第78話 文化祭最終日

前回から引き続き、トムは呆然としていた。だが、突然背後から肩を掴まれ、声をかけられる。


「すずや〜……」


と、トムのクラスメイトである鳩山祐子にくぐもった声で話しかけられる。

普段は異常なほど明るく、何にも考えていなさそうな彼女であるのに、今にも泣き出しそうな彼女の様子は珍しい。トムはそんな様子の彼女にいつものように接することはできなかった。


「え、は?……」


トムは唖然としてしまう。今、彼女に何があったのか?今の彼女になんて声をかければいいのか?トムにはわからなかった。


(ど、どうすればいいんだ?こういう時、将悟ならなんて声をかける?相談マスターのあいつならなんて声を……!!)


トムは何かを思いつき、泣くのを我慢している彼女の両肩を掴み、


「どうした!!なんでも俺に言ってくれ!!」


と、彼女に叫んだ。いきなり大きな声を出された祐子はビクッと肩を震わせた。

何があったのかわからない。けど、『ここで声をかけなければ』と思ったのだ。とりあえず話を聞かなきゃと思ったのだ。一人のクラスメイトとして。


「……。ププッ、あはははは〜。鈴谷、本気マジになりすぎー。プププッ」


「はぁ?……どういうことだよ!?」


「いやー、困ってたのは本当なんだけど、なんて声をかければいいのかわからなかったから」


と、彼女は笑いながら言う。少し涙を拭っていたが、先程の涙なのか笑いすぎての涙なのかの区別がつかなかった。

トムは少しイラッとしたが、すぐに冷静を取り戻した。なぜなら、


「ま、鳩山が本当に泣くわけないし、いつものお前の方がいいしな。で?何困ってんだ?」


とトムは煽りをした。祐子は馬鹿にされたのになぜか笑って、


「いやー、三月ちゃんがどっか行ったちゃったから、トム、一緒に文化祭回ろ!


「ま、いいよ。ほかのみんなはまだシフト入っているだろうし」


トムは承諾し、祐子と一緒に回ることにした。

と、その二人を陰から見守る女がいた。その女は、


「いいね、いいね。いい具合に文化祭回れそうじゃん」


深谷三月だ。実は祐子と途中で離れたのは彼女がこの二人を近づけされるための作戦。そして、事前に祐子にこう助言していたのだ。


(もし、誰かに話しかけるのを困ったときは目薬をさして、上目遣いで話しかければいけるよ)


と。そう、つまりは全てこの女、深谷三月の作戦だったのだ。


「ふふふ、今は文化祭のテンションでなんとか冷静を保っているだろうけど、今後が楽しみだ!」


三月はそう言いながら不敵に笑った。

そのまま時間はあっという間に過ぎ、トムの文化祭最終日は終わりを迎えた。

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