第72話 毎日
「バーベキューだー!!!」
「ちょっ!!そんな大きな声出すなって!!」
そう。前回、突如決まったバーベキュー。トムたちは誘う予定の全員を見事誘うことができ、総勢10人だ。しかし、バーベキュー場の予約が取れず、川口の家の庭でやることになった。彼の両親は金持ちであるため家は大きく、庭も広いが、夜に始めてしまったので大声を出すことができないのだ。
「どうする?別の日にする?」
「うーん......確かに大声を出したいしね。あっ!!陸斗もう焼いているし!!」
トムと将悟が相談を始めようとした時、陸斗は勝手に準備してあった肉を焼き始めた。しかし、その肉の匂いにつられてしまったのか、トムと将悟は少し深く考えた後、
「やっぱ、バーベキュー開始ー!!」
と、トムと将悟は思いっきりその場にあった肉たちを鉄板の上に滑らせるように並べた。バーベキューの台3つあり、そのうちの1つを彼らの肉で埋め尽くしてしまった。
「おい!!もうちょっと考えておけよー!!」
一応、自分の家であるため少し威張れる川口は多少聞こえるような声で叫ぶ。しかし、彼らの焼いている音により、相殺されてしまっているのだろう、全く聞く耳を持つそぶりを見せない。そんな感じの2人にため息をついた川口のとなりにスッと現れたのは、
「良太郎おぼっちゃん近隣の住民の許可をもらってまいりました。多少の騒音は大丈夫かと」
川口の執事だった。彼は夏休みにこのバーベキューに参加している女子2人と大人2人を抜いた男6人、執事を合わせたら7人で旅行した時の執事だった。使用人は彼しかいないようで、この仕事を終わらせたら、また別の仕事があるのだろう。早めに戻りたそうだった。、
「ありがとう執事。いや、出雲」
そんな彼に見兼ねた川口は感謝を添えた言葉で仕事に戻ることを促した。
「ありがたきお言葉。では、お坊ちゃんも素敵なお友達と存分にお楽しみください」
そういうと、くるりと反転し家の中へと戻っていった。川口にはその背中はどこか大きく、どこか眩しく見えた。しかしそれと同時に少し寂しそうにも見えた。
「みんなー!!無事に隣人たちの許可が取れたし、存分に楽しめるって!!」
「おおー!!さすが!!」
と、トムが鉄板からとった肉を割り箸で上に上げながら、肉をほぼ張りながら言う。やはり口の中にものが入ったまま喋ると、声が口の中にこもってしまっていたが、別に気にする人はいなかった。
「執事さんは混ざらないの?」
しれっと肉を食べていた祐子はトムの横から顔を出し、川口に尋ねる。
「今、トムの妹を迎えにいったんだ」
川口は敷地を区切っている白いコンクリートの壁に色があっている門の方を指差しながら言った。そして、その近くには夏休みの時にトムたちが乗ったあの車が出発するところだ。しかし、彼女はそんなことには目もくれず、今の川口の言葉に、
「って、えー!?トムに妹いたの!!」
驚いていた。しかし、驚いているのは彼女だけで、他のみんなはそこまで驚く反応を見せなかった。
「え!?もしかして知らないの私だけ?」
周りの反応に気がついたのか、さらに驚きを隠せないようだ。それを見かねたのか三月が祐子に近づいていき、哀れむような目で肩に手を置いて、
「そうだよ」
「そんな......」
ガッカリして脱力した祐子は箸で掴んでいた肉を誤って地面に落としてしまった。
「それでその子はここに来るの?」
そんな祐子を横目で見ながら、トムに聞く大和。
「うん。ちょっと人見知りなところがあるんだけどさ」
と、言っていると、トムのケータイに電話がかかってきた。登録していない電話番号からだったが、かけてきた主は予想できていたので構わず出た。
『もしもし。川口様の執事の出雲でございます』
「どうしたんですか?電話なんかかけてきて」
『鈴谷様の妹様があなた様に電話をかけたいと申されたので、お電話をさせていただきました。では、妹様にお電話を変わらせていただきます』
「え?はい、お願いします」
と、電話の向こう側で変わってから、トムとトムの妹との会話は1分もかからずに終わった。
「なんて言ってたの?妹......さん」
今、初めて知った祐子は少しトムの妹を馴れ馴れしく呼べないのか、[さん]付けで呼んでしまう。
「なんか、どうしても行かなきゃダメなの?とか言ってた」
「それで?」
「なるべく来てって言った。あいつ人見知りだしね。ってさっきも言ったか」
トムの言葉にトム以外の全員衝撃が走ると同時に沈黙する。そして、全員が同じことを思っているのだろう。そんな状況にトムは変なこと言ったのかと思ってしまっている。そんな中みんなが思っていることを口に出したのは大和だった。
「トムって意外と妹思いなんだなーって」
と、突然言われてトムは少しの間言葉の意味の考えた後、少し頬を赤らめて、
「いやいやいやいやいやいやいやいや、今日は特別なんだよ。えーっと、お母さんが夜勤だから」
手を顔の前で横に振りながら、すごい勢いで否定する。その振っている手の近くに行くと強い風を感じるくらいだ。遠くで見ていた大宮唯と赤毛はその時思う、
(ツンデレだなー)
っと。
その後彼らは遊び、食べ、騒いだ。このバーベキューを終わらす方法としては、彼らが疲れ果てて眠るくらいしかありえない。トムの妹が来てからは少し静かになるかと思ったが、思ったよりかわいい容姿に余計盛り上がってしまう原因を作ってしまったのだろう。しかし、彼らは寒空の中そのまま寝落ちしてしまった。明日普通に学校があるのも忘れて。
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