋の中央に立って、上を差した。僕と美凪は、円香の指差す方を見た。
板張りの天井の一部が、小さなドアのようになっていた。
「…屋根裏?」
僕が聞くと、円香は頷いた。
「おじい様のこの部屋にだけあったらしいの。実はわたし達、誰も知らなくて……あそこの小さい取っ手の所に、紐が括られてて、その…おじい様が……」
「ふうん…」
今まで誰も、屋根裏の事を知らなかったというのは奇妙だったが、取りあえず僕は、その屋根裏を見てみたかった。そこで、円香に聞いてみたが、今はしごが無いのだという。
「一体、何があったんだろーね」
美凪が言うと、円香が部屋のスミへ行き、そこにあったダンボール箱を開いた。
「それなら、これ。屋根裏にあった物を入れてあるの」
「へえ?」
色々、期待して見たが、中に入っているのは昔着たらしい着物が数着と、戦時中の時の物らしい兵隊服やお守りがあるだけだった。
「これだけ?」
「うん。警察の人が来た時に、上にあった物を全部降ろしてくれたの」
「そっか」
僕は、ダンボール箱のふたを閉めると、もう一度上を見た。
「はしごもないのに、正将さんはどうやってあそこに紐をくくりつけたんだ?」
「それは、あれを……」
円香は、今度は押入れを開けた。
上の段には布団がたたまれて入っている。そして下には小さな椅子と碁盤が入っていた。
「この碁盤の上に、椅子を置いてつけたらしいの」
「じゃあ、事件の時、この二つがこの中じゃなくて、部屋の中央に置いてあった訳だ」
「うん」
碁盤は重く、大きな物だった。この上に椅子を乗せれば、背が低くない限り届きそうだった。成る程、話を聞くだけでも自殺にしか見えない。
今まで大人しく、僕と円香のやりとりを聞いていた美凪が、突然口を開いた。
「ね。もしかして密室事件!?」
「――は?」
何を言い出すかと思えば……。
「あの。ここは全部が襖だし…。その、密室にはならないと思うの」
「そっか!」
バカだこいつは! 僕は頭を抱えた。
「恥ずかしい奴だな! お前は黙ってろよ!」
「何だよ、その言い方~」
僕達がそう言いあっている時、廊下とは反対側の襖が開いて、見知らぬ男が顔を出した。
「ん~? なんだ~お前らは……?」
ツンと、酒の匂いが鼻をついた。顔も少し赤い。
「おじさん……。あの、この人たち探偵さんなのよ」
「へえ? ガキじゃねえかよ」
男は、じろりと僕と美凪を見たが、興味を無くしたのか、その後は何も言わず、部屋から出て行った。
「…今の人は?」
「弘二おじさん。お父さんの弟の…」
「ああ…」
無職でこの家に居候状態だという人だったはずだ。昼間から酒を飲んでいたらしい。
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