第2章 鎌倉へ(4)


 東郷家の門の前にいた男は、スポーツカーに寄りかかった格好で、にやにやと笑っている。金髪に染めた髪を肩まで垂らしている。耳にはピアスをした派手な男だった。

「よ! センセ。久しぶりじゃん」

「あ。彬さん! お久しぶりです」

 江里子は、荷物を足元に置くと、ぺこりと頭を下げた。

 彬――というのは、長女万砂子の息子で、大学生という人なのだろう。

 僕が彬を見ていると、彼と目が合った。

 すると彬は、あごをしゃくって、

「んで? こいつら、何?」と、聞いてきた。

 江里子が慌てて、僕らを紹介する。

「あ、はい。この人達は探偵さんです。秋緒くんと、美凪さん」

「遊佐 秋緒です。よろしく」

 僕も、かばんを足元に置いて、頭を下げた。

 美凪はというと、僕の後ろに隠れるようにしながら、僕と同じように、おじぎをした。

「ふうん? 若手とは聞いていたけど、お前ら俺より若いんじゃねえの?」

 そう言って、彬は僕達に、不審そうな目を向けた。

 江里子がまた慌てた様子で、説明する。

「あの……、この人達は、助手で…先生は後から……」

「なあ。お前も探偵なのかよ?」

「え? あたし?」

 彬は、美凪に興味が湧いたようだ。

 いきなり、美凪に声をかける。

「そうだよお前。な、暇ならこれで海にでも行かねぇ?」

 そう言いながら、彬は青いスポーツカーを指差した。

 ナンパなんだろうか?

 美凪を見ると、きょとんとしている。

 だが、すぐに、

「や、やだよ!行かない!!」と、叫んだ。

「………」

 こんな断られ方は、今までなかったのだろう。

 今度は、彬がきょとんとしている。

 僕は内心、可笑しかった。



 と、その時だった。

「誰かいるの!?」

 門の戸が、重そうに開き、中から中年の女性が顔を出した。

 化粧のせいだろうか? キツイ感じの人だった。

「奥さま!」

「あら。岡さんだったのね。……彬さんもお久しぶり」

 彬は、無言で手をあげた。


 奥さま―――。


 という事は、円香の母親である、東郷 悦子だろう。

 元スナック経営、というのも、なんとなくわかる。すると、悦子は僕らに気付き、江里子に尋ねた。

「岡さん。その子達はだれなの?」

「あの。遊佐先生の助手の方で……先生は、後からいらっしゃる事に…」

「助手ですって!?」

 悦子は目を剥いて、叫んだ。


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