第79話 大和たちの文化祭

トムと鳩山が一緒に文化祭を回っている頃、あえて空気を読んで近寄らない将悟、大和、陸斗。本来ならばこの三人は深谷三月と同じようにこの二人の後ろをついて回るつもりだった。今後、からかうための材料集めのために。

しかし、彼ら三人はある者に追われていた。


「なんであの人いるの?」


「わかんない。けど、陸斗。あの人と仲良く和解したんじゃなかったかよ」


「別にしてない」


彼ら三人は今、『あの人』と呼ばれる人が絶対に入って来れない男子トイレに身を潜めている。この広い校舎の中、そして文化祭によって沢山の人が来ているのにも関わらず、『あの人』からは逃れることは難しいと判断したからだ。


「い、一応、外見てみる?」


と、将悟は提案をした。しかし、リスクを大きいと思ったのか、首を縦に振る者はいなかった。


「でもよー、さっき見た時、目をギラギラさせながら捜してたよなー。あれはめっちゃ笑えるぜ」


大和はこんな状態でもヘラヘラと笑って言った。


「いやー、あれは笑えないよ。血眼になってまで捜してたよ。恐ろしいにもほどがあるよ」


将悟は大和の言葉を訂正するように言った。

三人はなかなか男子トイレから出ることはできなかった。しかも、別に用を足すわけではないし、特に何もすることはなく、ただ話しているだけ。たまにトイレに入ってくる人たちが白い目で見て、出て行く。

もうこんな時間はこりごりだ。そう思った矢先、見知った顔が三人の隠れているトイレに現れた。

「あ、お前ら。何やってんだ?」


現れたのはトム……ではなく、トムと同じ中学校出身の夜行進やこうすすむだった。

相変わらずに黒く長い髪を後ろに束ね、前髪は目が隠れるほどに長く伸びきっている。きゃしゃな体つきをしているが、早歩きが異常に速かったりと少し人間離れしているところがある。


「夜行、お前が学校に、しかも文化祭の日にくるなんて珍しいな」


大和は夜行に詰め寄った。この前にあったときに小馬鹿にされたから、少し苛立ちを隠せないでいる。


「いやー、だって暇でよー。なんとなく来てみたくなっちまった。何か悪いか?」


夜行は途中まで明るい声で話していたが、声色を変えて言った。


「……ごめんごめん。冗談冗談。みんなのものだしな、文化祭は」


「あー、そういえばよー。トイレの前に見張っている女性に『中の人連れてきてもらえますか?』って言われたんだけど、お前らのことか?」


「はぁ!?今そこにいんの?ヤベェーじゃん」


「んじゃあ、俺はこの辺でー!!」


夜行は用を足すとそのままトイレから出ていった。後ろを気にすることなく。

大和たちの文化祭はトイレでずっと身を隠していると、文化祭終了の連絡が放送され、何もすることはできなかった。


会科高校文化祭。これにて終結。




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