第77話 一週間後の試合
「えーっと。つまり、お前は中学生の時サッカーの試合をして、ボロ負けさせられた陸斗へ腹いせに来たと」
トムは十神瞬にいろいろ事情を聞いたあと、十神の話がまとまっていなかったのでわかりやすくするために自分で状況を整理した。
「腹いせじゃないよ。ただ僕は陸斗くんに挨拶をしに来ただけさ」
十神はそう言うと、ニコって笑った。その笑顔には明るさの影に隠れた何かを感じさせるような雰囲気が染み出ている。トムは全く気がつかなかったが。
「それで陸斗くんはどこにいるの?現役引退しちゃった陸斗くんは」
「ああ、今陸斗はクラスの出し物のシフト入っているからしばらく出てこれない」
「へー、残念だなー。……じゃあ、僕は帰るとしますかー」
「え?話があるんじゃないのかよ」
「いやー、実は今日、午後から練習試合なんだよね。さっきもマネージャーに電話で呼び出されちゃったし」
「はぁ、そうなんだ」
「じゃあ、陸斗くんにこう言っといてくれる?この文化祭の一週間後、君たち会科高校サッカー部と試合があるから、その試合君が助っ人として出てねって」
と、十神は言うと、彼が背負っていたショルダーバックから振動が鳴る。おそらく携帯の着信音だろう。
「やば、そろそろ本気で怒られる。じゃあね、鈴谷くん」
「え、っと。じゃあね」
しばらくトムは呆然と十神が走り去る姿を眺めていた。
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